紀伊国屋「ほんのまくらフェア」01~06

本の出だしの文章=「まくら」と呼びます。

有名なものならたくさんある。

「国境のトンネルを抜けると~」…by『雪国』川端康成

「ゆく河の流れは絶えずして~」…by『方丈記 』鴨長明

「メロスは激怒した」by『走れメロス』太宰治

「桜の樹の下には~」by『桜の樹の下には』 梶井 基次郎

「スプリットタンって~」・・・by『蛇とピアス』金原ひとみ


このフェアは、単行本に、冒頭の一文の『まくら』のみ印刷したカバーをつけてビニールで封印。

オリジナルカバーに載っているそれぞれの「まくら」に何を感じ取ったのでしょうか?

それはもう本当に研ぎ澄まされた感覚のみで、きっと不思議な本との出会いが待っていたはずです。

題名も作者も中身もわからない斬新な試みが大反響を呼び、1ヶ月半の期間中、売り上げは目標の約30倍に!


Book紹介案内担当:Arika





 ★ほんのまくら…01

 ああ、これだね、ここだったね。


草すべり その他の短篇 (文春文庫)草すべり その他の短篇 (文春文庫)
(2011/09/02)
南木 佳士

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高校の同級生だった女性から手紙が届き、四十年ぶりに再会して登った浅間山での一日。青春の輝きに満ちていた彼女だったが…。人生の復路に始めた山歩きだからこそ知るかけがえのないものとは。過ぎゆく時のいとおしさが稜線を渡る風とともに身の内を吹きぬける山歩き短篇集。
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Arikaアイコン(小)1 「山登りは、人生に似ている―。」
多くの肺がん患者の死を見送るうちに、心を病んでしまった作者の山登りに人生を重ねた4作品。人は自分という世界の中を生きている。その中で人に会い、さまざまな経験をする。主人公の世界と沙絵というかつてのクラスメートの住む自分世界はまったく違う。それが一時、登山という形で交わることで、今まで自分の視界が届かなかった自分の背景を照らし出すことになる。「まだ、もうすこし歩いていたいよね」の沙絵ちゃんのことば、「草すべり」の最後は涙なしにいられない、そのように作者に共感してしまう歳になったのに気がついた。涙もろくなったのも歳のせいなのか。小説というのは、そういう本当の自分の姿、つまり、生き様を描き出していくのかもしれない。





 ★ほんのまくら…02

 秋祭りの夜のシーン。
 ピーヒャラピーヒャラ、コンチキチンと、祭りばやしの中を浮かれて歩くオレ。


おこりんぼ さびしんぼ―若山富三郎・勝新太郎 無頼控おこりんぼ さびしんぼ―若山富三郎・勝新太郎 無頼控
(1998/06)
山城 新伍

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長く復刻をまちのぞまれた本作が、10年の歳月を経てついに文庫化!芸能史に燦然と輝く偉大な兄弟を誰よりも近くで見つめ続けた俳優、山城新伍が鮮烈に描く、書き下ろし痛快エッセイ。解説には吉田豪(プロ書評家&プロインタビュアー)が特別寄稿。他では読めない若山富三郎、濃厚エピソード満載の4000字解説で、さらに読み応えもアップ。

目次
野火を斬る兄弟
誕生、チーム富三郎
撮影所の暴れん坊
菅原文太と仁義なきテレビ
壁をぶち抜く役者たち
帝大コンプレックス
親分のドサ回り
聖地、千恵蔵御大の部屋
下手な芝居
編集長軟禁事件〔ほか〕
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Arikaアイコン(小)1 「役者というものに人生を賭けた壮絶な漢たち―。」
本書は、若山富三郎/勝新太郎兄弟の芸に対する姿勢や生き様を、出会いからその最期までの様々なエピソードを交えて、二人と多くの行動を共にした著者が語っています。主人公の勝新や若山富三郎のファンのみならず、あの時代を生きてあの時代の映画を愛した人ならば読んで損は無い、むしろ読まねば損をするぐらいの良書です。





Arika報告書y0001おすすめ
 ★ほんのまくら…03
 あした世界が終わる日に 一緒に過ごす人がいない


求愛瞳孔反射 (河出文庫)求愛瞳孔反射 (河出文庫)
(2007/04)
穂村 弘

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獣もヒトも求愛するときの瞳は、特別な光を放つ。見えますか、僕の瞳。ふたりで海に行っても、もんじゃ焼きを食べても、眠っても、深く深く共鳴することができる、心のシンクロ率の高い僕たち。だから、いっしょにレートーコに入ろう。歌人にしてエッセイの名手、穂村弘が贈る、甘美で危険な純愛凍結詩集。

