桜 近所の桜が満開を迎えている。 風が吹くと淡い桃色の花びら辺りを舞い、浮世離れした感覚に陥る。 罹患して初めて迎えた桜を忘れれることができない。 希死念慮に支配されていたのだろう。 「これが最後の桜か」本気でと思いながら木を眺めていた。 これで見納めだと思いながら眺めた桜の美しさは生涯忘れ得ないだろう。 花が輝いて見えた。 桜だけではない、新緑も同様である。 それから数年が経つ。 希死念慮が消えてなくなり、健康な人間と遜色ない状態である。 同じ桜の木を眺めるが、あの頃に観た花とは別ものである。