漫画家・楠勝平(くすのきしょうへい) | 雑学三昧のブログ

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雑学三昧のブログ-楠勝平作品集

楠勝平作品集 1975年 青林堂:刊



作品集奥付

奥 付  
限定番号500部の内 53
昭和50年(1975年)3月15日
定価 3200円



作品集函

楠勝平作品集 外函(そとばこ)



楠勝平写真

楠 勝平(1971年、ガロ臨時増刊号より)




ガロ-楠勝平特集

月刊ガロ8月増刊号特集「楠 勝平」(1971年)



わかもの-1971年2月号

月刊「わかもの」1971年2月号
「ちょうちん」(楠 勝平)
※この作品は、楠勝平作品集の巻末にある
「楠勝平全作品リスト」のなかの、昭和45年
(1970年)の「めくらのはなし」(わかもの)と同
作と思われます。




彩雪に…①

彩雪に舞う…(1973年)_1


彩雪に…②
彩雪に舞う…_2
「いいかい 雪が降ったとき」
「羽を持ち、ジーット 雪を見つめて」
「降ってくる雪を とめるんだよ」


彩雪に…③

彩雪に舞う…_3
「するとからだがかるくなるんだよ…」


彩雪に…④
彩雪に舞う…_4


彩雪に…⑤

彩雪に舞う…_5

「ばあちゃん-」




三歳年下の従兄弟と2人で、神田神保町の当
時材木屋の2階にありました青林堂を訪ねた
のは1975年頃だったと思います。前年に他界
された楠勝平さんの作品集が限定本で出版
されるのを知り、購買予約に行ったのです。
材木屋さんの資材置き場の左側にある暗くて
狭い階段を上がると青林堂の編集部兼社長
室兼経理兼居間券倉庫兼…でした。
どの本が新刊でどの本が返本か判然としな
い部屋に、編集長・発行人の長井勝一さんは
いらっしゃいました。『ガロ』誌上でよく水木しげ
るが描く(のちには、南伸坊やら、渡辺和博に
も「カッちゃん」と、描かれることになる)、長井
勝一編集長です。従兄弟とわたくしはかなり
緊張して、「楠勝平作品集を予約しにきました」
と伝えますと、「あー、そうなの」と予約の手続
きをし、棚に乱雑に立ててある漫画家の作品
集を説明して下さり、帰りぎわに、石子順三の
「現代漫画論集」を2人ともにくださりました。
さらに、帰ろうとするわたくしたちに向かって
「あ、昼飯をご馳走するよ」と一緒に階段を下
りていらっしゃいました。従兄弟とわたくしは
思いがけない僥倖に「ええー!差し押さえに
来た税務署が同情して帰って行ったという
「火の車・青林堂」の社長にゴチになっていい
ものなのかしら?と顔を見合わせましたが、
こんなご恩を受ける機会は二度とないと思い、
素直に長井さんのあとにつき従って「いもや」
という天麩羅定食屋に入りました。長井さんは
一番安い天麩羅定食を頼んでわたくしたちに
振る舞ってくださいました。もう無茶苦茶美味
しかったです。というか、味なんてどうでもい
いんです。この「思い出」だけで、10年は生き
ていける、と思いました。

楠勝平さんは15歳ころから漫画を描き始め、
白土三平のアシスタントなどしながら主に月
刊誌『ガロ』に作品を発表しておりました。
心臓病の持病がおありで、30歳で他界されま
した。端正な絵と山本周五郎がお好きだった
という作風は、江戸時代の職人や現代のなか
のなにげない日常に潜む不幸や死を多く描い
たように思います。特筆すべきは、時代物の
「おせん」、「茎」などでは、女性が働きながら
力強く生きてゆく姿を描いたことです。凜とし
て媚びるところがありません。代表作とされて
いる「彩雪に舞う…」は亡くなる一年前に『ガロ』
に発表されました。
江戸時代、下町の長屋に祖母と二人で住む、
左衛門(6、7歳くらい)は、ある夏、内蔵に腫瘍
(がん)ができて床(とこ)に就く毎日を送ってい
ました。遊び仲間があげる歓声を遠くに聞きな
がら、庭に来る鳥(鳩らしい)を眺めて孤独を
紛らわしている日々です。鳥を眺めて喜ぶ左
衛門少年を見て、ご近所のおじいさんは、そ
っと餌を撒いてさらに鳥を集めてくれました。
秋になり、左衛門少年の病状はさらに悪化し
ました。木々も葉を散らす初冬になって、鳥
たちも姿を見せなくなります。
1羽の鳥が庭の木の枝にとまりました。

少年:「ほかのみんなはどこへいったの?」
鳥 :「つつじが芽をだしたらまたくるよ」
   「冬がくると葉は枯れ土にもどり」
   「鳥は空にかえるんだよ」
少年:「空に」
鳥 :「そう…空に」
   「春まで待っていておくれ…」

ここで少年はひどく咳き込みます。

鳥 :「いいかい よく聴くんだよ」
   「空に舞うひけつをおしえよう」
   「それは……」

ここからは上掲の「彩雪に舞う…1,2,3,4,5」
をご覧下さい。素晴らしいコマ割りです。最終
ページでは、1頁全面に左衛門少年が、雪の
降る夜の空に鳥の羽をしっかり握りしめ、嬉
しそうに「ばあちゃんー」と舞い上がっていくの
です。もちろんこれは少年の死を意味してお
ります。

鳩って渡りをしないのでは?とも思いますが、
まあいいんです。楠勝平さんは生粋の江戸っ
子でしたので、「ひ」と発音できず「し」になって
しまうらしく、「彩雪に舞う…」の吹き出しのネー
ムにも「いかんなァ腫瘍がしろがりはじめた…」
と町医者が言っております。

例:    「そこの道をまっすぐ行って左にま
       がるとよ…。」
江戸っ子:「そこの道をまっつぐ行ってしだり
       にまがるとよ…。」