鼻/外套/査察官(光文社古典新訳文庫)ニコライ・ゴーゴリ | 夜の旅と朝の夢

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【ロシア文学の深みを覗く】
第7回:『鼻/外套/査察官』

鼻/外套/査察官 (光文社古典新訳文庫)/光文社

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今回は、ニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ(1809-1852)の『鼻/外套/査察官』を紹介します。

19世紀前半まで西欧と比べると後れをとっていたロシア文学界は、プーシキン以降優れた文学者を次々に輩出していき、19世紀の後半のドストエフスキーやトルストイなどによって世界文学に多大な影響を与えるまでに成長します。そんなプーシキンとドストエフスキー/トルストイとの間に位置する作家として最も有名な作家が今回紹介するゴーゴリーでしょう。

ゴーゴリーの作品は、特に中期から後期にかけて社会派として受け止められていましたが、ゴーゴリーの意図はそうではなかったというのが現在の趨勢かと思います。この辺りの事情に関しては、本書の解説で詳らかに述べられていますので、興味ある方は参照してみてください。

本書には、『鼻』、『外套』、『査察官』の3篇が収録されています。いずれも岩波文庫版で読んだことがあったのですが、落語調で訳したという謳い文句に魅かれてまた読んでみることにしました。

本書のような冒険的な訳文には、賛否両論がつきものですが、個人的には内容にあっていてよかったです。ただ、奇を衒わない訳が読みたい人という人は、岩波文庫版などの他の翻訳を選んだ方がいいと思いますね。

【鼻】

ある朝、床屋がパンを食べようとすると、なんとパンから鼻が出てくる。当然驚く床屋だが、鼻が警察に見つかると面倒なことになりそうだと判断して、その鼻を捨てに町に出る。

一方、八等官のコワリョフが目覚めると、なんと鼻がない。当然驚くコワリョフだが、とりあえず鼻を探しに町に出る。するとどうでしょう。町で自分の鼻が五等官の姿で歩いているではありませんか! 鼻が五等官の姿というのが訳分からんのですが、そこが面白い。面白すぎる。さてさて、コワリョフとその鼻の運命は如何に。

【外套】

今のように服に既製品がなく全てオーダーメイドの時代、外套は非常に高い商品であった。だから貧乏役人であるアカーキー・アカーキエヴィチは、一着の外套を長く使わなければならかった。

しかし、一着の外套を長く着ていれば、その外套はボロボロになる。それでも着ていると、もっとボロボロになる。そう、いつかは外套を買い替えなくてはならないのだ。じゃあ、いつ買うか? 今でしょう! というわけで、アカーキエヴィチは金を貯めて外套を買ったのだが・・・

【査察官】

市長をはじめ要職に就く人々が公金横領や収賄などを行う小悪党の町ゴッサム・シティ。そこに首都ペテルブルグから査察官がやってくることになる。慌てふためき表面を取り繕うとする小悪党どもの前に早くも査察官が現れる。しかし、その男は査察官ではなく、小悪党どもが勝手に査察官と勘違いしたのだった。

一方、査察官と勘違いされた男がこれまた呆れるほどテキトーな人間なのだ。自分が大物と勘違いされていることに気付くと、テキトーなことを言いたい放題、やりたい放題。町の小悪党どもを手玉に取って・・・

という感じの3篇を収録。どれもコミカルで読んでいて楽しい。ロシア文学なんて難しいそうなんて思っている人は、これを読めば絶対にイメージが変わるはずので、是非読んでみてください。

あ、言い忘れましたが、『鼻』と『外套』は短編小説、『査察官』は戯曲です。あと、ゴッサム・シティはもちろん嘘です(笑) 町には名前は付いていません。

関連本
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