第6回:『青銅の騎士』
青銅の騎士 (ロシア名作ライブラリー)/群像社
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今回は、前回と同じプーシキン(1799-1837)の『青銅の騎士』を紹介します。本書は、19世紀以前のロシア文学を集めた「ロシア名作ライブラリー」の一冊になります。
さて本書には、表題作の『青銅の騎士』という叙事詩の他に、「小さな悲劇」が収録されています。
「小さな悲劇」は、『モーツアルトとサリエーリ』、『ペスト蔓延下の宴』、『けちな騎士』、『石の客』という短い4つの悲劇の総称なのですが、プーシキンがまとめて発表したわけではなく、後世の人によって慣習的に呼ばれているものです。
【モーツァルトとサリエーリ】(1830年作)
モーツァルトは言わずと知れた大作曲家。サリエーリはウィーンの宮廷楽長でモーツァルトの先輩格にあたる音楽家。サリエーリは、モーツァルトの才能に嫉妬し、モーツァルトを毒殺したという伝説があります。この伝説は今では間違いということで決着しているようですが、本作はその伝説に基づいた戯曲。テーマはずばり嫉妬なのでしょうが、芸術論的な会話もあって面白い。
【ペスト蔓延下の宴】(1830年作)
ペストが蔓延した町で死に行く人々を尻目に宴を繰り広げる人たちを描いた寸劇。その宴に「神を恐れぬ宴会じゃ(P41)」と言いながら司祭が現れて・・・
【けちな騎士】(1830年作)
資産家の男爵の放蕩息子アルベールは、父親からの援助が打ち切られて金がなく、高利貸しのユダヤ人に借金を申し出るが断られてしまう。しかし、その際にユダヤ人から父親の殺害をそそのかされて・・・
【石の客】(1830年作)
プーシキンの死後1839年に発表された作品。タイトルから分かる人は分かると思いますが、ドン・ファン物です。ドン・ファンは、スペインの伝説的な女ったらし。本作は基本的に伝説に忠実な作品ですね。ドン・ファンについては、いずれ別の作品を紹介する際にもう少し詳しく書く予定です。
『青銅の騎士』(1833年作)
前回紹介した岩波文庫の『ジプシー・青銅の騎手』に収録されている「靑銅の騎手」と同じ作品ですので、ストーリーについては前回の記事を参照してください。
翻訳を比較すると、岩波文庫版の方が格調高く個人的には好きですが、旧漢字が使用されているので少し読みづらいとは思います。それに比べて本書は、訳の新しさもあって圧倒的に読みやすいですが、読みやす過ぎて少し軽く感じてしまうところがあるかなと。あと「こここからスウェーデンを脅かそう(P138)」と、「こ」が3つ続く誤記があるのが苦笑を誘います(笑) まあ、他の収録作が異なるので、両方とも読んで損はないと思いますけどね。
僕の知る限り「小さな悲劇」をまとめて収録しているのは本書だけですので是非手にとってみてください。それに全体として読みやすくストーリーも単純な話が多いので、本書からプーシキンに入るのも手だと思います。