復讐するは冥王星にあり part.3 |  ZEPHYR

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 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

「そんなに相性が悪いんですか」
 驚きながら、麻衣は尋ねた。

「相性云々以前の問題です」

「以前? 相性以外に男と女の間になにがあるというんですか?」

「相性以上に大事なものがあります」

「なんですか、それは」

「縁と人間性です」

 まったく意外な言葉を聞かされた。

「縁については、後でご説明しましょうか。
 その前に、人間性についてお話ししましょう」

「人間性が良いか悪いか、みたいなことですか?」

「単純に言うと、そうです。
 たとえば人を何人も残虐に殺した凶悪な殺人犯。

 このような人間でも、彼のホロスコープにうまく合った相性の女性というのは、この世のどこかにかならずいます。
 相性が良いという意味でね。
 ところが、いくら相性が良くても、そんな殺人犯と結婚して、幸せになれると思いますか?」

 麻衣は首を振った。
 うなずき、老人は続けた。

「そうですよね。
 自分の欲望や衝動で何人も殺すような人間だったら、相手に対する思いやりもないわけで、一緒に暮らしてもうまく行くわけがない」

「このこん……近藤さんもそうだっていうんですか?」

「いやいや、今のはたとえですよ。
 人間性が極端に悪い場合の話で、分かりやすいでしょう?

 人間性の問題というのは、もっと多様で複雑なものです。
 一般的に考えて、性格、性愛、基本的な運気、こういったものをいくつか統合されたものがその人の人間性と言えるのですが、判断の仕方は様々です。
 
 ただ、私はこの男性、いろんな女性に行く人だと思うのです」

 絶句した。

「これはもう、普通の相性の鑑定ともかぶっているのですが。
 ……火星と金星は合で、牡羊座にあり、天王星、海王星とハードアスペクト。
 月は天秤座にあり、太陽は双子座なので、表面的にはあまりそうは見えないかも知れない。
 優しい人、洗練された人、お喋りが得意な人。
 そんなふうに見えるかも知れない。
 しかし、こと女性に関しては、この人は違った行動を取ります。

 まず飽きっぽいと思うのです。
 次々に刺激を求め、いろんな女性に手を出してしまう」

 当たっていた。
 麻衣はまったく反論できなかった。

 そうなのだ。
 つい最近、麻衣は知ったのだ。
 一緒の職場だけに相手の就労時間や行動パターンはよく知っている。

 の割には、麻衣のために使ってくれる時間は、この頃ひどく少なくなってきた。
 不信感を募らせた麻衣は、あるとき彼の携帯電話を調べるという誘惑に勝てず、それをやってしまった。
 結果、出てきたのは他に付き合っている女性がいるという事実だった。
 それもつい最近、関係が急速に深まっていて、麻衣との約束をキャンセルしてまで、二人で旅行に行っていることまで判明した。

 ――どうしてよ! この日はもともと、あたしと約束してた日じゃない!

 ――悪いけど、麻衣とはうまく行かないと分かってきたんだ。
 だから、ごめん。もうやめにしない?


「ただね、これらの星の関係が、人間の性格、人格面に出ているという断定は、じつは危険なのです。
『星が悪かったら、悪い人』という考え方をしたら、これは占星術を使った差別につながりかねません。
 それに時代劇じゃあるまいし、そうそう『悪人』と決めつけられるような人はいません。

 実際には、星の力というのは、その人の性格面に出るか、その人の人生の中で具体的な物事、出来事となって出るか、どちらかなのです。
 この彼のハードアスペクトが、恋愛行動に出るとは、100%の断定はできません。
 出生時間によっては、恋愛行動とは別なポイントで出て、違った人生になる可能性もあります。

 たとえば私は以前、この人とほとんど同じようなタイプの男性で、金星と火星、天王星のハードアスペクトで恋人を事故を亡くしているというケースを見たことがあります。

 そうはいっても、私があなたから相談を受け、この人とはどうでしょうか? と質問されたら、素直に『うん、大丈夫ですよ』とも、やはり答えられない。
 仮に恋愛行動でそういう傾向がまったくないとしても、少なくとも火星や金星が示す男女間の恋愛や性愛の問題において、それ相当の出来事はかならず生じてくるでしょうから、この人とお付き合いして何事もないということも考えにくい」

「そうですか……」
 声が震えた。膝の上で拳を握りしめようとして、たった今切ったばかりの指が痛んだ。

「一般的な相性を見させてもらっても、あなたとこの彼はあまりにも愛情の傾向が違いすぎる。
 あなたは金星が蠍座で冥王星と合になっています。

 これもかならずそうとは言い切れないのですが、この星の力を他に向けて使っていない場合、愛情面では非常に濃く、純度が高いものです」

「純度が高い?」

「冥王星というのは関係を持った星の力を搾りつくすぐらい酷使するのです。
 破壊と創造の星、死と性愛の星です。
 黒か白しかなく、まあ、他のアスペクトの関係もあるのですが、あなたもそういう極端なところはないですか」

「あ、あります」

「あなたはおそらく、男性とお付き合いしたときに50%くらいの愛情ならいらない、くれるのなら100%くれ、というタイプだと思うのです」

 言われるとおりだった。

「そんな女性と、この男性とでは、愛情傾向に違いが多すぎる。
 続かせようとすると、かなりの困難が伴うでしょう。

 あなたの愛情というのは、言ってみれば溶鉱炉から出てきた灼熱の鉄板のようなもので、純度も高く、相手への想いも強い。
 しかし、この男性の女性に対する燃焼は、きわめて一時的なものである可能性が高く、たき火のようなものなのです」

 それは麻衣と今野の関係を、えぐいほど言い表していた。

「あなたは他の人よりも、ずっと愛情のレベルが高く、メーターが振り切れるようなところがあります。
 この男性には受け止めきれないと思います」

 老人は他にもホロスコープのいくつかのポイントを挙げ、二人が根本的に合わない部分が大きいということを指摘した。
 あまりにもショックが大きく、麻衣はつい言ってしまっていた。

「でも、そんな合わない二人がどうして付き合ったりするんですか?」

 言ってしまって、しばらくしてから、麻衣はしまったと思った。
 今のは「気になっている人がいる」ということではなく、現に付き合っている男性なのだというのを告白したのと同じだった。

「そこです」
 老人は指を立てて、うなずいた。
「その部分が縁なのです」

この物語はフィクションです。