幸福の探求――アビシニアの王子ラセラスの物語 (岩波文庫)/岩波書店
¥693
Amazon.co.jp
【18世紀イギリス文学を読む】
第4回 幸福の探求―アビシニアの王子ラセラスの物語
今回は、サミュエル・ジョンソン(1709-1784)です。イギリス文学史の中でもかなり有名な人で、彼の言葉はよく引用されます。「ロンドンに飽きた者は人生に飽きた者である」とかは、すごく有名ですね。
当時のイギリス文壇のトップと言ってもいいくらいの人ですが、主著として挙げられるのは、『英語辞典』だったり、『シェイクスピア全集』だったりするので、現在ではあまり作品は読まれていないでしょう。作家というより、文化人というか批評家というか、まあ、そんな感じの人なんです。
でも一冊だけ小説を書いていまして、それが今回紹介する『幸福の探求―アビシニアの王子ラセラスの物語』(1759年出版)なのです。
アビシニアというのはエチオピアのことですが、本書のアビシニアは現実のエチオピアとは別物。幻想的な雰囲気を出すための異国としてアビシニアですね。
アビシニアでは、王子や王女は俗世間から離されて暮らさなければならなかった。
『広大な一渓谷で、四方に山を繞らし、…谷に入る唯一の通路は巨巌の下を通る洞窟で…洞窟の出口は密林に隠れ、谷に出る方の口は鉄の扉もて鎖されていた(P9-10)』
王子王女は、そんな閉ざされた渓谷「幸いの谷」で浮世を離れた人たちと歓楽の宴のみを仕事として生きていたが、そこを出ることは許されていなかった。
しかし、王子の一人であるラセラスはそんな生活に嫌気がさしていた。彼は、人生の選択を欲し、「幸いの谷」を脱出しようと考えるが、思うようにことは運ばない。そんなある日、ラセラスは世を捨てて「幸いの谷」にやってきたイムラックと出会う。
イムラックの驚異と珍奇な人生に心を打たれたラセラスは、「幸いの谷」を脱出するために、イムラックの助力を得て山に穴を掘り進める。穴を掘っている間に、妹の王女ネカヤアに穴の存在を気づかれてしまうが、ネカヤアもまたラセラスと一緒に外の世界へ出たいと言う。
遂に穴を外の世界まで繋げたラセラスは、イムラック、ネカヤア、そしてネカヤアのお気に入りの侍女ペクアーとともに外の世界へと旅立つ。
ラセラス一行は世界を見聞しつつ、様々な人たちに出会い、話を聞き、人間はどのように生きれば幸福になれるかを考え、人生の選択を行うとする………
タイトル通り「幸福の探求」がテーマなわけですが、一点の曇りもない幸福というのは、手に入らないものですよね。それでもそんな幸福を探すラセラスは、果たして何を得るのでしょうか? とまあ、気になる方は是非読んでみてください。色んなエピソードが描かれていて、結構面白いですよ。
あ、そうそう本書を読んでいて、ヴォルテール(1694-1778)の『カンディード』と似ているなと思ったんですが、本書解説によれば、それは良く指摘されることらしいんですよね。本書も『カンディード』も1759年の出版で、少しだけ『カンディード』の方が早いですが、模倣できるほどの時間差ではないとのこと。似た作品が同時期に別々に書かれることは希にありますが、不思議なものですよね。
関連本
カンディード 他五篇 (岩波文庫)/岩波書店
¥1,092
Amazon.co.jp