小説 晩節―密命・終の一刀〈巻之二十六〉  佐伯泰英 | てんつぶ

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密命シリーズ26、最終巻。

 

あれから五年。

上覧剣術大試合の覇者となった清之助は吉宗御側衆の一員として三千百石で召し抱えられ、幕府道場にて剣術指南している。

大岡忠相の養女となった葉月を娶り一男一女も授かっていた。

結衣も跡部弦太郎に嫁ぎ、独りで暮らすことになったしのは飛鳥山の菊屋敷に移り住んでいた。

神保桂次郎の菩提を弔いに京へ向かったであろう惣三郎は行方知れず。

残された家族らは幸せの中でも寂寥を感じていた。

 

清之助は大目付という重職の下命を受ける。

その際、何故惣三郎があのような行動に走ったのか大岡の口から真実が語られる。

五年前、惣三郎の先妻で清之助の母あやめにバテレンの血が混じっているという長崎奉行所御目付隠れキリシタン探索方から書状が出された。

尾張徳川御陰衆のお頭・安濃力蔵の謀略であった。

しかし策略であっても血筋の疑惑が広がれば、清之助の大試合出場はおろか金杉家の存続に暗雲が立ち込めるであろうと予測された。

それを消し去る妙策として惣三郎はあのような奇行に出たのだという。

 

惣三郎は豊後相良藩の山奥で隠れ住み、2年余り金杉家と深井家の菩提を弔い続けていた。

墓守の留吉に見られ、藩主・斎木高玖の知るところとなる。

再会を果たした主従。

今後は豊後相良に永住するよう願う高玖。

だが剣客として背負った恨みや尾張の暗躍が藩や家族に及ぶことを懸念する惣三郎であった。

 

安濃百三郎率いる一団に襲撃された惣三郎は決着をつけるべく尾張名古屋へ向かった。

 

尾張では徳川継友が亡くなり跡を継いだ宗春が吉宗の倹約令に逆らうような施政をおこなっていた。

吉宗の特命で大目付として名古屋へ尾張徳川の実態調査に向かった清之助と家臣の佐々木次郎丸・三郎助兄弟。

 

会うことなく時を同じくし名古屋に入った惣三郎と清之助親子であった。

泊まった旅籠を安濃百三郎らに襲われるも返り討ちにする清之助たち。

出会った三郎助に大岡宛の書状を託した惣三郎は安濃一味の本丸御蔭屋敷に乗り込む。

満身創痍になりながらも次々と屋敷の仕掛けを潜り抜け、遂には頭の安濃万蔵と寒月霞斬りで差し違える。

惣三郎が身罷った。

 

江戸で吉宗に調査報告する清之助。

大岡から惣三郎の書状内容を知らされた吉宗。

清之助から大目付の任を解き、改めて吉宗の剣術指南役を告げる。

惣三郎は死をもって吉宗の密命を清之助が背負うことを回避させたのであった。

(完)