Zarchery's fanciful story -2ページ目

Zarchery's fanciful story

Zarcheryが考える物語。ただしストーリは気が向いた時に書き、予告なく変更される。たとえそれがすでに公開されている内容だとしても。そんな物語をはたして貴方は読む気になるだろうか?
                 - Since March, 2007 -

Zarchery’s fanciful story 「あ・・・」坂田は少々言葉につまった。なぜなら回転した椅子に座っていたのは美しい女性だったからである。そして何より、坂田が会いたい人物ではないのだ。どこかでミスを犯したかと、脳内のシナプスが急速に活動を始め、今自分が置かれている現状を判断しようとしている。

「ご安心を」坂田の様子を見ていた女性が微笑む。そして彼女が椅子から立ち上がり目の前の窓に手をかざす。すると驚くことに窓だと思っていた一部が“ガクン”と音を立ててドアのサイズに前に浮き出る。

「あっ」坂田は思わず声を漏らす。

「これは窓ではありません。単なる壁です。素敵でしょう?」そう言って女性がドアに手を当て呪文を唱える。

「ブラックチェリー」

カチッと音がすると、さらにドアノブらしき突起物が出てくる。そのノブを回してドアを押すと向こうに別の空間が存在した。

「どうぞ」女性が坂田を促す。

「あ、はい」坂田はドアの方へ歩き出した。

その部屋は殺風景で殆んど物が無い。四方をグレーの壁に囲まれたワンルーム(畳6帖)くらいの部屋である。その部屋の隅にコーヒーメーカがー置かれている。彼女が先ほどの”壁のドア”を閉めると、ウィーンッ、カチッという音と共に完全な壁と化した。彼女はそれを見届けると迷わずコーヒーメーカーの場所へ向かう。そして急に坂田のほうへ振り返り「少し揺れますので、気をつけてください」と言ってコーヒーメーカのスイッチを入れる。

すると彼女の言うとおり部屋が揺れた。というより部屋が下がっている。坂田は周囲を見ながら考えた。そして心の中でつぶやく『巨大なエレベータか?』

「地下に向かっています」女性が微笑んで答える。

「あの・・・ここはまだ空港内?なんでしょうか?」

「さぁーどうでしょう。難しい質問ですね」

「難しい?」

「切り分けが難しいです。今、移動中ですから。あ、申し送れました、私、光座(こうくら)の秘書をしております進道(しんどう)と申します」

「シンドウさん?」

「はい、“進む道”と書いて進道(しんどう)です」

「これはどうも。私の名・・・・」坂田が言い終わる前に彼女が口を挟む。

「坂田様ですね。承知しております。そろそろ着きますので足元に気をつけてください」

彼女が言い終わる頃に床がガクンッとなった。坂田は一瞬よろめきそうになったが、すぐさま体制を立て直した。すると今度は彼女がコーヒーメーカのコードがコンセントの上の段に挿入されているものを抜き、コンセントのしたの位置に入れなおした。様々な機械音と共に再び壁からドアが浮き出す。そして彼女がその扉を開けて坂田を誘導する。坂田は目を疑った。自分は本当にどこかへ移動したのだろうか?とさへ思えた。なぜなら一番最初に彼女に出会ったときと全く同じ部屋がそこに存在したからだ。そして先ほどと同じように窓辺の椅子に誰がが座っており、椅子が回転する。違うのは椅子に座っている人物だけである。

