孝司は今まで占いなど信じたことはなかった。
いや、深く考えたことがなかった。
それでも、どちらかと言えば、いかがわしいものだと思っていた。
しかし、この老人の言葉は、あまりにも今の自分にはリアル過ぎた。
「そんなに厳しいときなんですか、今は」
表面上は、平静さを保って言った。
「そのはずです。例外はありますがね」
「例外?」
「あなたがこの海王星と冥王星の力を、別な使い方をしていれば、話は違ってきます」
「どういうことでしょう」
「たとえば、冥王星は破壊と創造の星で、通常はこの『破壊』ということが強く現れます。しかし、その後の再生も意味します。つまりここで、やり直す、生き直すと言ったこともできるのです」
「なるほど。えっと、このもう一つの星……海王星でしたっけ。これは?」
「うーん。この星の説明をする前に、あなたと少しお話をさせて頂いて良いですか」
「え? はあ」
「あなたはお仕事は何をされてますか」
「ガソリン・スタンドで働いています」
「なるほど」
老人は納得した、とでも言うように大きくうなずいた。
「なにか?」
「この図面、これはホロスコープというのですが、あなたの人生の傾向を表現しています。もちろん、ここからあなたの職業なども推理することはできるのです」
「ガソリン・スタンドで働くことが出ていたんですか?」
そんなもの、聞いた後ならなんでも言えるではないかと思った。
が。
「あなたの職業として現れそうな星は二つあります。火星と海王星です」
老人はホロスコープの上の方にある、二つの星をそれぞれに指さした。
「火星はいろんな意味がありますが、機械などのメカニックなものやシステム的なもの、自動車やバイク、火や熱に関連したコックや消防士、また他にスポーツなども火星の意味にあります」
自動車。機械。
「ところがこの火星は、コンディションがもう一つ良くない。そのため思うように使えない可能性もあるし、これでやっていくには大変な努力も苦労も必要とされるでしょう。
そこで、もう一つの星、海王星なのです。
海王星には石油という意味もあります」
鳥肌が立った。
老人の言っていることは、そのまま孝司の人生の軌跡、そのままだった。
偶然、こんなことが言えるだろうか?
孝司はあらためて老人を見つめた。
きわめて淡々としている。
「もちろん、海王星には他にも意味があります。医療関係とか薬品関係はおもにこれですし、水商売、石油と同じように液体や水に関係した仕事に関わる人間もいます。
あなたの場合は、おそらくこの簡単には使えない火星の影響もあって、自動車に近いところにある液体、石油を売る仕事に傾いたのではないかと思われます」
「…………」
うまく言葉が出なかった。
「しかし、これであなたにとって海王星は、ただの『無化』の星ではないことが分かりました」
「というと?」
「あなたはすでに海王星を使っているわけです。仕事として」
この物語はフィクションです。