火星の隠された場所 7 |  ZEPHYR

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ゼファー 
― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「見込み捜査だと……」
 三崎は語気を荒らげた。

 それを観鈴は手を上げて抑えるそぶりを見せた。
 彼女の足もとに、ベガが近寄って、しきりと匂いを嗅いでいる。

「それで、女が犯人だという理由は?」

「一つは、事件当日の太陽のサビアンシンボルが『先祖の井戸にいるサマリアの女』というものだったことです」
 那智はPC画面にホロスコープを出し、前回と同じように見せた。

「サビアンシンボル……星座の一度ずつに詩文的な意味を与えた前衛的な占星術技法ですね」
 観鈴の言葉は、他の者を驚かせた。
「その訳はジョーンズのほうですよね」

「ご存じでしたか。ルディアのものでも『サマリアの女』です。どっちにしても、女を暗示しています」

 ――この人、占いのこと、知ってるんだ。

 その知的な印象からは想像もつかなかった。那智と普通に会話しているが、紗与里やもう一人の三崎刑事はさっぱりわけが分からなかった。

「それだけが犯人が女だという根拠ですか」

「もっとも大きな根拠は、タロットです。これも先日、お見せしたものですが」

 那智はPCに保存しているタロット画像を提示した。


「このタロットは首をありかを尋ねたものですが、結果的に事件の起きた状況や関係者も表示しています。
『吊るし』の逆位置は、殺された老夫婦。
 その下にあるのが『女帝』です。
『女帝』は『神の家』の逆位置を見ている。

 この『神の家』は逆になることで下から火がついている構造になっていて、放火を意味します。
 つまり被害者を吊るした……この場合は殺したという解釈でいいと思うのですが、その犯人は『女帝』で表現されうる人物で、その人物が当然、放火にも関係しているわけです」

「その女性がこの犯行を行ったと?」

「ですが、たぶん単独犯ではありません」

「単独でない?」

「『神の家』の下にあるのは、『力』と『斎王』です。ここにも二人、女性に関するカードが出ています。
 たぶん『斎王』は母親で、犯人は助けを求めたのでしょう。
 あるいは母親が事態に気づき、状況をコントロールした……。

 このカードでは逆位置のカードの下に、必ず女性のカードがあります。
 女性が犯人としか思えない。

 老夫婦を殺した犯人、そして首を切り放火するとい隠ぺい工作を行った人物が、ほかに一人か二人いるはずです」

「右上のカードも女性ですね。『星』のカードですね」

「これは瓶を首に見立てています。二つの首を水の中に捨てたという行為を示していますが、これを行ったのも女性です」

「女性以外、犯行グループにはいない……? そうお考えですか」

「おそらく。たぶん比較的近所に住む女性で、この老夫婦に恨みを抱いていた、あるいは利害があった人物。それが最初の殺害犯で、その犯人の女性を助けるために、母親や他の家族が協力しています」

「犯行の手口から、警察は最初から男性による犯行だと断定していたむきはあります」

「それが初動の失敗でしょう。最初から女性を視野に入れて捜査していれば、あるいは……」

 ひらっとベガが机の上に舞いあがった。
 そして、観鈴のほうに顔を近づけた。

 目がすごく見開かれている。

「可愛い猫ですね」
 観鈴は手を出した。

 パシッ、とベガの猫パンチが、観鈴の愛撫を拒否した。
 ぐるる、と喉の奥で威嚇する。

 観鈴はあきらめて手を引っ込めた。

 ちょっと紗与里は痛快だった。

 ザマミロにひひ
 その猫はなあ、そんなに簡単になつくようなタマじゃないんだ。
 あたしだって、まだぜんぜんなつかれてないのに、てめーなんか……

「ありがとうございます。鑑定料はいくらお支払すればよろしいでしょうか」
 観鈴はそんなことを言いだした。

「いや、べつによろしいですよ」

「これはわたくしの個人的な興味ですので。料金を取っていただかなければ困ります」

「この件に関しては、最初のご依頼者の金井さんからちゃんと料金をもらっていますので」

「しかし、金井さんには犯人については何もお知らせしていないようですが」

「僕が受けた依頼は、首がどこにあるか、です。
 犯人について言及すれば、金井さんは犯人を探ろうとするかもしれない。
 そうなったとき、金井さんの身の安全は保障できませんしね」

「だから言わなかった」

「そういうことです」

 観鈴は立ち上がった。
「とても興味深いお時間でした。またお会いしましょう」

 三崎も追いかけて慌てて立ち上がる。

 剣持観鈴はドアを開けて出て行った。

 ――また?

 紗与里はその言葉が、ずっと引っかかっていた。
 


※この物語はフィクションです。

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