「お待ちしておりましたよ」椅子に座った男性が言う。そう、坂田が会いたかった人物である。

「坂田です」

「光座(こうくら)です」紳士は手を伸ばし握手を求めた。坂田はそれに答えるように手を伸ばす。

「イギリスの研究機関でお世話になった所長のエドワードが・・・」

「ご安心下さい、彼は無事です。私達によって守られています。今のところは」

「無事?え?」まったく予期しない答えに坂田は驚いた。

「ギリギリの所ですり替えました。死んだのは別の人間です。彼は今、私達の手によって守られています」

「そうですか」坂田はほっと肩をなでおろしたが、再び不安が込上げ言葉にする。「先ほど、“今のところは”とおっしゃいましたよね?」

「はい」

「その意味は?」首を傾げる。

「そのままです」紳士は全く動じることなく話した。

「・・・・どいういう?」




Zarchery’s fanciful story 坂田は空港内のとある喫茶店に入った。そしてポケットから小さな文庫本を出しテーブルの隅に置く。ブックカバーをしていない為、タイトルがはっきり読み取れる。黒い背表紙に赤い文字で“ブラックチェリー”と書かれている。 しばらくすると店員が注文を聞きに来たので坂田はコーヒーを頼んだ。コーヒーが運ばれて来るまで静かに周りを観察した。ただボーッと一点を見つめるようにして店内に注意を払った。コーヒーが運ばれてくると隅に置いておいた“ブラックチェリー”と書かれた本を片手にゆっくりとコーヒーを飲み始めた。最初の一口が喉を通過すると思わず声が漏れる。

「あぁー」

その言葉を口にしてすぐさま思う、年をとったなぁと。1人苦笑いしながら一時の休息時間を過ごす。そしてコーヒーを飲み干してつぶやく。

「遠いなー」坂田は小さく苦笑いしながら言う。

飲み干したコーヒーカップの底に小さく刻まれた文字・・・


"MOW "


そう、次の移動先は極寒の地モスクワである。コーヒーをもう1杯おかわりして半分ほど飲み干したら席を立ち喫茶店を後にした。『今度こそ寝るぞ!』坂田は心の中でそうつぶやきながらカウンターで航空券を手にして飛行機に乗り込む。荷物が殆んどない身軽な乗客だ。機内は空いていた。思わず顔が微笑む。タップリ寝れるのだ。坂田は機内食をとる事もなく幸せの眠りについていた。坂田の胸のポケットのバイブレーションがなるまでは。ビクッっとして起き、ポケットを探る。携帯メールだ。最愛の妻から、たったひと言「カンガルー♪」と。「あっ!」思わず叫んだ。メルボルンでのちょっとしたトラブルでお土産をすっかり忘れたのだ。『カンガルーの代わりに・・・マトリョーシカでどうだろうか?』優しい彼女の顔が坂田の脳裏でみるみる険しい表情に変化していく。『いや、いや、あ、ウォッカで酔わせる手もある!』「はははっ!」と声を出して笑ったものの、すぐに大きなため息をついた。そんな坂田の様子を見ていた通路を挟んだ向かいの白髪の女性が「Are you okey?」と坂田にたずねる。坂田は思わず表情筋をフルに使って「にっ!」と微笑んで見せた。坂田のぎこちない笑いに白髪の女性もつられてぎこちなく笑う。数秒その状態で固まった後、何事もなかったかのように真顔にもどりブランケットをかけて眠りにつくフリをした。白髪の女性が目を丸くしていることなどお構い無しに。しかし本当に体が疲れきっていたのだろう。坂田は再び深い眠りの世界へ落ちていた。

どれくらい寝たのだろうか、とにかくエネルギーがみなぎっている感じだ。同時に飛行機がモスクワへ到着した。そして迷うことなく、空港内のあるトイレに向かった。トイレに誰もいないことを確認し、一番奥の個室へ入る。白いタイル張りのトイレだ。鍵を閉め、トイレの水を流し、手をぬらす。その濡れた手で上から4つ右から4つそれぞれの縦横がクロスする場所に手を広げた状態で当て、右足を床の右から2つ上から2つ目、左足を右から上から2つめに合わせる。「ゴーッ、ガクンッ」と音がする。タイル張りの一部がドアの大きさ程度分浮き出てくる。そのドアを回転扉の要領で押すとドアが押され向こう側が見える。暗闇のエリア。そこへ足を踏み入れ回転扉を元の状態に閉めると再び「ゴーッ、ガクンッ」と音がし、元のタイル壁に戻る。そして自動的にトイレの鍵が解除され、暗闇のエリアに小さな明かりが転々と灯る。目の前に見えるのは細く狭い廊下。坂田が歩く、コツコツという靴音だけが静かに響き渡る。やがて扉が見えてくる。扉のすぐ横にある小さなボックス、そこに右手を広げて入れる。センサーが感知し、扉が開く。が・・・扉を開けると2,3歩行った所に再び扉がある。両サイドが壁で正面に扉。今入ってきた扉を閉めると、機械音がする。

