正史と金田一の影を追って |  ZEPHYR

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 作家として
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 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「あなたにもっとも大きな影響を与えた推理作家は?」

もしそのように問われたら、迷わず横溝正史を挙げるでしょう。

たしかに私のミステリー原体験は、モーリス・ルブランの「奇岩城」でした。
中学時代に出会ったアルセーヌ・ルパンの冒険譚こそ、自分が生まれて初めて小説を読んで、どきどきわくわくするという体験でした。

そのシリーズを読破した後、江戸川乱歩、そしてその後に正史でした。
当時、角川映画で横溝作品はいくつも映画になっており、ブームでした。
そのブームの後だったのか先だったのか、記憶は定かでないのですが、とにかく異常なほど正史のミステリーにはまりました。

このときの正史体験があまりにも強烈であるため、私の中にはどうしても推理小説というものの中に、名探偵、そしてフーダニット(誰がやったのか、犯人は誰なのかということを主題にするミステリー)こそが王道だというような、まあ、思い込みのようなものが生じてしまったのは否めません。

横溝正史が戦時中、岡山に疎開してきていたという話は有名で、今の真備町にその正史が住んだという家屋が現存しています。
ここで正史はかの「本陣殺人事件」を生み出し、名探偵・金田一耕助を生み出した。

昨日は、奥さんと共にその岡山での正史をたどってきました。

いざ、真備町へ。
はっきりと目的があって、真備町へ足を運ぶのは、これが二度目です。
ちょっと前に座談会に呼ばれてゆきました。
<きんでーちの会>参照。

そのときにだいたいの地理は把握したので、そう迷うこともなく、とりあえず「真備ふるさと歴史館」へ向かうことに。
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途中の、道路にあった看板。

所々で見かけたのですが、ばたばた走り回っている金田一耕助がかわいい。
が、よくよく見ると、袴のおしりというか、腿というか、めっちゃ破けたような状態です(塗装がはげているだけですが)。

金田一さん、かわいそうなので、補修してあげてほしい。

看板や標識を頼りに、「真備ふるさと歴史館」に行くと、閉館日でした。
ガラス越しに中を覗くと、過去の映画のパネルなどが展示されていて、やはり正史色の強い施設のようです。

まあ、仕方ないと、とりあえず「疎開宅」へ向かうことに。

暑い。

いい感じに曇ってはいますが、奥さんと二人、「暑い」を連呼しながら遊歩道を歩いていくと、大きな池の畔の弁天様のところへ行き当たりました。

そこの看板にも、疎開中の正史がよく散歩していたところだという説明があり、この「大池」が作品に登場している物語もあると。


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正史の疎開宅です。
戦時中からの建物が現存しているのもすごいですが、いかにもといった感じの古い日本家屋です。

ここも休業日で、中には入れずなのですが、このことは来る前から分かっていました。

とくに中に入りたかったわけではなく、私はただ真備町にいたときの正史の、なんというか空気を感じたかっただけなのです。

古い日本家屋なら、私自身、そういうところで育ちましたし、中は想像がつきます。

そこからまたてくてくと歩き続けます。

真備町は今でこそ新しい住宅も多いですが、とくにビルがあるわけでもなく、歩いていると昔懐かしい、鶏舎かあるいは牛舎っぽい匂いも漂ってきます。

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お寺の遠景です。

まさに正史の映画に出てきそうな古いお寺。

まわりは田園で、水田はもちろん、畑にはいろんなものが豊かに実っています。

ジャガイモ。
イチジク。
花。

夏休みに入った子供たちが、家庭用のビニールプールで水遊びをしているし、通りかかる人はみんな「こんにちは」と声をかけてくるし、ホントに気持ちのいい土地です。

さらに向かった先に、神社がありました。

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「東園神社」

正史も絶対に一度や二度、お参りをしているはず。

神社というのは、そうそう変わらないもの。

事前の下調べでも、この神社はけっこう規模が大きそうというだけではなく、なにか、気になっていたのです。

長い石段を上がっていきます。

その段階ですでに涼しい。

境内には清涼な空気を感じます。

奥さんより、少し先には遺伝に到着した私は、中に書かれている説明書きを読み、思わず奥さんを振り返りました。

「どうしたの?」

「サルタヒコ様」

そう。
この神社のご祭神は、猿田彦命だったのです。


なぜ、自分がここに来ようと決めていたのか。

ここに心引かれていたのか。

春のミュージカル。

私が脚本を書いた創作ミュージカルの中に登場していた「導きの神」。

そのサルタヒコ様が、ここに鎮座しておられた。


二人で参拝し、神社を後にしました。


私は正史の住んでいた疎開宅と、この東園神社の間に、ちょっとした関連を感じていました。
レイライン的なものです。

巡り巡って、ここへ来た。

正史の足跡をたどることで、元へループした。

いや、そうではなく、たぶん「導き」なのだと。

一昨年末から始まった、新しい流れ。

その中に今も自分はいる。

そんなことを感じた日でした。


この後、私と奥さんはランチを食べに行くのですが、それはまた明日の記事で。