帰宅 | 抑鬱亭日乗

抑鬱亭日乗

複数の精神疾患を抱える者の独言を忌憚なく収録する
傾いた視線からこの世はどのように見えるのか

 もう帰宅しているのだろうか。

 姿を見かけないので、全員が無事に帰宅したに違いない。

 

 2月3日は鬼にとって一年で一番辛い日である。

 「鬼は外、福は内」と言われて家から追い出される。

 「鬼は外へ行け」というのだから、どこの家庭でも鬼は潜んでいるのだろう。

 壁と家具の隙間、天袋、屋根裏、箪笥その他の場所。

 

 この日、外に追い出された鬼は凍える。

 節分の日にテント村を設置し、追われた鬼を保護してやらねばならぬ。

 暖かい豚汁と熱燗を振舞い、数日間を過ごしてもらう。

 数日後、鬼は各家庭に帰る。

 

 桃太郎さえいなければ、鬼は平和に暮らせたはずだ。

 しかし、桃太郎は正義という名目で鬼ヶ島を陥落する。

 鬼ヶ島の財産は桃太郎に奪われ、鬼は着の身着のまま島を出た。

 逃げた鬼は仕方がないので、人間の家に潜むようになった。

 

 人間は家にいる鬼が災いをもたらすというデマを流し、豆で鬼を退治するイベントを思いついた。

 その伝統と鬼への偏見が現在でも引き継がれ、節分に豆をまき、臭いイワシのアタマを飾る。

 鬼へのヘイトスピーチである。

 

 無償で家に住まわせてもらう鬼は、人間の世話になっているので悪いことはしない。

 全ては桃太郎に原因がある。

 正義という名の侵攻は危険な考えである。