悪い仲間/マカールの夢―他一篇(岩波文庫):ウラジミール・ガラクティオノヴィチ・コロレンコ | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第26回:『マカールの夢』『鷹の島脱獄囚』『悪い仲間』

悪い仲間/マカールの夢―他一篇 (岩波文庫 赤 624-1)/岩波書店

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今回はコロレンコ(1853-1921)の短篇集『悪い仲間/マカールの夢―他一篇』を紹介します。

前回紹介したレスコーフが1831年生まれですから、コロレンコはレスコーフよりも10歳以上若い。農奴解放が1861年で、コロレンコがその時8、9歳ということを考えると、コロレンコやそれ以降の作家においては、農奴は作品のテーマから退き、その代わりに、人民を啓発するナロードニキ運動や社会主義革命が重要となってくることが予想されます。

実際、コロレンコもナロードニキ運動に関わったとして農学校から放校されてしまいます。しかし、その後は、人道主義的な独自の立場から作品を発表し、ナロードニキ運動やその後に来るロシア革命(1917年)からは距離をとっています。

さて、本書には、『マカールの夢』、『鷹の島脱獄囚』、『悪い仲間』というコロレンコの初期の短篇小説が3篇収録されています。

【マカールの夢】(1885)

コロレンコのデビュー作。

チャルガンという寒村で百姓として暮らすマカールは貧しいながらも精一杯生きていた。しかしマカールは酒には目がないという欠点があった。

クリスマス前夜、マカールはヤクート人から薪の代金を前借りするが、そのお金でウォートカをしこたま飲んでしまい、妻に殴られるなど散々な目に。その後、マカールは、森に仕掛けた罠に獲物かかっていると根拠のない確信を抱き、森へ向かったうのだが、なんとそこで死んでしまうのであった。

しかし、そこにとうに死んだはずに僧侶が現れてマカールを主のもとに連れて行き、生前の行いに関して告発されるのだが・・・。

【鷹の島脱獄囚】(1885)

鷹の島とは、当時ロシアの流刑地だった樺太(サハリン島)のこと。チェーホフによるルポルタージュでも有名です。

本作は、鷹の島に送られたワシーリイが仲間とともに脱獄したときの話を語るという内容。冒険小説的な雰囲気もあって面白く、仲間の一人で最年長の老人ブランの悲壮なエピソードもよかった。

【悪い仲間】(1885)

裕福で人徳者としても知られる父は、母と死に別れてから子供に対しては少し距離をとっていた。その子供で主人公のワーシャは、家の近所で、ある兄妹と出会う。その兄妹と心を通わすようになったワーシャであったが、その兄妹は身分が違う浮浪者の子供であった・・・

コロレンコの幼少の思い出を基に描いた半自伝的作品。基本的に半自伝的作品には興味があまり湧かないのですが、本作は素晴らしかった。子供たちの友情と悲しい別れを描いた作品で、ありがちといえばありがちなのですが、非常に心に響く物語でした。

といった3篇を収録。それぞれタイプが異なる作品ですが、いずれも難しくなく、素直に楽しめる物語になっていると思います。個人的には『悪い仲間』が収録されているというだけでも、強く推したいですね。

コロレンコの他の作品も読みたくなりましたが、持ってないので次回はガルシンに移ります。