QDRでも予測されているように、予見し得る将来に米国に挑戦できるような地域大国、地域勢力は台頭しないであろうが、台頭を許してはならないというのもまた米国の世界戦略、安全保障戦略の重要な基本的考えである。それには、今現在はとうてい考えられない話ではあるが、日本が米国の影響下から離れてひとり歩きするような事態にならないようにする点も含まれる。
ましてや日本が、第二次大戦前のように太平洋を挟んで、米国と利権を争い、覇を競うような勢力になる事態は何としても阻止するというのが、米国の基本戦略である。それを好む好まないは別として、アジア・太平洋地域に対して米国はこのような姿勢と戦略で臨んでいるという客観的情勢を踏まえ、この地域の安全保障と日米安全保障条約、そして日本がこの地域にいかに関与していくのかを考えなければならないだろう。
それにはさらに、アジア・太平洋地域における戦略状況、不安定要因、そして日本にとって脅威となるような要因を客観的に把握しておく必要がある。米国防戦略の四年次見直し(QDR)にも指摘されてあったように、冷戦後の世界情勢ぱ不確実な要素にあふれ、むしろ冷戦当時よりも不安定化していると言える。
冷戦は東西両ブロックのどちらかに属するか、さもなければどちらのブロックにも属さない立場を取るかの三つに一つの選択であり、最後の立場を取るにしても、東西どちらか寄り、ないしは東西どちらかのブロックと、より強い関係を持つという立場の選択をせねばならなかった。つまり、完全な中立はありえず、東西ブロックのどちらかの勢力圏内での存在しか選択の余地がなかったのである。
この勢力圏への参加の基本的単位とは、いわゆる西洋近代国家の概念で定義されるような「国家」でめった。数が支配する日本の政党のメンバーと同じような単位であるため、この国家という基本単位を維持するためには、少々の原則から外れる行為でも無視されるか、黙認される傾向がめった。例えばその国家の現体制に敵対するような少数民族、あるいは現体制の存在を危うくさせる可能性を持つ宗教勢力などをその政権が弾圧しようとも、「やむをえないもの」として容認、ないしは黙認される場合が少なくなかった。