「コードネームをお願いします」

「エックス・ティー・キュー」坂田はゆっくりと答える

「パスワードをお願いします」と再び機械音が流れる。

「ビーシー」

「もう一度」

「ブラックチェリー」

「作業が完了いたしました」

「どうもありがとう」坂田がそういうとカチッとドアのロックが外れたような音がする。扉を開けるとそこはまるでどこかの会社のオフィス・・・いや、オフィスにある社長室のような所といった方がいいかもしれない。窓が大きくとられていて光が燦々と降り注いでいる。その窓辺の席で立派な椅子に座っている人物。坂田はその人物に会いに来たのだ。椅子が回転し、坂田の方へ向く。

「お待ちしておりましたわ」椅子に座った女性が微笑みながら上品に言う。





Zarchery’s fanciful story 「お久しぶりです」知色はそういって車椅子の男の方へ体を向ける。

「知色さんにお会いするのはどれくらいぶりでしょう。“皆様”はお元気ですか?」車椅子に乗り、白衣を身にまとった白髪頭の欧米人風の紳士が問う。

「お気遣い有難うございます。“私”は元気です」相手の“探り”を満面の笑みで返す。そう、彼らは知らないのだ。あの、知色の家にいる男の正体を。

「家ではどんな話をされているのですか?」紳士はニヤリと笑いながら尋ねる。

「私は独り言は言わない方かしら」知色はまったく表情を変えずに笑顔で答えた。完全なるポーカーフェイスだ。

「じゃあ、ぜひ私を招待していただきたいですねぇ」

「あそこはジジが残してくれた私の為の砦です。たった一つの憩いの場を壊したくありませんわ」

「壊すだなんて、とんでもない」

「でも、貴方の部下は何度も試みているようですわ。なぜかしら?」

「それはそれは。申し訳ありません。でも残念ながら私は彼らではない。ただ人間というものは好奇心にかれて、時に一線を越えたくなるのかもしれませんねぇ。」

「好奇心? 命令ではなく?」

「命令?それは心外ですね。僕はちゃんと規約を守っている。うちの部下が血迷ったことは謝りますが、僕はそんな指示をしたことは一度もありませんよ」

「そうですよね、私は“世界のブラック規約”に守られているのだから」知色は相手を威嚇しるように微笑んだ。

「もちろんです。だから私は貴方に何一つ危害を加えてはいません。私達は貴方を守っているのです」

「守っている?・・・なるほど」

「ご不満でも?」

紳士の問いに知色は微笑み返すだけだった。

「私、これから行くところがあるので失礼させていただきます」

「デートですか?」

「ご存知です?私、これでも社会人ですのよ」そう言いながら知色は紳士の脇を通り過ぎた。


・・・・ ・・・・ ・・・・ ・・・・


知色はブルーラインの自席にて窓を眺めていた。窓辺にある植物の葉を無意識に触る。

「しゃべったら面白いですよね」という男の声で振り返る。部下の安森だ。

「何の話?」突然、部屋に入ってきたのに怒りもせずに安森に問う。

「植物の話です」

「何語で?」

「な、何語・・・、いや、そこまでは考えませんでしたけど」

「なぜ?」知色は挑発的に質問を繰り返す。

「なぜって、いや、ただ人と会話できたらなって」

「どこの国の人と?」

「・・・・すみません」安森は知色が意図していることを悟った。

「よろしい。人の部屋には入るときはノックするなり、挨拶してからにしてね」

「はい。気をつけます」

「で、用件は?」