目次
あした世界が終わる日に
デニーズ・ラヴ
おねがい
氷川丸
求愛者
獣姦爆撃機
ドライブスルー
月光をたよりに
それはよく晴れた真夏の
国道にて〔ほか〕
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Arikaアイコン(小)1 「恋を綴る言葉には、適度の毒が必要―。」
この、ほんのまくらフェアで最も売れたのが、この『求愛瞳孔反射』。素晴らしい詩集ですが、普段は限られた人しか買っていなかった印象が、この一文のインパクトで、入荷しても即完売する繁盛ぶりになったそうです。単行化にあたり、編集者が詩を時系列に並べなおしたことが、とてもいい。恋した気持ちになれた。せつない。平凡だと思っていたことばが詩の中で強い吸引力を持って変身させ、言葉遊びという想像の詩世界に出会えます。素晴らしきリリシズムと毒のあることば選び。中でも「もんじゃやき」と「国道にて」が特に好きです。本文の紙の色、五色で綺麗です。挟み込まれている写真が詩と相まってやたらとドキドキさせる代物で、心臓に悪いです。




 ★ほんのまくら…04
 あたしが発生したとき、
 あたしのパパとママは地中海のなんとかいう島の、
 リゾートコテッジにいたのだそうだ。


神様のボート (新潮文庫)神様のボート (新潮文庫)
(2002/06/28)
江國 香織

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昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”―恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。
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Arikaアイコン(小)1 「愛ではない、恋が純化したら狂気になりました―。」
母親と娘、交互の視点から綴った小説。恋が純化したら狂気になりました、そんなお話です。母親は、狂気に満ちていてはっきりいって異常です。他者に依存し、それを失ったら本当に生きていけない。そのことをとっても自然に書かれています。この作品の最大の魅力は葉子と草子の完璧な対比だと思います。永遠の少女のような母・葉子と大人びた娘・草子…。旅がらすのようにいつも一緒だった二人ですが、草子が現実を生きるようになった時、母の世界と娘の世界が徐々にズレてゆき、やがては完全に別の世界へと分かれてゆく、その構成も見事です。それは草子の成長であるけれどたまらなく切なく響くのです。ラストシーンで葉子が見たものは現実でしょうか?、それとも夢? こんな狂気な恋は怖いと思いながら、こんな恋がしたいとちょっと思ってしまう私がいます。






 ★ほんのまくら…05
 あたしの姉が死ぬ。


ゴッドスター (新潮文庫)ゴッドスター (新潮文庫)
(2010/10/28)
古川 日出男

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ここは東京湾岸の埋め立て地。あたしと息子のカリヲと地霊メージの住む場所。社会から隔絶された埋め立て地では時空も歪んで、人間と地霊の不思議な邂逅さえ実現するのだ。けれどここに犯罪者のリアルな暴力が侵入してきた。戦いが始まる―ナイフの如くシャープな文章が、現実と幻想を華麗に融合させる。多彩なイメージと圧倒的スピード感に溢れた古川日出男ワールドがここに。
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Arikaアイコン(小)1 「ストーリーよりも彼のコトバ、リズムを楽しむ―。」
こういうのを「考えるな、感じろ」ってタイプの小説なんだろうなと読み終わった後に思った。古川日出男さんは好きなタイプの作家でよく読んでいるんだけど、読むのにとても体力とリズムが必要になる。体調が良くないときは、彼の独特のリズムについていけず、途中で読むのが辛くなる。そんな時は積んでしばらく放置して、体力とリズムがいい時に集中して読み出す。あらすじ的には、妊娠中の姉を交通事故でなくした女性が、偶然、出会った少年と母子のように暮らしながら、ある事件に巻き込まれるというものだけど、結末もあるようでないような不思議な物語。相変わらずの古川節で、ストーリー性よりも、たたみかけるような彼のコトバを楽しむ代物です。最後まで読んではみたけど、私にはどうしても主人公の女性に共感できなかったが、それでも最後まで読んでしまったのは、この本に魅力があるからなのだろうか?





 ★ほんのまくら…06
 あのころはいつもお祭りだった。


美しい夏 (岩波文庫)美しい夏 (岩波文庫)
(2006/10/17)
パヴェーゼ

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都会で働く一六歳のジーニアと一九歳のアメーリア。二人の女の孤独な青春を描いた本書は、ファシズム体制下の一九四〇年、著者三一歳の作品。四九年にようやく刊行され、翌年イタリア最高の文学賞ストレーガ賞を受賞。
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Arikaアイコン(小)1 「青春は崩壊する過程だというテーマは、
年を重ねて後ろからみると懐かしくも甘酸っぱい気持ちで見守れる―。」

ヴィットリーニ、カルヴィーノ、パヴェーゼは、イタリア20世紀文学におけるネオレアリズムの代表者です。パヴェーゼは反ファシズムと疑われ、1年間抑留。この「美しい夏(La bella estate)」を執筆した2ヵ月後の1950年に自殺。この本は3部作の最後。書き出しの一文が、喪失と成長を予感させる、印象的な作品です。16歳のジーニアと19歳のアメーリアの関係を軸に物語は展開しますが一人の少女が大人へと変わる"瞬間"を上手に描いているなと思いました。イタリアの作家はあまり読まない…というか、そもそも売っている本が少ないので、とても新鮮でした。