ウェイクフィールドの牧師(岩波文庫):オリヴァー・ゴールドスミス | 夜の旅と朝の夢

夜の旅と朝の夢

~本を紹介するブログ~

ウェイクフィールドの牧師――むだばなし (岩波文庫)/岩波書店

¥882
Amazon.co.jp

【18世紀イギリス文学を読む】
第5回:『ウェイクフィールドの牧師』

今回で『18世紀イギリス文学を読む』というテーマも5回目ですが、まだまだ続きます。当初は概ね月ごとにテーマを変えようと思っていたんですが、積読本の中に18世紀イギリス文学が結構ありまして、それは無理だと判明しました。良く考えると当たり前なんですけどね。18世紀イギリス文学が浅いわけがなく、しかもあまり読んでいないのだから。テーマの選定を間違えたなぁとも思いますが、ここまできたら、積読本から18世紀イギリス文学が消えるまでやります。

で、今回はオリヴァー・ゴールドスミス(1730‐1774)の『ウェイクフィールドの牧師』(1766年出版)です。

前回紹介した『幸福の探求』の作者サミュエル・リチャードソンは、文学クラブを創設して、週一回程度、居酒屋で文学談義に花を咲かせていたという話があるのですが、本書の作者ゴールドスミスはその創立メンバーでした。つまり、ゴールドスミスは、リチャードソンの弟子的な存在となるんだと思います。

そんなゴールドスミスの代表作が本書『ウェイクフィールドの牧師』です。ゲーテが自著『詩と真実』の中で絶賛し、夏目漱石も愛したといわれる名作として知られています。

『詩と真実』の中から一部引用してみましょう。岩波文庫の『詩と真実』の第二部347頁です。

『喜びもあれば悲しみもある生涯におけるこの人物の描写、まったく自然なものと奇異なものとが結び合わされて、しだいに高まってゆく筋の面白さは、この小説をこれまで書かれたもっともすぐれたものの一つにしている』

どうです? 本書を読みなくなったでしょう?

さて、ウェイクフィールド家の主人である牧師は、妻、2人の娘、そして4人の息子とともに田舎で暮らしていた。主人公の牧師は善良で、楽天的、家族に対する愛情もあり、とまあかなりの優等生的な人物です。妻や子供たちは、ちょっと見栄を張る傾向があるなど、牧師と比べると少し俗的ですが、どちらにせよ、嫌みがなくてほのぼのとするそんな人物たちです。

そんなウェイクフィールド家には、暮らしていけるだけの十分な財産がありましたが、財産を預けていたロンドンの商人が破産宣告をまぬがれるために逃亡するという事件が発生。一万四千ポンドあった財産が四百ポンドに目減りしてしまいます。

これを気に、一家の暮らしには暗雲が立ち込めます。先ず、長男の婚約が破談となり、長男は失意の中で、仕事を探しに一家と別れてロンドンへと旅立ちます。一方、牧師はなんとか年収15ポンドの副牧師の仕事を見つけるのですが、それがかなり離れた土地でのこと。しかし、背に腹は代えられず、住み慣れた土地は離れて、副牧師の教区へと移り住むことに……

その後も一家に悪霊が取り付いたのかなんかのか、悲惨な出来事が畳み掛けるように起こるのであったが、牧師はそれにもめげず、持ち前の善良さとユーモアと楽天さを武器に突き進む。

という感じの話で、総合的にいえば、軽快な物語ですね。道徳的な話ではありますが、説教的じゃない。起こることは悲惨なんですけど、絶望には至らない。

『書物というものがどれほど優しく、とがめだてしない伴侶となってくれるものか、たとえ楽しい人生まではしてくれなくても、耐えられるようにはしてくれる(P219-220)』

『ウェイクフィールドの牧師』はそんな書物の一つなのです。