Mさんについて。
Mさんはピアニストを目指していたのだけれど、
この本によれば、それはMさんのお母さんの希望だったということです。
Mさんの家には、グランドピアノがあって。
しかし、「ピアニストになるなら、ケンプぐらい弾けなければ駄目なの」
「私にはケンプのような才能がないの」
とMさんは言うのです。
それは一見悲劇的だけど。
いや~。しかし、それはお母さんの夢だからねえ。
本当のMさんは、手塚治虫先生に「キャプテンKen」の似顔絵を描いてもらうほどに、
マンガが好きな女の子だったのです。
でも「ジャングル大帝」でも「リボンの騎士」でもなく
どうして、「キャプテンKen」だったのでしょう。
案の定、手塚治虫先生は「キャプテンken」の服のデザインを忘れてしまい、
「ごめんね」と、半分だけしか描けなかったのです。
すると、次の年、Mさんは、「去年の続きをお願いします」と
「キャプテンKen」の本を持って行ったのだといいます。
「よく持ってたね~」と手塚先生。
それは熱意の表れ。そうかもしれません。
けれども、そんなダメ出しみたいなことをされて、
手塚先生はうれしかったでしょうか。
「お、こんなマイナーな作品まで知っていてくれている」
とうれしかったでしょうか。
世間に、ほとんど知られていない「キャプテンKen」。
それは手塚先生にとって、どのような位置にある作品だったのか。
そんな「キャプテンKen」が手塚作品の中で、Mさんは一番好きだったのか。
そこなんです。
「中学生にもなって、まだ漫画を読んでるの」
こんなようなことを誰でも親から言われるものです。
(今はあまり言われないけど)
けれども、本当に好きなら仕方がないのです。