火星の隠された場所 6  |  ZEPHYR

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― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「こちらは県警捜査一課の剣持警部……。那智さんにお話を伺いたいということでお連れした」

 三崎刑事の口調は妙にぎこちなかった。
 先日の高圧的なところはなく、どのように喋ったらいいか、迷っているような様子が見受けられた。

 しかも紗与里には不思議に思えることが一つあった。
 剣持という美女刑事は、あきらかに三崎よりもぜんぜん若い。
 それなのに、彼のほうが上司に接するような気の使い方をしているのだ。

「剣持観鈴(みすず)と申します」
 と、警察手帳を開いて提示する。

 ひゃー、なんて素敵な声なんだラブラブ
 紗与里は同性ながら、惚れ惚れした。張りと力がある。外見の美しさといい、そう、ちょっと宝塚女優みたいな雰囲気なのだ。

「そのご様子では、さいわいにも僕の容疑は晴れたということかな」
 那智は三崎に向かって言っていた。

「ま、まあ、事件当時、那智さんがイギリスに言っていたということの確認は取れました。事件当日も、ロンドンの……ええと、せ、占星術師、バーバラ・ロックウッドさんが主催する会合に出席していたということもわかりましたので」
 三崎は手帳のメモを見ながら言った。

 紗与里は空気を読んで、お茶を入れに席を立った。
 那智も追い返すつもりはなさそうで、二人に席を勧めた。

「お忙しい方のようなので、ぶしつけですが、さっそく要件に入らせていただいてもよろしいでしょうか」
 観鈴は涼しい眼を那智にまっすぐに向けて言った。

「どうぞ」
 那智もPCに向かうのではなく、手を休めて、観鈴に向き直った。

「こちらの三崎警部補から那智さんが占いで、老夫婦の首がある場所を推理したというお話を伺いました。
 にわかには信じがたい話です」

「そうでしょうね」

「警察としても、このような非科学的なものを根拠に捜査や犯人の検挙を行うわけにはまいりません。
 ですから、今日、お伺いしたのは、まったくのわたくしの個人的な興味だとご理解ください」

「わかりました」

「そこで個人的な興味の質問なのですが、那智さんは老夫婦を殺した人物は誰だとお考えですか」

「僕は事件関係者のことなど、ほとんど知らない」

「そうですね。では、どのような人物が犯人だとお考えですか? そのようなことも、あなたの占いで推理できるのでしょうか?」

 那智は少しだけ考え込んでいた。
 どのように対応するか、迷っているのかと、紗与里は思った。

 ところが彼は、
「なるほど……。面白いな」
 と、うなずいた。

「何が面白いのでしょうか」

 紗与里は話をしている彼らの前にお茶を出した。そして席に戻った。

「ここしばらく、僕にとってはかなり重要な日が続いているんですよ。
 かなり運命的というのか、大きな影響力を持つ日です。
 そんなときに事件に関する鑑定を依頼され、やがてあなたがたが来た。

 これはかなり面白い。
 そして、これはあなたの質問に答えるべきということでしょう」

 紗与里は刑事が初めて来たときにも、那智が似たようなことを言っていたのを思い出した。

「申し訳ありませんが、那智さんのおっしゃることの意味はよくわかりません。
 が、お話し下さるということですか」

「犯人は女です」

!!

 刑事たちは固まった。

「ば……馬鹿な」
 と言ったのは、三崎刑事だった。
「犯人は、老人とはいえ、二人の首を切断しているんだぞ。そんなことが女にできるわけが……」

「そう。たぶん、その思い込みが事件解決を遅らせている」
 那智はすごく平静な雰囲気と口調で続けた。
「金井さんから警察の捜査については、ある程度お話を伺いました。
 警察はこの事件で、近隣に住むある男性を容疑者と考え、その人物について徹底的な捜査を行ったらしいですね」

「あ、う……」
 三崎が言葉に詰まるのを、観鈴が引き継いだ。
「そうです。わたくしはそのように報告を受けています」

「報告?」

「ええ、事件発生時はまだわたくしは小学生でしたから」

「それもそうか」
 那智は珍しく破顔した。
「しかし、その容疑者には鉄壁のアリバイがあった。
 警察はそのアリバイを崩そうとした。
 そして、その男の周辺から首も見つかると、捜査し続けていた」

「そうです。仰る通りです」

「まったく愚かな見込み捜査だと言わざるを得ません」

 三崎刑事の首筋まで赤く染まるのが見えた。
 

※この物語はフィクションです。

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