「あ、例の案件が通りまして、詳細資料をお持ちいたしました。それと向こうのトップが部長に一度お会いしたいとのことでスケジューリングさせていただければと思います」

「分かりました。資料はそこにおいておいて。内容を確認して日程に関してはメールで調整しましょう」

「はい。有難うございます!失礼します」

「安森くん、激しいのね」

「はい?」

「キスマーク、くっきりよ」知色は笑いながら言う。

「えぇーっえぇぇえー!?」安森は壊れたように叫んだ

「叫ぶなら、ここを出てからにしてくれる?」

「しっ、失礼しました」安森しどろもどろで出て行った。

知色はクスクスと笑った後、再び窓辺に立ち、観葉植物の葉を触りながらしばらく考える。心の中で『始まりの始まりの始まり』そうつぶやきながら携帯を握り番号を打つ。

「初めまして、心美真 知色と言います。突然のお電話で申し訳ありません。どうしても貴方とお話がしたく・・・本日、どこかでお時間をちょうだいできないかと思いまして・・・」

「貴方からの電話を心待ちにしていたのよ」受話器の向こうで優しく柔らかい女性の声がする。


Zarchery’s fanciful story坂田は車で移動していた。家に立ち寄ることなく空港へ向かっていた。BCの毛髪を信頼おける機関に分析依頼する為に。

空港で車に乗せておいた銀色のキャリーバックを下ろし、それを転がしながら携帯で電話をかける。

「Hello」受話器の向こうで愛しの女性の声がする。

「私だ。悪いが今夜は帰れそうにないんだ。オーストラリアのお土産は何がいい?」

「kangarooooo!!」受話器の向こうで女性がケラケラと笑う。

「・・・・ いい方法を考えておくよ。じゃ行って来る」坂田はそう言って電話を切る。

搭乗手続きを済ませ、機内に乗り込む。行き先はメルボルン。『寝れるな』そう心の中でつぶやいていた。しかし、隣に座った男性が良くない。どこの香水か分からないがとにかくキツイ。頭から瓶ごと浴びたのか?と思うほどの強烈な匂いにめまいがする。さらにこれが坂田の嫌いな匂いだったりするから始末に終えない。ハンカチで鼻を覆っても呼吸と共に確実に体内に流れ込む。限界だった。客室乗務員をつかまえ、どこか空いている席を聞いたが無駄に終わった。それどころか、その乗務員が不快な顔をする。まるで坂田自身が悪臭を放っているかのような表情だった。隣の男の香水が自分の服にもうつっているのだ。『自分ではない!』と主張したかったが、その前に乗務員が背中を向けた。

諦めてブランケットをもらいガバッと被り意地で寝てみることにした。が、最初から結論はでていた。到底無理なのだ。長い長い飛行機の旅を終えてメルボルンに着いた時は完全に疲れきっていた。

所定の場所でキャリーバックを受け取る。その瞬間、坂田に嫌な予感を感じさせた。キャリーバックが不自然だった。何がと言われると分からない、ただ、微妙に色が違う。同じ銀色ではあるのだが、どこかくすんでいる気がした。とっさにその場で中身を確認した。中身は全て同じものだった。ただ・・・ある場所が違った。キャリーバックの内側に小さく刻印してある。それは手で触れなければば分からない、いや、知らない人間が触れたくらいなら見過ごしてしまうほどの小さな刻印。「XTQ」とアルファベットが刻まれている。

「まずい!」そう言って坂田はとっさに周りを見た。

あのキャリーバックはある条件を充たすと・・・。

ボンッ!

