【おすすめBOOKフェア】ほんのまくらフェア07~12 | *音 楽 画 廊 2*

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Arikoのその日の気分で内容がかわります♪




紀伊国屋「ほんのまくらフェア」07~12

本の出だしの文章=「まくら」と呼びます。

有名なものならたくさんある。

「国境のトンネルを抜けると~」…by『雪国』川端康成

「ゆく河の流れは絶えずして~」…by『方丈記 』鴨長明

「メロスは激怒した」by『走れメロス』太宰治

「桜の樹の下には~」by『桜の樹の下には』 梶井 基次郎

「スプリットタンって~」・・・by『蛇とピアス』金原ひとみ


このフェアは、単行本に、冒頭の一文の『まくら』のみ印刷したカバーをつけてビニールで封印。

オリジナルカバーに載っているそれぞれの「まくら」に何を感じ取ったのでしょうか?

それはもう本当に研ぎ澄まされた感覚のみで、きっと不思議な本との出会いが待っていたはずです。

題名も作者も中身もわからない斬新な試みが大反響を呼び、1ヶ月半の期間中、売り上げは目標の約30倍に!


Book紹介案内担当:Arika





★ほんのまくら…07
 あの人は今度こそ助からない。三度目の卒中だった。


ダブリナーズ (新潮文庫)ダブリナーズ (新潮文庫)
(2009/03/02)
ジェイムズ ジョイス

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アイルランドの首都ダブリン、この地に生れた世界的作家ジョイスが、「半身不随もしくは中風」と呼んだ20世紀初頭の都市。その「魂」を、恋心と性欲の芽生える少年、酒びたりの父親、下宿屋のやり手女将など、そこに住まうダブリナーたちを通して描いた15編。最後の大作『フィネガンズ・ウェイク』の訳者が、そこからこの各編を逆照射して日本語にした画期的新訳。
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Arikaアイコン(小)1 「ダブリン市民の退嬰的世相を描いた傑作 ―。」
当時、世界一退廃した街と言われたダブリンを舞台に、そこに住む人々を描いた15編の短編集。旧来、「ダブリン市民」の名で知られていた作品だが、訳者もジョイス研究の第一人者の柳瀬氏の訳で新しく甦った。各編はダブリン市民中の各階層の人々の体験や突然舞い降りる天啓を描く事によって、当時のダブリンの退嬰的世相や人生の一断片を浮かび上がらせたものです。登場人物に必ずしも感情移入出来る訳ではないのですが、捻った構成で読む者を唸らせます。各編の冒頭には、作品縁の挿絵が挿入されており、雰囲気作りに貢献していると共に、編集者の意気込みが感じられます。特に、「エヴリン」では、発表当時(ペンネームは別)の掲載文が載っており、ビックリした。最初、ジョイスの作品なので難しい印象がありましたが、わりとすんなり読め、特に「下宿屋」は非常に見事な作品だなあと個人的に思いました。もちろん、本当に作品を味わうには解説書が必要だと思いますが、普通に楽しく読めました。





★ほんのまくら…08
 雨が降り出して三日目、
 家の中で殺した蟹の山のような死骸の始末に困って、
 ベラーヨは水浸しの中庭を越え、浜へ捨てに出かけた。


エレンディラ (ちくま文庫)エレンディラ (ちくま文庫)
(1988/12/01)
ガブリエル ガルシア=マルケス

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コロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの異色の短篇集。“大人のための残酷な童話”として書かれたといわれる6つの短篇と中篇「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」を収める。
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Arikaアイコン(小)1 「救われない7つの物語―。」
舞台はおおよそがラテンアメリカ。奇妙奇天烈な7つの物語。7つ中6つの短編は全て南米の何処かの海辺の寒村を舞台にしており、死とバラの香りと無数の蟹に包まれた幻想感と不思議な写実感に満ちている。各編において村にそれぞれ、老いた墜落天使、金持ちのアメリカ人、美丈夫の遺体、死期の迫った上院議員、幽霊船、毒蛇に咬まれた行商人が現われ、小波乱を起こすが、結局は日常に収斂して行く。現実と夢幻の境目がない(日本人にとっては)不思議な世界感が面白い。彼の作品らしく、どの物語も救われないが、どの人物も悲惨を体験しながらも短絡的にならず人間性を深めた強靭さがある。そこが、この作品が世界中で賞賛されてる理由なのだろう。文庫本であまり分厚くはありませんが、読み応えは保証いたします。





Arika報告書y0001おすすめ
★ほんのまくら…09
 一体いつからだろう?
 この村の上空を昼夜を問わず..
 .こんなにも多くの流れ星が通り過ぎるようになったのは......?


