新暗行御史 完結に寄せて |  ZEPHYR

 ZEPHYR

ゼファー 
― the field for the study of astrology and original novels ―
 作家として
 占星術研究家として
 家族を持つ一人の男として
 心の泉から溢れ出るものを書き綴っています。



「新暗行御史」(尹仁完・原作 梁慶一・作画)が完結した(全17巻+外伝1)。
久々に読み応えのある漫画を読ませてもらったという気がしている。
読み終わった後になにかが残っているという漫画も、実は結構少ない。しかし、小説であろうが漫画であろうか、同じ物語には違いなく、そしてあるレベルを超えたものには、そうした余韻があるものだ。

「しんあんぎょうおんし」という日本読みのタイトルだが、物語の舞台は正確な年代はいつとも知れぬ過去の朝鮮半島。原作者も作画者も韓国の方々。
物語の中で使われている原語通り、「暗行御使=アメンオサ」と読んだ方がしっくり来る。

滅び去った聚慎(ジュシン)という国に存在した、国中を旅し、悪を懲らす隠密要員、アメンオサ。
第一巻に書かれているように水戸黄門みたいな構造の物語だが、そのパターンを踏んでいるのは初期だけ。
主人公のアメンオサ・文秀(ムンス)とその護衛者となる美しい女性、春香(チュンヒャン)=山道(サンド)、そして従者となる房子(バンジャ)、宿敵である阿志泰(アジテ)、ムンスが愛した女性、桂月香(ケウォルヒャン)と親友の王・解慕漱(ヘモス)など、ムンスの過去に話が及ぶに至って、物語は重厚さと白熱の度合いを深めていく。

この物語の中軸にあるのは、一にも二にも主人公ムンスのキャラクターだろう。
つまり話の質としては、同じように主人公のキャラクターや雰囲気で読ませるハードボイルド小説にやや近い。
そして読了した今、私の胸に残っているのは、最後の最後まで己の意志を曲げずに悪に立ち向かっていったムンスの倒れない、折れない姿であり、彼の人間としての言葉の数々だ。
またそれをあますことなく表現した画力もすごい。これもまた独特の世界がある。

期待を裏切ることなく、物語は完結した。
物語の最中では、予想を超える展開が数々あったにも関わらず、最後は期待通りだった。いや、そうでなければならなかったのだ。
登場人物の多くが、超人のような能力の持ち主ばかりの中で、ムンスにあったのはただの人としての意志だけだ(アメンオサとして与えられている特殊な権能は別として)。
その意志だけが光り輝いている。
それが胸に残っている。

「新暗行御使」
ここ数年間に読んだ漫画の中で最高のシリーズだった。