★種デス、AA医務室のロアノークとミリアリア。フラマリュ、トルミリ前提。
「食事です」
「サンキュ」
医務室に繋がれた地球軍大佐、ロアノークに食事を運ぶ。あの頃と似たようなことをまたする羽目になるなんて、本当に不思議だ。
それにしても、何処からどう見てもフラガさんだ。声も仕草も何もかも。マリューさんはあれ以来、ここには来ていないようだ。フラガさんが実は生きていて、記憶を失った状態で目の前に戻って来るなんて、嬉しいと同時に認めたくないのだろう。自分のことを忘れてしまっているなんて、気持ちの整理はすぐにはつかないだろう。残酷な再会だ…。
「そんなに見詰められると、食べ辛いんだけど」
「…」
「アンタも”フラガ”って奴のこと、知ってるんだ?」
「…はい、とても頼りになる人でした。軍人としてだけじゃなく、人としても優しくて、AAには絶対に欠かせない人でした。どれだけ私達が助けられたか。…目の前で自分を庇って死んだ時、どんなに絶望したか…」
「だから何度も言うけど、俺はアンタらの言う”フラガ”じゃない。一体俺にどうしろっていうんだよ?」
「あなたを亡くして2年、ずっと忘れられずに密かに思い続けて…。やっとまた立ち上がって、あなたが守ってくれたAAで、戦う決意をしたっていうのに…。
ここにいるのに、死の淵から蘇って、帰ってきてくれたのに…!本当に奇跡を起こしてくれたのに…!早く思い出してよ、フラガさん…!」
「お、おい…、ちょっと待て、アンタまさか”フラガ”のこと…」
「馬鹿、マリューさんの話よ!…でも、私にもその気持ち、痛い程分かるから…」
「…もしかして、アンタも…?」
マリューさんとはあの戦いで恋人を亡くした者同士、この2年メールのやり取りをしたり、時々会ったり、繋がっていた。とても他人とは思えない、大切な人だ。もう泣いて欲しくない、これ以上哀しんで欲しくない。
でも同時に、つい考えてしまう。
「…フラガさんはこうして帰ってきた。…トールは戻ってこないのに…」
「…」
記憶のない人に言っても仕方ない。フラガさんが奇跡のような例外というだけで、死者は戻らない。
マリューさんが話した方が思い出すだろう。私みたいな外野が何を言っても、思い出したりしないだろう。
分かっている、そんなこと。でも…。
「トールがいないのに、何で…」
「…」
「…なんて、覚えてない人に言っても仕方ないですよね」
「お、おい…」
せめて泣き出す前に医務室を出た。早く思い出してよ、マリューさんをこれ以上哀しませないでよ、フラガさん…。
あぁ、トールに会いたいな。…ディアッカと話したいな…。