凹村戦争 (ハヤカワ文庫 JA ニ 2-1)凹村戦争 (ハヤカワ文庫 JA ニ 2-1)
(2010/03/10)
西島 大介

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「あの星はどこからき来て、どこへ行くのか?でも、ぼくには行き先がない」山に阻まれ、携帯電話もラジオの電波も届かない、隔離された場所、凹村。中学3年で受験生の凹沢アルは、村以外の世界を拒む凹伴ハジメ、楽しければ何でもいい凹坂カヨら同級生たちと、何も起こらない平穏で平坦な毎日をおくっていた。そんな日常を嘆き、上空を通り過ぎていく不思議な流星に願いをかけるアル―「この平和な村がどうにかなっちゃえばいい」。直後、村に降ってきたそれは、小さな世界に落ちてきた大きな世界への入り口になるはずだったのだけれど…。偉大なる2人のウエルズに捧げる、ささやかな戦争と、やさしい終焉についての物語。
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Arikaアイコン(小)1 「テーマが深すぎて逆に”深読みのできない”マンガ―。」
凹村という「世界から孤立した」場所でフツーに生きる主人公たちは、宇宙人をきっかけにかわり始める・・・・という話。 内容自体は、SFというよりは青春ファンタジー物という印象。「凹村」は「オーソン・ウェルズ」のもじりなのですが、でもSFを知らない人でも楽しめます。でも知っていたほうが楽しめます。世界自体と自分との漠然とした距離感や、生きている実感、自分がすべきこととかに、がむしゃらな幻想を抱いていて、それがまさか叶ってしまう不思議な世界観。難しい…。ただ意味が分からなくて難しいというのじゃなくて、色々考える事が出来るから難しいのだと思う。現代に対する皮肉だろうか、とも思うし、前向きなメッセージにも受け取れる。今ある世界を壊せるか?凹判ハジメのように、今ある無難な世界を選ぼうとする人は多いだろう。かなり衝撃なシーンもあった。 情報は何でもあるのに、心と世界は空っぽだ、そんな感じ。サクサクっと読めてしまえて、サクサクっと心の中身がつぶれてく。そんな感じ。もちろん、SFの知識があれば読みやすいでしょうが、そんなものなくても問題なし。ということで、この手のマンガは変に考えず、サクサクって読み流すのが一番だと思う。





★ほんのまくら…10
 いつものいやなあのばからしい高校から帰ってくると、
 机の上に麻の袋が置いてあって、
 何百年も前から生きてるみたいな
 うちのおばあちゃんがいつのまにかうしろに来てて、
 「でてきたんだよ」といった。


ぶらんこ乗り (新潮文庫)ぶらんこ乗り (新潮文庫)
(2004/07/28)
いしい しんじ

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ぶらんこが上手で、指を鳴らすのが得意な男の子。声を失い、でも動物と話ができる、つくり話の天才。もういない、わたしの弟。―天使みたいだった少年が、この世につかまろうと必死でのばしていた小さな手。残された古いノートには、痛いほどの真実が記されていた。ある雪の日、わたしの耳に、懐かしい音が響いて…。物語作家いしいしんじの誕生を告げる奇跡的に愛おしい第一長篇。

