八王子スーパー強盗殺人事件② | 全曜日の考察魔~引越し版

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不審者等の目撃情報

17時30分頃、店の前をうろつきながら店内を覗き込むような仕草をしている、白いシャツにグレーのズボン姿の不審な50代の男を買い物客が目撃した。20時30分、売場で勤務に就く従業員は矢吹さんのみとなった。非番の前田さんは、この時もレジを担当する矢吹さんの傍らにいた。この頃、店内で何も買わずに売場をうろつき、辺りの様子を伺う40代から50代の不審な男性が客によって目撃されている。この2つの目撃証言の男は恐らく同一人物でしょう。
また、現場近くで型の古い白いチェイサーが目撃されていた。

犯行動機

特別捜査本部が見立てる犯行動機については、「強盗説」と「怨恨説」の両面がある。一般的には「強盗説」が有力なように思われているが、先入観による偏った捜査を行えば事件解決にとって重要な情報を見逃す恐れがあり、捜査本部は予断を持たずに両面で捜査を継続している。

強盗説

犯人がナンペイ大和田店の売上金を強奪する目的で事務所内に押し入ったと推測される理由としては、以下のことが挙げられる。

本事件が起こる前からこのスーパーの事務所は、何度も空き巣に入られていた。営業中は事務所の入り口に鍵が掛けられていないことが多かったという。それは夜間においても同じだった。本件スーパーは「不用心でセキュリティが甘いスーパー」として近所でも有名な存在だった。売上金をレジから金庫に移す際には、従業員が売上金をレジの引き出しごと抜き取り、スーパーの外部に一旦出てから外通路を通り、駐車場に面した外階段を登って2階事務所に入ってから金庫に保管していた。この措置はスーパーの構造上、内部を経由して2階事務所に入れないようになっていたことによる。現金を剥き出しのまま外部を経由して運んでいる様子を近所の住人らは皆が見て知っていたということからも、本件スーパーの防犯には問題があったといえる。しかも夜間勤務を女性従業員だけに任せていたことも多く、事件当夜がまさにその状況であった。稲垣さんは、スーパーの防犯対策について日頃から周囲の人物に不安を漏らしていたことも明らかになっており、その不安によって一時的に店を辞めていたこともあったという。そのような状況があることから、現金強奪を目的とする犯行グループなどが本件スーパーの状況や情報を容易く掴んでいたことからターゲットとして狙われた可能性もある。本件が発生した同じ時期に、多摩地域を中心に夜間のスーパーなどの事務所を狙った短銃強盗事件が多発しており、それら事件の犯行手口が本件と非常に酷似している点からも、同じ犯行グループが関与しているのではないかとする見方もあることから強盗説が考えられている。本件は実際に夜間閉店後のスーパー事務所内で犯行が行われており、被害者3人が帰宅するために事務所を後にしたとき、外で待ち伏せていた犯人に拳銃で脅され、再び事務所内に押し戻され、被害者がガムテープで緊縛された状況がある。「日中混成強盗団」の元メンバーだった人物らの証言の中で、たびたび本件やナンペイ大和田店の話が出てきていることからも現金強奪を企てる者の間では情報が共有されていた可能性もあり、強盗説は有力だとする見方もある。

金庫のダイヤルナンバーをすぐに割り出せなかった可能性がある。金庫には鍵が差し込まれたままになっていた。これは犯人が稲垣さんを脅して金庫を開けさせようとした形跡だと考えられている。アルバイト高校生従業員2人をガムテープで緊縛し、身の自由を制限しようとしていたことも強盗を伺わせる要素である。しかし犯人は何らかの理由で稲垣さんに金庫を開けさせるまでには至らず、途中で高校生2人を縛ることも止めて、短時間のうちに3人を射殺した。そのことで犯人は気が動転したのか、または犯行の計画が狂ったからなのか、すぐさま逃走を図ったという経緯も考えられる。犯人が発砲した銃弾は全部で5発である。4発は被害者を狙って発砲したが、残りの1発は金庫の扉に向かって発砲しており、銃弾は机の下から発見された。被害者3人を威嚇して制圧する目的で1発目に金庫へ発砲したと考えられているが、金庫もしくは中の現金に何らかの執着があったことで逃走直前に5発目を金庫に向けて発砲したとも考えられる。

