小説 覇者―密命・上覧剣術大試合〈巻之二十五〉   佐伯泰英 | てんつぶ

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密命シリーズ25。

 

前夜、ようやく清之助は石見道場を訪れて知己らと顔を合わす。

道場へは付き添い予定の鹿島道場師範・梶山隆次郎がおり、め組や冠阿弥そして金杉家の女衆の姿もあった。

そんな中、吉宗の呼び出しがあり、惣三郎が江戸に帰着していると告げられる。

その惣三郎と桂次郎は尾張藩江戸屋敷で静かに当日を迎えようとしていた。

 

試合当日、昌平坂の学問所に選ばれし44名の武術家が集結した。

11名が東西南北4組に分かれて勝ち抜いてゆかねばならない。

享保の剣術大試合で勝者を出した尾張柳生の一番手である柳生駿河守秀直(24巻で惣三郎が倒した柳生秀直は偽物)と次席だった清之助は一回戦が免除。

冠阿弥から、出奔前に惣三郎が清之助に宛てて預けたという太刀・備前国長船兼光を受け取っていた。

父の意図を勘案しながら練習場で時を過ごす清之助。

そこに惣三郎と桂次郎が姿を現し、互いに健闘を誓いあう。

ただ柳生の里以来に見る父の姿は驚くほど老いていた。

 

尾張柳生代表の柳生秀直と神保桂次郎、金杉清之助の三名が決勝まで勝ち上がったのだが、桂次郎は三回戦で首に傷を負い、四回戦でさらに深手を負っていた。

柳生秀直と清之助が闘い、その勝者と桂次郎で覇を争うことになるのだが決勝戦を待たずに桂次郎の命は尽きてしまう。

清之助が勝利を収め、不戦勝で覇者となる。

惣三郎が打倒清之助にと育て送り出した桂次郎と剣を交えることはなかった。

 

だが、吉宗は清之助を称える広間に惣三郎を呼ぶ。

そして、この場にて親子で勝負し真の勝者を決めよ、と告げる。

寒月霞斬りと霜夜炎返しが交差し、峰に返した清之助の兼光が惣三郎の肩を砕く。

 

吉宗はもらす。

「金杉惣三郎、切腹は許さぬ」

そして

「継友どの、金杉惣三郎がこと、これで許されよ」と。

 

長きに亘る江戸と尾張の争いに終止符は打たれたのか。