遠くで音がした。同時に「キャァーッ」という人の声。坂田は人ごみをかき分けながら慌てて駆け寄ったが遅かった。キャリーバックは燃えていた。すぐに消火作業が始められていたが坂田は中身を確認することもなく、その場を離れた。タクシーを拾い、海岸へ向かった。キャリーバックの“ある条件”。坂田とXTQと刻印されたキャリーバックは常に“一緒”でなければならない。キャリーバックがある距離以上ころがされる場合、坂田からある指定された条件の距離以上離れそれが指定の時間を越えるとバックごと消滅する。どんな証拠も残さずに。坂田は小さくため息をついた。

そしてタクシーが海岸についた。そこで“すりかえられた”キャリーバックから身元の分かるものだけを取り出し、残りを全て海へ捨て再びタクシーに戻り、「空港へ」そう言って坂田は腕を組みながら瞳を閉じた。

心の中でつぶやいてみる。

『確かな事は1つ。誰かが狙っている』


Zarchery’s fanciful story あの日、そう、今でも鮮明に脳裏に焼きついているあの日。

知色は見つめていた。ジジと一緒に。ジジの手がシワシワで大きくてどこか掴みづらい気がしてジジを見みると泣いていた。知色はジジの視線の先に自分の視線を重ねた。そこには知色の母がいた。でも知色の母親が知色の顔を見る事はなく、瞳は閉じたままだった。知色には理解できなかった。死という言葉の意味を。

ジジが教えてくれた「知色のママは死んでしまったんだ」と。“死”とは何かをジジに問うと「生命がなくなること、息絶えること」だと言う。

「生命がなくなるって?息絶えるって?」と再び聞き返した。

「もう、知色と遊べない。知色と一緒に話ができない。もうママは起きないんだ」とジジはしゃがんで知色に優しく答える。

「ずっと寝てるの?」

「ずっと寝てる」

「でも、たくさん寝たら目が覚めるよ」

「ママはもう目が覚めないんだ・・・・」ジジがそういい終わらないうちに音がした。グチャッ、と。それは何故か耳をふさぎたくなるようなとても不快な音だった。

グチャ、グチャ、ビリッ。

「見てはいけない」ジジは知色を抱きしめた。

しかし、遅かった。知色は見てしまった。母の体が崩壊して行く末を。母の体から“別の物体”が強引に割って出てくる。謎の茶色物体。何が起こっているのかまったく理解できなかった。

「なぜ?なぜ?なぜ、なぜ ・・・」その言葉を何度も何度も繰り返した。そんな呆然と立ち尽くす知色をジジはただただ強く抱きしめるだけだった。

あれから時は流れ、知色は成長しジジに色々教わり、何度も諭され、そして何度も励まされた。ジジとの会話でどれほどの物を受け止めれらるようになったのかは分からない。最初は何もかもを受け入れたくなかった。ただ、少しずつ何かを受け止め、受け入れる様になったと思う。そして今、知色はあの時に見た“茶色い物体”と共に生活している。そう、知色のアパートの地下室にいる名前のない“男”と。


知色は組織のビルの前にいた。

入口の認証を終え、地下に向かう。地下4階、そこにジジがいる。

地下でも同様の認証を済ませ、一番奥の扉を開ける。そこにある円柱のガラスケースに向かう。

「ただいま」ガラスケースの表面を手で触りながら穏やかに知色がいう。

「ジジ、また会いに来ちゃった。元気にしてる?」知色が問いかけるがジジは答えない。

「逢いたかったんだ、ジジに。なんとなく・・・」

ジジは円柱ガラスの液体の中で保存されている。

彼の脳だけが。



「久しぶりですね」

扉の向こうで車椅子に乗った男が話しかけてくる。


Zarchery’s fanciful story BCは悲しそうな顔をしているプレートに何も書かれていない水槽の中の“彼女”をみつめた。隣の“AC”は“彼女”を

