精霊の守り人 第一話『女用心棒バルサ』感想(ネタバレ有) | ~ Literacy Bar ~

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※基本、ネタバレ有となっていますので、ご注意下さい。

『運命には勝てない。でも、運命には負けない』(アニメ版『精霊の守り人』のキャッチコピーより)


久々に観たけれども、やっぱり、素晴らしい作品、そして、素晴らしい第一話です。

確か、この第一話は本放送に先駆けた本作の特集番組で先行放送されたのですが、これを観れば、誰だって続きが気になりますよ。今回の感想は、その辺りの秘訣、つまり、視聴者を物語に惹き込む術を中心に語ってゆきたいと思います。


まずは視覚。

冒頭のシーン。国境の峠から山岳地帯の棚田、そして、道標のある平地の街道へと、主人公・バルサの背景が変化してゆきます。平凡な演出家なら、ひたすら街道のシーンだけで済まそうとするところですが、高きから低きへと風景を展開させることで、視聴者にも自分たちがバルサと共に国境の峠を越えて、新ヨゴ皇国の中心を目指しているという意識を植え付けている。それが、あまりにも自然で気づきにくい。だからこそ、スムーズに物語に入り込んでゆける。プロの仕事です。


次に主人公の魅力。女だてらに用心棒を生業とするバルサと、街道をゆく行商人との会話で出てきた台詞。

「金銭を持っていると何処にいても同じ生き方をしてしまう。金銭がなければ、その場に合った生き方ができる。それはそれで悪くない」

この一言でバルサという女性がどういう人柄でどういう生き方をしてきたか、おぼろげながらも察することができます。少なくともカタギではない、しかし、己の生き方を恥じることもない。そんな自信と余裕を、たった、数行の台詞でを視聴者に感じさせる。私がこの作品の虜になった第一の理由は、まさにこの台詞でした。


さらに、物語の緩急です。

バルサの眼前で、厳かに橋を渡る皇族の一行を乗せた牛車が突然暴走。牛車と共に第二皇子のチャグムが川に落ちてしまいます。これを救おうと川に飛び込むバルサ。どうにか、水面に浮上した二人に、濁流に乗った牛車の残骸が襲いかかる。つい、先程まで、

「ヨゴはいいなぁ。気持ちが穏やかになる」

と呟いていたバルサが突如として奇禍に見舞われるという急展開。しかも、牛車の残骸から二人を守ったのが『水の膜』ともいうべき不可思議な防御壁。あの『水の膜』は何だったのか? そう思ったら、もう、この物語から抜け出すことはできません。御愁傷様です


忘れてならないのは、味覚。

この作品の特徴の一つはとにかく、食事が美味そうに描かれていること。新ヨゴ皇国の都・光扇京の繁華街でバルサが注文した丼が実にイイ。グルメものでもないのに、ここまで、食事の描写に拘るのは『ジョジョ』とこの作品くらいでしょう。新ヨゴ皇国のモデルは一応、日本ということになっていますが、この繁華街からは明らかにチャイニーズ・ゴシックの匂いがします。さすが、押井守の直弟子・神山健治監督の作品。宮中の二ノ妃の使いから、息子のチャグムを救った礼をしたいと誘われた王宮で出された料理も、これまた、視聴者の空腹中枢を刺激します。


視聴者を惹きつける最大のもの。それは『謎』です。

二ノ妃がバルサを招いた真の目的は、息子である第二皇子チャグムを帝の暗殺者の手から生涯守って欲しいという依頼をするためでした。チャグムの躰には得体のしれないモノが憑依している。神の子孫である皇族に妖が憑依したとあっては、黙ってられないスキャンダルであり、帝は噂が広がらないうちにチャグムを亡きものにしようと画策している。しかし、我が子が殺されるのは忍びないので、息子の生命を一生守って欲しいというのが二ノ妃の申し出です『チャグムに憑依した妖とは何なのか』。これが第一の謎です。

もう一つの謎は、このような醜聞を聞いた以上、断れば口封じのために殺されるのは明白という状況で、硬骨漢(女ですが)のバルサが二ノ妃の依頼、というより、強要に応じた理由です。バルサ曰く、

「私はある事情から八人の大切な人の生命を奪ってしまった過去がある。ですから、その八人の魂を弔うべく、それと対等の生命を救うまで用心棒稼業を続けているのです」

『奪ってしまった八人の大切な人の生命』というバルサの過去が第二の謎として視聴者に提示される。この二つの謎を解明してゆくことが、この物語の主軸になるわけです。ちなみに、この場面で二ノ妃はチャグムに青光石(ルイシャ)の耳飾りを形見として渡します。この『青』という色はバルサの『赤』(恐らくは血の色)に対するチャグムのイメージカラーとして、作中で頻繁に用いられます。チャグムに憑依した妖の正体、水の精霊のメタファーであり、視聴者に対する謎解きのヒントになっているわけですね。


そして、最後に視聴者の心に訴えたのは情緒。チャグムの手をひき、立ち去ろうとするバルサに二ノ妃が尋ねます。

「バルサよ! 我が息子の生命、そなたが救う何番目の生命じゃ?」

「……八人目の生命にございます」

ここで二ノ妃は激しく後悔したでしょう。尋常の依頼であれば、用心棒稼業は掛かってくる敵を退けるか、対象を目的地まで護衛すれば仕事は終わる。しかし、今回の仕事はチャグムが天寿を全うするまで続けなくてはならない。二ノ妃の依頼は、あと一人で誓いを果たせるところまで漕ぎつけたバルサの一生を縛ることになってしまったわけです。チャグムと二ノ妃の母子の別離という、通常なら最も視聴者の情緒に訴える力を持つ場面に、バルサを絡め取った運命の残酷さを上乗せすることで、さらなる切なさ、やるせなさをかきたてます。

『運命には勝てない』

というキャッチコピーを想起せずにはいられません。

追っ手の目を晦ませるため、チャグムの寝間に放たれた炎をバックに画面の『こちら側』に向かって逃走するバルサとチャグムの姿で、第一話は〆。原作者の上橋菜穂子女史は、ある映画で『炎をバックに子供を抱えて画面に迫ってくる女性』の場面を見て、この作品を書き始めたということですが、そのシーンで第一話を終わらせるというのが心憎い。


あぁ、何かもう、思っていることの十分の一も伝えられない。感想を書くことの難しさと自分の至らなさを痛感しています。それでも、めげずに続けていく所存ですので、これからもお付き合い頂けると幸いです。


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