哀、峰不二子(ルパコナ)、昴哀  騎士 2/2 | 雑種犬 G種ディアミリ/テニミュリョ桜王子/DCジンシェリ・秀明 等小話ブログ

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彼女がシェリー酒のグラスを傾けると、ブラウンの液体が真っ赤な唇に吸い込まれる。

魅入っていると、見透かしたようににこりと笑う。
 
「あなたも飲む?」
「お酒には興味ないわ、飲んだこともないし
…どんな味?」
「そうねぇ…。甘い甘い、裏切りの味」
 
赤い唇はベルモットを思い起こさせるが、薬を作らせたい女と抹殺したい女、目的が真逆だ。
 
「…私、裏切りは嫌い」
「あなたが言う?」
 
 
 
言い返さない。
否定すれば彼らを裏切ることになる。肯定すれば彼らを裏切ることになる。
 
私は狡い。ずっとそうやって、グレーゾーンに逃げてきた。
そんなことは分かってる。でもどうしたら良い?
 
「考え過ぎよ。利用出来るものは利用すれば良いのよ。
それも自分の力にしちゃえば良いの」
「…利用するのもされるのも嫌い」
「困った子ねぇ、じゃあどうしたいの?」
「…」
 
目覚める度思う。
今日も何も起こりませんように。平穏無事に過ぎますように。
そんな些細な願いは、この世界的怪盗にも、正体不明の騎士にも叶えようがない。
 
 
 
彼女が伝票を手に席を立ったので、慌てて続く。
外はすっかり夕陽に染まっていた。
 
「送りましょうか?あなたの好きなハーレーで」
「遠慮するわ。自分で運転出来ないのは詰まらないし」
 
飲酒運転を窘めるべきかと一瞬思ったが、結局別のことを口にした。
 
「ねぇ…、…また会えるかしら?」
「会ってくれるの?」
「悔しいけど、こんな風に話せるのって、あなたくらいだから」
 
「嬉しいこと言ってくれるじゃない。じゃあ薬の秘密を」
「ダーメ」
「…こっちで仕事があったら、勧誘ついでに寄ってあげるわ」
 
「私が生きてる保証はないけどね」
「大丈夫じゃない?あなたの騎士、相当優秀だし」
「…だから、私のじゃないってば」
 
彼女にこうまで言わしめるとは…。
 
「向こうが勝手に尽くしてくれるなら、使ってやれば良いのよ。
それが良い女ってものよ」
 
走り去る彼女が見えなくなるまで見送った。
狙った獲物は逃がさない女だ。
きっとまた会えるだろう、私が生きてさえいれば。
 
 
 
 
 
 
「ただいま」
「お帰りなさい」
 
何故か隣人がキッチンに立ち、エプロン姿で料理をしていた。
 
「…何してるの?」
「夕飯の手伝いを。遅かったですね、寄り道ですか?」
「…」
 
やはり見張っていたか、盗聴でもしていたのか。
自分が調べられたことも、分かっているのでは?
 
「…古い知り合いに会って、少し話をしただけだから、余計な詮索は無用よ」
「良いんじゃないですか?君が相手を信頼しているなら」
 
『怪盗には興味ない』と言っていた。
彼女はこの男のことを、何処まで調べたのだろう。
惜しいことをしただろうか…。
 
 
彼が帰ったキッチンで、夕飯の準備をする。
と言っても粗方彼がやってしまったので、米を研ぎながら考える。
 
彼女との取引は、FBIの証人保護プログラムよりも強力だろう。
でもどちらにしろ行き先は海外だろう、簡単には皆に会えなくなる。
 
大体相手は、骨の髄まで立派な怪盗。
組織から抜けて、怪盗の一味になるのか?
 
そもそもあの薬だって、若返りとか永遠の美貌とか、そんなことの為に作った訳じゃない。
…それに。
 
 
 
あの男の正体は、本人の口から明かしてもらう。
その日まで、私はここにいる。
 
別に彼が、私専属の騎士でなくても良い。
今はまだ、何かと首を突っ込んでくる、怪しい隣人で良い。
…もう少し貸していてね、お姉ちゃん?
 
「気が変わったり、ガールズトークがしたくなったら電話して♪」と手渡されたメモに火を着ける。
勿論頭に叩き入れて。
 
「またね、峰不二子」
 
私の憧れの、自由で強く、美しき女性。