目次
ひねくれ男
空中ぶらんこの原理
手を握ろう!
おばけの涙
半分の犬
油断するなよ
歌う郵便配達
ローリング
若いってのはいいね
サルのお祭り〔ほか〕
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Arikaアイコン(小)1 「言葉で表わせない何かを心に残す小説―。」
ぶらんこに乗るのが誰より上手で、指をならすのが上手だった弟。あの子は一体何を考えていたんだろうか…?と、弟の残したノートを読み返しながら、語り手である姉がその心の軌跡をたどる物語です。時代も場所も分からないストーリーにも関わらず、最初から惹きこまれてしまう。この独特の雰囲気は「宮沢賢治」の小説にも通じるところがあるように思う。物語中で語られる、弟のノートに書き残されたたくさんの「お話」もすごく面白かったです。ラストの「指の音」とのやり取りは、人の一生に比してあまりに短い犬の一生が思いやられ、「行儀よく同じ歩調で歩いていく時間なんてないのだなあ」という思いと相まって、グッときました。長い時間をかけてゆっくりと、読む自分の変化をどこかで見つめながら何度でも読み直したい「物語」です。こういった作品は初めてで、どう表現したら良いのか分かりませんが、言葉には表せない何かを心に残す作品です。

 



★ほんのまくら…11
 いま、こうしてわたしの生活が西瓜糖の世界で過ぎていくように、
 かつても人々は西瓜糖の世界でいろいろなことをしたのだった。


西瓜糖の日々 (河出文庫)西瓜糖の日々 (河出文庫)
(2003/07)
リチャード ブローティガン

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コミューン的な場所、アイデス“iDeath”と“忘れられた世界”、そして私たちとおんなじ言葉を話すことができる虎たち。西瓜糖の甘くて残酷な世界が夢見る幸福とは何だろうか…。澄明で静かな西瓜糖世界の人々の平和・愛・暴力・流血を描き、現代社会をあざやかに映して若者たちを熱狂させた詩的幻想小説。ブローティガンの代表作。
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Arikaアイコン(小)1 「詩的で、不思議にリアルな寓話―。」
内容は、「iDEATH」や「失われた世界」からも分かるように、常に死の匂いが漂っている世界観。そしてその静謐な世界は、虎、インボイル、そして”失われた世界”に魅了され、特定の板の音を踏み鳴らすマーガレットなどの喧噪したものたちが排他されていき、最後には静かなものが残ったように感じました。 詩人が書いただけあって、詩的な静かな世界。西瓜糖で出来た世界というか、ちょっと甘くて、水っぽい、西瓜の味わい。全てが淡々としていて、描かれている行為からエネルギーが割り引かれている感じの世界。とてつもなく残酷なシーンもあるし、ラブシーンもある。子供向けに作ったわけでもないし大人向けでもない。独特の才能というべきか。誰かアニメーション(白黒のディープなやつ)にしてくれないかな。デヴィッド・リンチに監督をやってもらえれば最高だろうな…。





★ほんのまくら…12
 いまではまったく信じがたい話だが、
 私たちはついこのあいだまで花は花屋で、
 肉は肉屋で、服は仕立屋で買う世界に住んでいた。


世紀の発見 (河出文庫)世紀の発見 (河出文庫)
(2012/05/08)
磯崎 憲一郎

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幼少の頃に川の対岸に観た“黒くて巨大な機関車”、公民館の池に泳いでいた“マグロのような大きさの鯉”、そしてある日を境に消えてしまった友人A―「意味付けなどいっさい拒否するただそれが起こったままにしか語れない不思議な出来事」を経験した私はやがて、ナイジェリアに赴任することになるのだが…。小説に内在する無限の可能性を示した傑作。
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Arikaアイコン(小)1 「 誰のものでもある、不特定多数の人生 〈本文より〉 ―。」
「世紀の発見」と「絵画」の2編収録。「世紀の発見」は、幼少期、アフリカでの生活、帰国後のこと、娘、そして母との繋がり。あっさりとした語り口だけれど淡白というより落ち着く感じです。まるで緩やかな流れの川を眺めているよう…。 「絵画」はストーリーの展開より、風景の描写を眺める、まさに絵画です。 この人にしか書けない作品だと感じられた。何年も後から思い返して、不思議だったなぁという、あるある経験は誰しもがあるものですが、森をひたすらに友人と歩き回るシーンがすごく印象に残りました。ファンタジーともいえるダイナミックさも派手さを隠しつつこの小説に静かに含まれています。
主人公自身も「誰のものでもある、不特定多数の人生」と感じ、読者側ともシンクロする部分ではありますが、この小説にある人生はあくまでもオリジナル。結果、誰のものでもあり、誰のものでもない、ということがとてもよく表現されています。毎度ながら佐々木敦氏の解説も◎。