1.アバンタイトル
ナレーション「(『松明あかし』は)政宗の須賀川城攻めで滅んだ二階堂勢の霊を慰めるために始められたもので……」
おぉい、今、サラッと凄いことを言ったぞ。
主人公が滅ぼした相手の霊を弔う祭をアバンタイトルでやる。現在の大河では想像もつきませんね。現在の大河では主人公が絶対正義であり、逆らう者は太平の世に仇なす悪として描かれるからです。笑止千万。歴史がそんなに単純な善悪二元論で語れるワケがない。主人公にも欲がある。その欲を叶えるために業を背負う。その業をアバンタイトルという第三者の視点で冷静に語る。毎度毎度、本編の出来に余程自信がないとできないアバンタイトルをやってくれます。
2.対比
悲嘆に暮れる領民の声に耳を傾ける竺丸。これ、単純に政宗不在の間に竺丸派が発言権を強める契機としての意味の他に政宗襲撃事件との対比もあると思います。竺丸の行動は領主の一族として慈悲深い行いではあるのですが、輝宗の一件のように相手がよからぬコトを企んでいる輩で危害を加えられる可能性を考えると軽率の誹りを免れ得ないんですね。政宗は何とか自力で撃退できたので、自分で自分のケツを拭くことができましたが、竺丸の武芸が兄に及ばないのは以前の稽古の場面で描かれた通り。そんな竺丸が不用意に身近に人を近づけ過ぎるのは危険なコトである。それゆえ、本編では人と人の間に何人もの取次が入る。そして、それが人間関係を時に円滑に、時にギクシャクしたものにしてゆく。これが人の世のありようでしょう。ちなみに政宗を襲った刺客を演じたのは大河の殺陣指導で有名な林邦史朗さん。現在の大河でも現役で殺陣指導をしておられます。まさに大河の生き証人。
3.人質の意味
重臣の死を賭した諫言で最上との和睦に傾いた主人公。この時代は正論を唱えるのも生命賭け。それゆえに登場人物の言葉に重みがあります。
さて、そんな政宗の意向を知ったお東の方の喜びようときたら。まぁ、自分のコトを憎んでいると思っていた息子が自分を頼ってきたのですから、これは『ママ、張りきっちゃうからね!』となるのもムリはありません。上記の竺丸の一件の時よりも志麻姐さんの声が弾んでいました。ちょいと凄いのは、お東の方が独自の最上との対話ルートを持っていること。以前は商人を雇って秘密裡に書状を送っていましたが、イザ、公の決定となれば即座に意志疎通できるパイプがある。これが、お東の方が伊達と最上に隠然たる勢力を有している理由でしょう。戦国時代の人質の役割ってそういうことだよね。何かあったら殺されるだけの哀れでか弱い存在みたいな価値観だけで描かれる昨今の大河は【繰り言です】。そんな存在が大名同士の間に割って入っても相手にされる筈がありません。まぁ、お東の方はリアルで割って入っちゃうんですが。
4.お東、居座る
あまりにも素晴らしいサブタイなので、本稿でも使わせて頂きました……というか、他に表現の仕様がない。ガチでリアルな出来事ですからね、これ。メインイベントだけでも見応えあるのですが、その前フリの兄妹二人だけの交渉シーンの濃厚なこと濃厚なこと。親族の情義に東北の情勢、更には越後の動向までをも盛り込んだ会話。お東の方の言葉には情と理の双方で説得力に富んでいました。これ、ヘタをすると台詞に俳優の演技や雰囲気がついていかずに浮いちゃう危険があるんですけれども、流石に原田さんと志麻姐さんは格が違いました。二人きりの説明重視の会話劇にも拘わらず、全く退屈も興醒めもさせないのな。視聴者としても、ここまで頑張ったんだから、お東の方が両軍の間に居座っても仕方ない……というか、是非、そうして下さいと思えます。全く以て、今回の話はお東の方が正しいんですよ。伊達も最上も目の前の危険を冒してでも体面に固執してしまう。しかも、その体面が如何に大事な時代であるかも丁寧に描いてきたので、彼らの気持ちも判るというのも怖い。そのうえでお東の方が両軍の間に居座るからこそ、彼女の影響力の大きさが際立つんですね。
それにしても、お東の方の居座りを聞いた時の主人公の反応は最高でした。
山家国頼「一昨日、お東さまが中山峠の頂上に登られ……そのまま居座っておられます」
