前回の記事では精神論めいたことを述べましたが、舌の根も乾かぬうちにまたぞろ病態論について若干の情報提供です。

 

慢性前立腺炎や間質性膀胱炎における関連痛について、症状の原因は内臓にあるのか、筋肉にあるのか、という問題を整理してみたいと思います。

結論的には、どっちなのかはわからない、のですが。

 

関連痛についてのわかりやすい解説をリンクします。

 

「関連痛」について

 

トリガーポイントについて

 

歴史的にはイギリスの生理学者のヘンリー・ヘッド(1861~1940)という人がヘッド帯という関連痛の対応表をつくっているそうで、これは東洋医学におけるツボにも近く、内臓の不調がそこから離れた体表部分の痛みとして知覚される現象が関連痛と呼ばれています。

心臓発作の時に左手の小指が痛い、アイスクリームを食べると頭痛がする、下痢のときに腰が痛い、なんてのは関連痛という現象だとされています。

 

さて、このヘッド帯をもとに、とある手技療法の解説では下記のような知覚過敏の対応があると解説されていました。

 

◆引用◆

L 1 生殖器の知覚、胃・腸の収縮
L 2 臓器の下垂、胃・腸の収縮
L 3 生殖器の血行
L 4 卵巣・睾丸・腸の弛緩、骨盤神経叢の血行
L 5 膀胱・尿道・生殖器内の粘膜、骨盤神経叢の血行

S 1 ~5 生殖器
S 2 関節、十二指腸潰瘍、火傷
S 3 
S 4 膀胱括約筋

◆引用終わり◆

 

慢性前立腺炎や間質性膀胱炎でいえば、気になるのは膀胱や尿道の粘膜ですが、対応をみてみると腰椎5番が該当し、それ以外にもL4やL1、仙骨も関係しそうに思われます。

 

また、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎では膀胱といった泌尿器系の不調以外に、胃腸が痛むような感じがする(時に焼けるような痛み)、ギュルギュル鳴る、胃部膨満感、骨盤内が痛い、なんていういろんな症状がでることは症状をお抱えの方ならご存じだと思います。

 

この点、例えば手技療法の世界では、腰椎5番が変位すると代償の結果腰椎1番も変位してくる、などと言われているそうで、すると泌尿器の不調を反映するL5がおかしくなってくると、胃腸の収縮に関連するL1もおかしくなってきて、泌尿器系と消化器系の不調が同居するという状態になってもおかしくなさそうです。

 

しかし、西洋医学では胃腸がおかしければ消化器科の受診を勧められたりすることもおおく、診療の科が分かれていることに罪はありませんが、そうした診断システムは全体を把握する視点からは遠のくことになってしまいそうです。

これは自身の体験でもありますが某科では「膀胱だけに症状が出ていれば間質性膀胱炎なんでしょうけど、それ以外にいろんな症状がでているので間質性膀胱炎とは違うような…」といった医療者もいらっしゃいました。

内心、「間質性膀胱炎ではいろんな症状がでることはよく知られているんですけど…」と言いたくなりましたが、議論をしても意味はないですし、そもそも間質性膀胱炎がなんだかよくわかっていない不調なので、致し方なしという心境でした。

 

 

さて、こうした関連痛があることはよいとして、問題は内臓の不調が腰痛といった関連痛を引き起こしているのか、あるいは逆に腰背部の筋肉の緊張が膀胱痛といった知覚過敏を引き起こしているのか、ということです。

 

間質性膀胱炎の一般的な解説では膀胱の痛みが放散するという内臓不調→関連痛というモデルが語られていると思います。

慢性前立腺炎治療で有名なTクリニックでも慢性前立腺炎の多彩な症状のひとつに関連痛を挙げており、内臓不調→関連痛、という理解のように思われます。

 

で、最近度々引用している『骨盤の頭痛』は、骨盤底の緊張→関連痛のような内臓痛あるいは自律神経の緊張・混乱による機能の異常、を提唱しているように思われます。

もっとも『骨盤の頭痛』では膀胱の炎症の存在を否定はしていません。

胃腸の粘膜がちょっとしたストレスで出血するように、膀胱もストレスで損傷しうるという前提のもと、一度炎症が起こると関連痛が起こって、それが骨盤底などの筋肉を緊張させ、ますます骨盤内の神経が混乱して負のスパイラルから抜け出せなくなるという理解も示されています。

ですので、『骨盤の頭痛』の記述は尿路感染症による物理的損傷が関連痛を招き、結果骨盤周辺や腰の筋肉が緊張して内臓痛のような逆コースの関連痛を起こす、という負のスパイラルの「引き金」になることはありうるというように読めますし、自身の症状も最初は普通の尿道炎のように感じられたのでそういうストーリーもあるかもしれないと今なお思っています(もっとも、だったら尿検査で白血球の浸潤がもっと認められてほしいところです)。

ただ、『骨盤の頭痛』ではどちらかというと長年の骨盤底の緊張がこうした関連痛のような内臓の痛みを感じさせている可能性をとみに指摘しており、少なくとも、そういう可能性を考慮することが泌尿器科の診療には必要ではないかということを提唱しているスタンスのように読めます。

 

