ヘルマンとドロテーア (岩波文庫)/ゲーテ
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今回はゲーテの叙事詩『ヘルマンとドロテーア』を紹介します。
叙事詩を紹介するのは、このブログでは初めてです。叙事詩というのは、簡単にいえば、韻文で示された物語のことです。最近では作成されることは滅多にありませんが、古代から中世にかけては非常に重要な形式でした。
識字率が低かったり、文字を持っていない民族などでは、自分たちの歴史や、伝説、神話とかいったものを子孫に伝えていくためには、記憶している物語を口頭で伝えるしかないんですが、その際には韻律があると非常に覚えやすいのです。ですから、叙事詩は民族の歴史、伝説、神話などが多い。最も有名なものは、古代ギリシャにおけるホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』などでしょう。
ですけど、本書の『ヘルマンとドロテーア』はそういった一般的な叙事詩とはちょっと趣が違います。神話的な世界から離れて市民の生活と精神を描いたほぼ最初の叙事詩で、文学史上重要な作品だといわれています。
さて、ドイツの田舎町に家族と住む独身男性のヘルマンは、善良ですが、父親にも「カラ意気地がない」などと公言されてしまう気弱な青年。そんな彼は、フランス革命の動乱から逃れてきた避難民に施し物を届けると、そこで一人の娘と出会います。その娘こそが本書のヒロインであるドロテーア。ヘルマンはドロテーアに一目ぼれをしてしまうのですが、果たしてその恋は実るのでしょうか?
ゲーテはややもすれば説教臭くなりがちですが、本書ではそれは影を潜めています。ヘルマンとドロテーアを中心とする市民を愛情深く綴った純真無垢な歌、まとめるとそんな感じになるでしょう。
まあ、個人的には、毒気があまりに欠如した話に物足りなさを覚えたりもしましたが、それは私がひねくれ者であるが故。おそらく気に入る人には物凄く気に入る作品だと思います。
文章も読みやすいですし、本書からゲーテに入るのも良いのではないでしょうかね。興味ある方は是非読んでみてください。
ただ、岩波文庫の表紙についてる解説に結末まで書かれてしまっているので、そこは見ないで読んだ方がいいと思います。