「あ・・・」坂田は少々言葉につまった。なぜなら回転した椅子に座っていたのは美しい女性だったからである。そして何より、坂田が会いたい人物ではないのだ。どこかでミスを犯したかと、脳内のシナプスが急速に活動を始め、今自分が置かれている現状を判断しようとしている。
「ご安心を」坂田の様子を見ていた女性が微笑む。そして彼女が椅子から立ち上がり目の前の窓に手をかざす。すると驚くことに窓だと思っていた一部が“ガクン”と音を立ててドアのサイズに前に浮き出る。
「あっ」坂田は思わず声を漏らす。
「これは窓ではありません。単なる壁です。素敵でしょう?」そう言って女性がドアに手を当て呪文を唱える。
「ブラックチェリー」
カチッと音がすると、さらにドアノブらしき突起物が出てくる。そのノブを回してドアを押すと向こうに別の空間が存在した。
「どうぞ」女性が坂田を促す。
「あ、はい」坂田はドアの方へ歩き出した。
その部屋は殺風景で殆んど物が無い。四方をグレーの壁に囲まれたワンルーム(畳6帖)くらいの部屋である。その部屋の隅にコーヒーメーカがー置かれている。彼女が先ほどの”壁のドア”を閉めると、ウィーンッ、カチッという音と共に完全な壁と化した。彼女はそれを見届けると迷わずコーヒーメーカーの場所へ向かう。そして急に坂田のほうへ振り返り「少し揺れますので、気をつけてください」と言ってコーヒーメーカのスイッチを入れる。
すると彼女の言うとおり部屋が揺れた。というより部屋が下がっている。坂田は周囲を見ながら考えた。そして心の中でつぶやく『巨大なエレベータか?』
「地下に向かっています」女性が微笑んで答える。
「あの・・・ここはまだ空港内?なんでしょうか?」
「さぁーどうでしょう。難しい質問ですね」
「難しい?」
「切り分けが難しいです。今、移動中ですから。あ、申し送れました、私、光座(こうくら)の秘書をしております進道(しんどう)と申します」
「シンドウさん?」
「はい、“進む道”と書いて進道(しんどう)です」
「これはどうも。私の名・・・・」坂田が言い終わる前に彼女が口を挟む。
「坂田様ですね。承知しております。そろそろ着きますので足元に気をつけてください」
彼女が言い終わる頃に床がガクンッとなった。坂田は一瞬よろめきそうになったが、すぐさま体制を立て直した。すると今度は彼女がコーヒーメーカのコードがコンセントの上の段に挿入されているものを抜き、コンセントのしたの位置に入れなおした。様々な機械音と共に再び壁からドアが浮き出す。そして彼女がその扉を開けて坂田を誘導する。坂田は目を疑った。自分は本当にどこかへ移動したのだろうか?とさへ思えた。なぜなら一番最初に彼女に出会ったときと全く同じ部屋がそこに存在したからだ。そして先ほどと同じように窓辺の椅子に誰がが座っており、椅子が回転する。違うのは椅子に座っている人物だけである。
「お待ちしておりましたよ」椅子に座った男性が言う。そう、坂田が会いたかった人物である。
「坂田です」
「光座(こうくら)です」紳士は手を伸ばし握手を求めた。坂田はそれに答えるように手を伸ばす。
「イギリスの研究機関でお世話になった所長のエドワードが・・・」
「ご安心下さい、彼は無事です。私達によって守られています。今のところは」
「無事?え?」まったく予期しない答えに坂田は驚いた。
「ギリギリの所ですり替えました。死んだのは別の人間です。彼は今、私達の手によって守られています」
「そうですか」坂田はほっと肩をなでおろしたが、再び不安が込上げ言葉にする。「先ほど、“今のところは”とおっしゃいましたよね?」
「はい」
「その意味は?」首を傾げる。
「そのままです」紳士は全く動じることなく話した。
「・・・・どいういう?」