![地上最強の警官](https://stat.ameba.jp/user_images/20140802/22/zeppeki-man/89/ef/j/o0480031013022466174.jpg?caw=800)
山家国頼「『合戦に及びたくば、まず、妾の首級を討ち取るがよい!』と……」
伊達政宗「たぁけ! 何故、引き戻さんのだ!」
と家臣を怒鳴りつけながらもまんざらでもねぇという感じの表情を浮かべるのがイイ。母親が息子の愛情を求めているように、息子のほうも母親が自分のために危険を冒してくれたことが嬉しいのでしょう。何度も繰り返すように本作は政宗とお東の方の半世紀に渡る愛憎ホームドラマなんですね。
一方の兄貴のほうも妹にはメロメロで、
最上義光「しゃしゃり出るのもいい加減にせい! あくまでも俺に楯突くならば、たとえ、妹といえども容赦はせぬ! 真っ先に血祭りにあげるが、それでもいいか!」
とかいいながらも結局は妹に猶予を与えてくれるんですね。これ、本作では原田さんの雰囲気たっぷりの演技のおかげでふてぶてしくも度量のある兄貴として描かれていますが、実際は、
「天正16年(1588年)の大崎合戦では、政宗が義光によって包囲され危機的な状況に陥った。このような状況において、義姫が戦場に輿で乗り込み、両軍の停戦を促した。義光は諸大名の手前、和睦は屈辱であることこの上ないと感じたが、妹の頼みを断ることができなかった。このため、80日ほど休戦の後に両者は和睦している。この後、義光は伊達・大崎間の調停に努めるが、伊達側は最上側に不信を抱きなかなかうまくいかなかった。この時、義光が義姫に間を取り持つよう哀願した書状が残されており、義姫が兄から深く信頼され、かつ伊達家において発言権を持っていたことが分かる」(Wikipediaより抜粋)
というのが定説。尚、赤線太文字は管理人の注釈です。モガミンが可愛過ぎて生きるのが辛い。何かもう、今回のモガミンの妹に対する台詞の最後には悉く「///」がついているように聞こえてしまったのは明らかに先入観に毒されている所為でしょう。
ただし、これも何度も述べていることですが、主人公が天下に名乗りをあげるに最も足枷となるのが、お東の方なんですね。血の縁は今回のように助けになることも多いが、天下を手に掴もうとする者には大きな妨げになる。あそこは血縁、あそこは親族と戦う相手を選んでいては奥州には何時まで経っても統一勢力が誕生しない。結局、何処かで血の縁を絶ち斬るしかないのですが、何せ、相手は伊達と最上の間にリアルで割って入るほどの女傑。しかも、彼女が政宗の雄図の前に立ちはだかるのは我が子への愛情ゆえなんです。それだけに始末に負えない。まさにラスボスであり、今回は政宗が越えなければならない壁の大きさが描かれた内容でした。ちなみに本作で政宗が血の縁を乗り越えた方法は……っと、ここから先はネタバレですね。実に母親似であったとだけいっておきましょう。即ち、リアルで【禁則事項です】。
5.MVP
このようにお東の方の一人勝ち的な内容でしたが、実は一番心に残ったのは愛姫。彼女の実家の田村の仕置き、つまり、愛姫の母親の処遇を決めてきた政宗に向かって静かに叩きつけた一言が重い。
愛姫「……どうか、母上さまを大切になさいませ」
要するに『アンタは世話を焼ける&焼いてくれる母親が傍にいるだけ幸せなのよ』という遠回しのイヤミなんですね。その証拠に愛姫が上記の台詞をいう時に喜多が凄ぇ緊張しているんですよ。真意を知った政宗がブチぎれても文句がいえないレベルということでしょう。まぁ、政宗も己の感情を押し殺して微笑んで見せているので、愛姫の真意は伝わっているということなのでしょうが、夫婦の間でも何かを伝えるのが生命掛けというのが、本作が現代社会とはかけ離れた世界が描かれていると実感できる場面でした。こういう積み重ねが物語のリアリティとファンタジーを同時に構築しているのでしょう。
松明あかし―須賀川・二階堂家の悲劇と女城主大乗院の物語/歴史春秋出版
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殺陣師見参!/壮神社
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