海王星で無になれば part.5 |  ZEPHYR

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― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

 会社の組織を抜本的に見直して行く計画がある、と溝田社長は告げた。

「実際、いくつかの添付を昨年から閉鎖しているのは知っているだろう。それぐらい経営は厳しい状態なんだ。セルフとか、経営の形態を切り替えていくべきときに来ている。そこで君の今後の身の振り方についても、君自身の意向を聞いておきたかったんだ」

「いや……」声がかすれた。「わたしは、ずっとここで働いていくつもりでしたから」

 今こんなときに辞めさせられたら、大変なことになる。

 次に仕事を見つけられたとしても、今と同じだけの給与があるとは限らないのだ。

「そうか。それならいいんだが」

 溝田は白い歯を見せた。

「いや、つまらんことを聞いてしまったな。もしか、君がもともとやりたかった仕事を移るなら、今なんじゃないかと思ってね」

 溝田は孝司の肩を叩き、立ち上がった。


 あとになっても、衝撃が胸に残った。
 暗に退職、あるいは転職を迫られたような気がしていた。

 会社の経営が苦しいのは、みな、知っていることだ。

 昨年、売り上げの伸びないスタンドが二店舗、閉鎖になっている。

 これからもあるのではないかという危機感は、孝司たち社員なら、感じていることだった。
 
 バイとの高橋への怒りなど、ふっとんでしまった。

 うつろな気持ちで就業時間を終え、ちょうど車に乗り込もうとしたときだった。

 携帯電話が鳴り始めた。
 自宅からだ。

「もしもし」

「あ、孝司かい!」母の声がうわずっていた。「と、父さんが! 父さんが大変なんだよ!」

 ぎょっとした。

「父さんが倒れて……」

「倒れた?! どこで?!」

「さっき見たら、庭で……」

「意識はあるのか?!」

「それが、何度呼んでも……」

「救急車は?!」

「よ、呼んだよ、今。もう来ると思うけど」

「すぐに帰る!」

 孝司は車に飛び乗り、タイヤを鳴かせてスタートさせた。

 とはいえ、勤務先のGSから自宅までは20分はかかる。

 家にたどり着いたときには、近所の人間が何人か、家の前でうろついていた。

「あ、孝司君、お父さんが!」

 隣の昔なじみのおばさんが、血相を変えて言った。

「知ってます。もう運ばれていったんですね!」

 うんうんと大きくうなずく。

「お母さんは救急車にいっしょに乗っていったわ。史也君はうちで預かってるから」

「そうですか……お手数かけて、すみません。どこの病院に行ったんだろう……」

「さあ。あ、でも消防署に電話をかけて聞いてみたら?」

「そうですね。わたしも分かったら出ますので、もうしばらく史也のこと、お願いします」

「はいはい。大丈夫ですよ。史也君のことは任せておいて」

 時間的にまだ病院に到着していない可能性もあるだろうと思い、孝司はまず妻の広子に電話をかけた。
 広子もすぐに帰るとのことだった。

 その後で消防署で確認を取ったところ、搬送先の病院が判明した。

 このあたりでもっとも大きな市民病院だった。

「いい子で待ってるんだぞ。お母さんがすぐ帰るからな」

 不安げな息子に一声かけてから、孝司は市民病院へ向かった。


 運転しながら、最悪の事態もあれこれ想定した。

 父の糖尿病はかなりひどくなっていた。
 
 糖尿病は様々な併発症状を起こすことで知られている。今回倒れたというのも、きっと無関係ではないだろう。

 市民病院では、母が青い顔をして待っていた。

「あ、孝司……」

 母が立っているのオペ室の前だった。


この物語はフィクションです。