十蘭レトリカ(河出文庫):久生十蘭 | 夜の旅と朝の夢

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十蘭レトリカ (河出文庫)/久生 十蘭

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『久生十蘭ジュラネスク』、『十蘭万華鏡』、『パノラマニア十蘭』に続く河出文庫の十蘭短編集シリーズの第4巻です。いつまで続くのでしょうか。というか続いて欲しいのですが。

収録作品は全部で8篇と、今までの中で作品数は最も少ないですが、数頁の掌編『胃下垂症と鯨』から、80頁程度の中編『花賊魚(ホアツオイユイ)』、『亜墨利加討』まで、コミカルな『モンテカルロの下着』、『フランス感(かぶ)れたり』、『心理の谷』からシリアスな『三界万霊塔』までと相変わらずの幅の広さです。

最も読み応えのあるのは、やはり最も長い『花賊魚』と『亜墨利加討』でしょう。

『花賊魚』は、日中間の緊張が高まる中、拉致された息子に会いに母やすが、道がほぼ封鎖されている重慶に船で行く冒険譚。この母やすの肝っ玉の据わった行動と思考は凄いの一言。十蘭の小説には、こういう女傑がよく出てきます。

『亜墨利加討』は武士道もの。終始コミカルな展開ですが、結部はどこか森鴎外の『阿部一族』を彷彿とさせるものがあります。

『フランス感れたり』や『心理の谷』も愛すべき一篇。どちらもコント的な作品ですが、落ちが効いています。

前巻の『パノラマニア十蘭』は少し小粒な感じと書きましたが、本書は重厚な感じを受けます(最後の2作が長めの『花賊魚』と『亜墨利加討』だったせいかもしれませんが)。興味のある方は是非。