一家全員が帰宅し、全員が夕飯も終えた頃。
山の中にある我が家のチャイムが鳴りました。
「こんな夜に、いったい誰だ?」
「近所の年寄りかな」
と思いながら、私は玄関に出ました。
するとドアの隙間に、見慣れぬ男性の顔が。
「あ、昨日はどうもすみません。本当に大変失礼なことをして、お詫びに……」
昨日?
つまり日曜日のこと。私は岡山で県外から来た人の占いをして、娘の出演する芝居を観劇し、帰宅して電話で占いして……
誰にも失礼を働かれた覚えが……
あ!
と思った瞬間、リビングにいた娘がげらげら笑い出した。
「Iさん!」
そうなのだ。
夜の訪問者の正体は、娘と共演していた俳優さん(メーキャップをした顔と落とした顔で、すぐにわらなかった)。
それもとっても品の悪いセクハラ・オヤジの役をやっていた人物で、看護士役だった娘のお尻を触るという行為を舞台上で演じていた人物。
舞台が終わって、会場を出るとき、役者さんたちが見送ってくださるとき、私はその人物に近づき、
「娘のお尻のさわり心地はいかがでしたか」
と囁いたのでした。
「ひええ~~~!」
彼は、それで私がてっきり怒っているものと思いこんでしまったようです。
「い、いや、あれ、触ってませんから!」
「ああ、そうですか」
クールに言って去っていく私は、きっと彼にはとてもご立腹になった娘思いのばか親に見えていたのでしょう。
もちろん触ってないというのは真実で、私は本気で疑ってなどいませんでした。
「これはお詫びに行かねば!」と思い、なんと桃太郎ぶどうなんていう高級品まで携え、山の中、どきどきしながら夜道、車を走らせてきたという次第。
……まいったな、こりゃ。
「え? 怒ってないんですか?!」
はい。怒ってません。
お芝居でお尻を触られようが、もっとエロい展開であろうが、そんなことをまじめにご立腹になる父親ではございません。
とにかくリビングに上がってもらい、お話を。
そもそも、この出来事には前ふりがあり、稽古中のあるとき、帰宅した娘が
「Iさん、今度の劇であたしに痴漢行為を働くんだけど、お父さんのこと、すごく気にしてるんだけど」
「ふーん。覚悟しとけって言っとけ」(←100%ジョーク)
というやりとりも、Iさんには伝わっていたらしく、私が公演後にそのようなことをおもしろがって言ってしまったので、真剣に悩んでお詫びに来たらしい。
場合によっては殴られる覚悟で。
「娘を大事に思ってる父親って、そんなもんかなと」
Iさん、私がぜんぜん怒っていないという事実を知り、「はは」と笑いながら肩を落としていました。
かわいそうな、Iさん。
桃太郎ぶどう、おいしい。
そして夜は更けていく。
真っ正直で、とてもデリケートなIさんは、帰って行きました。
「これって、父のせいだからね」と、娘。
「いや、ちゃんと説明していないおまえも同罪だろう」
世の中を、つい面白い方へ面白い方へ転がそうとしてしまう私なのですが、時には想像を超えた受け取り方をする人もいます。
もう少し思いやりを持つべきだったと、反省したzephyrでした。
Iさん、ごめんなさい。
<(_ _)>(^^)/~~~

皮ごと食べられる桃太郎ぶどう。
とっても美味です。