何年かぶりの来訪者 |  ZEPHYR

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ゼファー 
― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。

先日、ホテルで勤務中にフロントから「Yという人が、zephyrさんいますか、といってきてるんですが」という連絡がありました。
Y? 心当たりのある男性が1人いました。
バーのお客さんなのですが、もう何年も会っていない。たぶん2、3年は。

はたしてやってきたそのYさんは、意中のその男性でした。
奥さんを含む知人男女、計四人でご来店。バーカウンターをはさんで、ひとときおしゃべりをしました。
「ひさしぶりやなあ」
Yさんは関西圏の方。なんでも讃岐うどんを食べに四国へ渡り、その足でこちらにまわられたとのこと。
「まだzephyrさん、おるかな思うて」
嬉しいお話です。

ホテルマン(といっても、私は配ぜんスタッフに過ぎませんが、17年以上という歳月だけは同ホテルで過ごしています)にとって、顔を見に来てくれるお客さんがいるというのは、冥利に尽きます。
これは通りいっぺんのサービスをしていればつかまえられるものではありません。
個人的な意見ですが、たんなるサービススタッフとそれを享受する客といった垣根を越えたときに、初めて生じるものだと考えます。
そのお客さんがチェックインしてからアウトするまで粗相のないように対応する、というのでは不十分なのです。
そうではなく、プラスアルファが絶対に必要です。
人としての温かみや感情の交流、共有というものが生じたときに、はじめてお客さんの意識の中に、そのスタッフAという人物が接客ロボットではなく、「人」として映じるようになります。
それには血の通った、こちらも人としての対応がなければなりません。

とくに自慢話をするつもりではないのですが、私には名指しで私の所在を確認して訪ねてきてくださる方や、また来たときに私が出勤していれば喜んでくれるお客さんが何人かいらっしゃいます。
主にバーでのお客さんです。
バーでは比較的濃密な時間が過ごせますから、お客さんを獲得するには条件的には有利です。
しかし、他のセクション、フロントや喫茶ラウンジ、和食洋食のレストラン、バンケットなどでそうしたお客さんの獲得ができないわけではありません。
というよりも、当然、できます。
それぞれの立場、それぞれの業務の中で、かならず。

個人が獲得できるこうした顧客は、じつは自分と相手の相性のようなものがあり、それがうまく合ったときに特に強く関わりが生じます。
だから、本当は各セクションの各個人のスタッフが、それぞれに顧客を得ていく必要があります。
でないと、たとえば私1人にだけ相性が合うお客さんばかりになってしまうからです。
しかし、多様で多数の集客を必要とする大きな入れ物であるホテルでは、そのような偏りは決して好ましいわけではありません。

他のスタッフも、それぞれの立場と個性で、お客さんと相対していき、人としてのつながりを結ぶことが絶対に必要です。
そうしてはじめてホテルは、大きな入れ物としてちゃんと機能するようになります。
それには、やはり「人」なのです。


たとえば「あのホテルには知っているBがいる。食事に行ったら、いろいろサービスしてくれる」というような関わりだったら?
こういうお客さんを持っているスタッフもいます。
しかし、これもお客さんの方で、たとえばドリンクが一杯ただで出してもらえるとか、料理がちょっとグレードアップするとかいう打算があるとしたら、ホテルとしてはトータルではプラスとは言えません。

なにもなくても、「あのホテルに行けば、Cさんがいる。久しぶりに顔を見に行こうよ」という動機で来てくれるのが、本当はホテルとしても理想のはず。
ドリンクや料理といったモノではない、見えないものの価値をお客さんが見いだしてくれている。
こうした関係性を、多数のスタッフが持てれば、そのホテルは安泰です。

衰亡するホテルは、確実にこうした人的資源を損失しているはずです。
ただの接客ロボットになってしまっては、お客さんはもう二度と来ない。
来る価値が特にないからです。
どんなに景色が良くても、どんなにハード面がすごくても。
すごいところは、ほかにもいっぱいあるのですから。

Yさんの背中を見送った後、また次の来店が何年か先になるのかな、と思い、そしてそのときにこの同じ場所に立っていられたらいいなと思ったzephyrでした。

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