背中の張り、肩こり、腰痛を放置してしまうと関連痛といったような現象で、例えば膀胱や胃腸が痛いように感じられるというパターンもありますし、膀胱や胃腸の問題で背中や腰が痛く感じれられるという2つのパターンがあり、おそらくですが、知覚神経以外の自律神経、迷走神経の関係で背中や腰の張り・緊張が内臓の機能を異常に亢進・停滞させるということもありうるということが言えるのかもしれません。

 

自身は長年の腰痛持ちだったので、背中の張りが内臓をおかしくしてしまったのかもしれませんし、あるいは感染症なりストレスによる膀胱内の出血・粘膜の異常とかで余計に腰などが痛くなってしまったのかもしれませんが、もうどっちが先だかは今になってはわからないというのが正直な感想です。

 

慢性前立腺炎や間質性膀胱炎では、膀胱痛はもちろんですが、やはり胃や腸が収縮・痙攣しているような感じを知覚される方も多いのではないかと思いますが、こうした現象は一義的には関連痛によるものと言えるのかもしれません。

これを消化器の問題だと思って消化器の検査をしても「異常なし」となって、よくわからないから精神科や心療内科の受診も勧められるといったパターンも多いかもしれません。

もっとも、精神科や心療内科の処方が一定程度、症状の緩和に効果があることもあると思います。

 

「症状には波がある」とはよく言われますが、なぜ体のいろんな箇所に異常感が一度にワッと出るのかという点については、関連痛という理解は確かに説得的で、交感神経や迷走神経の一時的な緊張・興奮が体のいろんな箇所に放散してアチコチおかしくなる、と。

で、こうした神経の緊張が穏やかになれば、全体的に痛みや痙攣のような症状も治まり「今日は調子はまあまあよかったな」なんて状態になるのかもしれません。

自身の場合、強い症状が出たあとというのは反動で楽に感じられることも多く、神経の緊張が高まるほどにそのあとは反動で緊張がゆるみ、症状が楽に感じられるのかもしれません。

その神経の緊張・興奮と弛緩の「落差」が症状の「波」として感じられるのではないかと思っています。

そういう意味では神経が緊張する現象も、体を緩めようとするための自律的な働きといえるかもしれず、これがあたかも「病気」のように見える症状を生むのかもしれません。

まあ、落差や波を小さくできればそれに越したことはないのでしょうが。

 

 

問題は、その神経の緊張というのが、内臓由来なのか、筋肉由来なのか、ストレス由来なのかといったところですが、これは慢性化してくるとスパイラル状態になって、どれも正解という感じなのかもしれません。

 

慢性前立腺炎が自律神経へのケアで症状が緩和されるという話も聞いたことがあるのですが、関連痛というモデルからみればそういう面もあろうかと思いますし、ケースによってはそれこそが治療かもしれません。

自律神経失調の治療・緩和にはいろんな方法がありますが、手軽にできるのは温熱療法とか呼吸法でしょうか。

もっとも、あたかも発作的かのように症状が強く出ているときはいくら深呼吸しても間に合わない感じもして、せいぜい痛い箇所や腰、背骨を温めるということくらいしか、自分には対応の術がありませんが。

 

ざっくり言えば骨盤神経叢の興奮・混乱といった現象が骨盤周辺の内臓をおかしくしていると言えそうです。

時に腸ねん転とか過敏性腸症候群のような腸の強烈な痛みも感じますが、これも腸の収縮・痙攣とか関連痛なのかもしれません。

そういう意味では骨盤調整とか全身の姿勢の問題も治療の対象になってくると思っているのですが、自分の心にまだこわばりが抜けないのか、時間がかかりそうにも感じます。

ただ、筋骨格の歪みも含めて、体は常に治りたがっている(ホメオスタシス)ので、時間がかかるならそれに付き合ってやろうという胆力も必要なのかもしれません。

 

症状が強くでてしまうととにかく痛いので、パニック状態になったり、本当に気が滅入りますが、神経性の一時的な発作というか、興奮状態だと思えばそのうち治まるので、嵐が過ぎるのを待つという心持も重要かもしれません。

もっとも、全く眠れなくなるとか胃部不快感で絶食状態になることもあるので、社会生活への影響も大きく、この辺も不安な心境を招いてしまうものです。

こうした不安が本格的なメンタルの問題に発展することもあるかもしれませんし、自身もそうなるかもしれない(もうなっているか!?)ですが、神経の緊張・興奮と弛緩の自律的な調整運動が「症状の波」として感じられる、と思えばいくらか気が楽になるかもしれません。

 

まあ、実際には症状が強いと、もうどうしようもないという感じもありますが、体に何が起こっているのかわからないというのも恐怖の要因になりうるものです。

ですので、このブログでは内容の正確性・妥当性は保障できませんが、しつこく病態論を話題にしてみています。

 

※投稿後の補足

なお、自律神経の調整法としての温熱療法については三井温熱療法というのも興味深く、割と高温の熱を体に注熱することで「アチチ!」と飛び上がるような刺激を入れ、いったんわざと交感神経を高めるという手法です(アチチ反応と呼ばれている)。

これは高温の熱で交感神経が高ぶる反動として副交感神経の働きを活性化させようというもので、わざと自律神経の波を大きく揺さぶることで交感神経の緊張をゆるめようとするものです。

ぬくぬく温かい刺激ではちょっと刺激が足りない、ということですね。

荒療治のようにも見えますが、尾骨の焼き塩による温熱湿布も自律神経の調整法として伝統療法の中では有名ですし、こういう自律神経の調整法も何か効果があるかもしれません。