事件発生当日、スーパーの周辺では不審人物が数名目撃されていた。店内を覗き込むように見ていた中年男性、何も買わずに売場をうろついていた中年男性、スーパー前の道路を乗用車が徐行して通り過ぎるときに店内を覗き込むように見ていた運転手の男性、閉店後の外通路で車のライトが当たると顔を背けて足早に立ち去った男性などの存在である。

怨恨説

怨恨によって被害者3人のうちの誰かを狙ったか、もしくは会社かスーパーに恨みがあったことで犯行をおこなったと推測される理由としては、以下のことが挙げられる。

金庫に収められていた週末の売上金(約526万円)を犯人が直接的に盗もうとした形跡がなかった。犯人の事務所内の動線が「ほぼ1直線の単純な往復(入口から金庫の間)」であり、事務所の入り口から金庫がある場所まで真っ直ぐに歩き、金庫のあたりをうろついた後、被害者が倒れていた周辺を歩き、銃撃後にそのまま入り口から出て行った。犯人は血糊を一切踏んでおらず、事務所内を縦横に歩き回った形跡はなかった。室内を物色した痕跡はなく、机の引き出しなどを開ける行為も一切なかった。被害者3人の財布や持ち物は物色されておらず、全くの手つかずで、中身が盗まれた形跡はなかった。稲垣さんは金庫の開け方を知っていた。しかも店長の机の上には金庫のダイヤルロック解除の数字を記した紙が貼られていた。稲垣さんは実際に「夜間店長」を務めており、金庫の中に売上金を保管する役目を担っていた。そのことからもAは金庫の解錠と施錠の方法は知っていた。強盗目的の場合、その状況であるならば多少の時間を要したとしてもAに金庫を開けさせることは十分に可能であった。実際に金庫には鍵が差し込まれたままの状態になっていたのである。なぜ犯人はAに金庫を開けさせようと仕向けずに短絡的な凶行に及んだのか。その点が最大の謎であり、怨恨説を浮上させる一つの要素になっている。

被害者は3人とも脳幹を正確に撃ち抜かれ、即死状態であった。稲垣さんだけは計2発銃撃されており、至近距離から左額に1発銃撃されて射殺されたあと、さらにもう1発の銃弾を垂直方向から頭頂部に打ち込まれている。一般的には至近距離から何の躊躇いもなく頭部を狙って銃撃できる人間は多くないと言われている。無慈悲かつ冷酷な殺害方法で、明確な殺意があることは怨恨説を疑わせる最大の根拠となっている。

稲垣さんは生前にカッターナイフの刃が同封された脅迫文を送りつけられるという嫌がらせを受けていた。脅迫文は「このままだと命がないぞ」という内容だったことが警察の捜査から判明している。差出人は未だに不明である。稲垣さんの関係者によると、稲垣さんは気性が荒くて激しい性格だったという。飲食店に男性と訪れた際に連れの男性を激しい口調で罵倒している様子を同席した人たちにいつも見られていた。それは特定の人物ばかりではなく、他の男性に対しても同じような態度を見せていたという。また過去には稲垣さんに対して金銭を貢いでいた男性の存在もあったことが周辺の人たちには知られており、男性の金回りが悪くなり、援助が滞ったことでその男性と縁を切ったために一悶着を起こしたこともあった。それらのことからAの周辺の人物たちは事件の一報を聞いたときに「ナンペイ事件は強盗ではない。稲垣さんに恨みを持つ者の犯行に違いない」と皆が直感的に思ったという。

アルバイト高校生2人や会社(ナンペイ)、経営者、関係者などに対しては、犯行に繋がるような何らかの怨恨があったとの有力な情報は今のところはない。大和田店の事務所内は何回か空き巣に狙われていたことが確認されているが、売り場でも頻繁に万引き被害に遭っていた。店側は万引き犯に警告する意味でスーパー事務所の外階段下に「泥棒野郎へ」と題する警告文を駐車場から見えるように貼っていた。このことから大和田店に何らかの恨みがある者の存在も犯行に繋がっている可能性がある。