獣の奏者エリン(再)第28話『ジョウンの死』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

先週の『ヒカラにおちて』を受けた、ジョウンの死が描かれた回でした。


①訃報届く


エリン「『昨日早朝、我が父トウサナ・ジョウンは、心の臓の病により、死去……しました……』」

エサル「短い手紙よね。必要最小限度のことしか書いていない。心ない息子だこと」


素っ気なく記されたジョウンの訃報に衝撃を受けるエリン。あまりのショックに泣くこともできない。人間、心底悲しい時はなかなか泣けないもの。悲しいから泣くんじゃなくて、泣くから悲しいのですよ。誰の作品かはいいませんが、主人公をビービーギャーギャー泣かせれば、そこが悲しい場面になると思ったら大間違いだよ。よく見ると手紙には無数の染み。これはエサルの涙の跡だと思います。

リランの世話の途中で、蜜蜂の遺骸を土に埋めてやるエリン。ジョウンの葬儀に参加できない代償行為です。悲しい。しかし、もっと悲しいのは一足早く夏休みから帰還してきたトムラ先輩。エリンに木彫りの王獣をプレゼントするも、当のエリンはうわの空。そのうえ、木彫りの王獣はリランが美味しく頂きました。アニメ版はトムラ先輩の扱いが酷過ぎる。


②エサルとの二人旅


エサルに連れられて彼女とジョウンとの秘密の隠れ家へと旅するエリン。これまではいい意味でお堅く厳しい印象のあったエサルが初めて見せる女性としての、母性としての姿。途中、一泊して温泉に入る二人。やっぱり、人間同士が腹を割って判りあうには裸のつきあいが一番です。しかし、急な旅とはいえ、エサルが愚痴っていたように宿泊先は壁も床も汚い、帽子掛けは簡単に落ちる、肉は固くて味気ない、温泉は広いが泉質が悪いと、見事なまでのボロ宿でした。このあたり、真王領の貧しさを描いていると見るのは穿ち過ぎかな?


③エリンの涙


エリン「いつか、お礼がしたいと思ってたのに、なのに、私、何も返すことができなくて……」


日常の環境から離れ、体を動かし、リラックスしたことで、漸く声をあげて泣くことができたエリン。このあたりの流れもリアルっすなぁ。泣きじゃくるエリンにエサルは『貴女がいたからこそ、晩年のジョウンは幸せだった』と諭します。確かに教導師としての志を失いかけていたジョウンの心に火を点したのは間違いなくエリン。エリンは一方的に世話になっていたように感じていますが、如何なる間関係も互いが互いを必要としなければ絶対に長続きしないものです。ジョウンもエリンからかけがえのないもの、つまり、生きがいを得たのです。


④ありがとう


翌日、辿り着いた先は若い時分のジョウンとエサルが使っていた二人だけの研究所。原作の外伝に昔のジョウンとエサルの話があるのですが、私は未読なので二人の関係がどういうものであったかは判りません。しかし、こういう二人だけの研究所を持っていた(勿論、研究が第一義ですが)ということは、それなりの仲なんじゃないかと思います。要するに今回の話は夫に先だたれた妻と娘の姿が描かれているんじゃないでしょうか。血ではなく、学問という絆で繋がった三人の親子の肖像。


エサル「『死んだら土に還るだけだ』なんていってたあの人が、おとなしくお墓に入るとは思えないし、きっと、ここにいるんじゃないかって……」


そのエサルの言葉がエリンの願望の具現化を応援したのか、エリンの目にはジョウンの姿が映ります。その姿に深々と頭を下げながら、


エリン「ありがとう。お父さん」


と感謝の言葉を口にするエリン。いい場面です。ソヨンとの別離は只管、悲しく、切ない話でした。今回のジョウンとの別離も一歩間違えれば、そうなっていた可能性があります。しかし、現今のエリンには彼女を支えてくれるエサルがいました。全く報われないにも拘わらず、エリンのことを気にかけてくれるトムラ先輩もいます。エリンはもう、一人ではない。それを承知したかのように虚空へと姿を消すジョウン。『親の死』の話でも、暖かな気持ちで〆ることができたのは、エリンの成長と環境の変化を如実に表したものだと思います。


今回は『優しい母親』の面を見せてくれたエサルでしたが、次回は一転。ソヨンに負けず劣らず、厳しい母親の顔でエリンと対峙します。タイトルは『獣の牙』。見てください!