「ママ」と呼んでいた。そして自分がACの妹だというのなら、答えは1つしかない。“彼女”はBCにとっても「ママ」、つまり母親だという事だ。

「遺伝子学的にはそいうことね」“彼女”はBCの考えていることを悟ったかのように答える

「では父親は?」

「貴方が受け継いでいる遺伝子が2人の人間、そう、男女からのもの“だけ”だったらいいのだけれど」

「意味が・・・言っている意味が分からない」

「そうね、複雑だから・・・」

「複雑?何が複雑なの?」

「・・・・・」“彼女”は答えなかった。

BCは瞳を閉じた。それは小さな頃から少なからず抱えていた疑問。いや不安だったのかもしれない。だから瞳から流れる“この液体”は止まらないのかもしれない。

「涙が・・・」“彼女”は優しく答える。

「なみだ」BCは“彼女”の言葉を繰り返した。BCはもちろん“涙”という言葉を知っている。ただ自分が流したことが、いや、自分も流せることに驚きだった。そして何より、“彼女”はどこか温かく、“彼女”の言葉を繰り返すことで何かぬくもりのようなものを感じていた。

「元気にしてた?」という“彼女”言葉に僅かに自分を取り戻した。

「私の遺伝子は・・・・。私の遺伝子は人間ですか?」

「・・・・・」“彼女”はまた沈黙してしまった。

「答えてください。私は何?」

「・・・・。人間の遺伝子を持っているわ」

「持っている?」

「ええ」

「それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味よ」“彼女”が寂しそうに言う。

「そのままって?」

「BC、もう戻った方がいいわ。システムはそんなに長時間停止しているとは思えない」

「でも・・・」

「お願い」

「わかりました」BCは諦めた。本当は諦めたくなかった。でも、なぜだろう?なぜだか“彼女”を困らせたくない、悲しませたくないという気持ちの方が強かった。BCは水槽に背中を向けて出口に向かって歩き出した。するとBCの背中に向かって最後に“彼女”がこう言った。

「強く生きて・・・強く・・・」

BCは振り返らなかった。彼女の言葉は聞こえたが、振り返ることが出来なかった。


“人間の遺伝子を持っている”


“彼女”の言葉だった。

Zarchery’s fanciful story “特殊構造”の我が家を出ると、太陽の日差しが眩しくて、知色は思わず手をかざしていた。庭を通り過ぎ門を出ると相変わらず“いつもの”車が止まっていた。組織の人間だ。知色は彼らをいないものとして、見えないものとして何事も無かったかのように通り過ぎる。“彼らから”随分はなれた所で、歩きながら携帯を握り電話をかける。

「私」

「やぁ、どうした?」エドが答える。

「どうかしないと電話しちゃいけないかしら?」知色がふざけて答える。

「なんだ、ラブラブだね」

「私はご機嫌斜めよ」

「Wow!斜めなの?曲がってるね。僕は直線が好きだな」

「・・・・。話がしたい」

「いいよ。キミがどうしてもって言うなら愛を語り合おうか」

「・・・・なるほど。今、“あそこ”にいるのね」

「うん、ホワイト好き」

「じゃあ、いつもの場所で。時間はどうする?」

「えーブラックはあんまりすきじゃないよ。ホワイトがいい」

「昼間ってこと?」

「僕のサイズは16号。あ、あとコーヒーも宜しく」

「16号?なにそれ?大きすぎでしょう?」知色は笑いながら答えた。

「だって太っちゃったんだもん」

「分かったわ」

「コーヒー忘れないでね」

「コーヒー?」

「そう、マメが切れちゃったんだ」

「だから?」

「うん、コーヒーが飲めない」

「だから?」

「死んじゃう」

「なんで?」

「コーヒーが飲めないから」

「なんで?」

「だから?なんで?その次は?どうして?」エドが笑いながらいう

「分かったわよーっ!買えばいいんでしょう、買えば!」知色が諦めてたように答える。

「Wow!素敵」

「絶対、首絞める!」

「えー、じゃあ弱めでお願い」エドがふざける

「残念、加減を知らないの、私。うふっ」といって知色は冷たく電話を切った。

エドは切れた電話を握り締めながら「愛が薄いねー」と組織の建物内の廊下を歩いていた。

知色は歩きながらひと言、「さぁ、始めましょう」と太陽を見上げた。

そして思い出していた“悪夢”を。いや、あの日の出来事を。


※2009.01.14 一部追加