BCは悲しそうな顔をしているプレートに何も書かれていない水槽の中の“彼女”をみつめた。隣の“AC”は“彼女”を
「ママ」と呼んでいた。そして自分がACの妹だというのなら、答えは1つしかない。“彼女”はBCにとっても「ママ」、つまり母親だという事だ。
「遺伝子学的にはそいうことね」“彼女”はBCの考えていることを悟ったかのように答える
「では父親は?」
「貴方が受け継いでいる遺伝子が2人の人間、そう、男女からのもの“だけ”だったらいいのだけれど」
「意味が・・・言っている意味が分からない」
「そうね、複雑だから・・・」
「複雑?何が複雑なの?」
「・・・・・」“彼女”は答えなかった。
BCは瞳を閉じた。それは小さな頃から少なからず抱えていた疑問。いや不安だったのかもしれない。だから瞳から流れる“この液体”は止まらないのかもしれない。
「涙が・・・」“彼女”は優しく答える。
「なみだ」BCは“彼女”の言葉を繰り返した。BCはもちろん“涙”という言葉を知っている。ただ自分が流したことが、いや、自分も流せることに驚きだった。そして何より、“彼女”はどこか温かく、“彼女”の言葉を繰り返すことで何かぬくもりのようなものを感じていた。
「元気にしてた?」という“彼女”言葉に僅かに自分を取り戻した。
「私の遺伝子は・・・・。私の遺伝子は人間ですか?」
「・・・・・」“彼女”はまた沈黙してしまった。
「答えてください。私は何?」
「・・・・。人間の遺伝子を持っているわ」
「持っている?」
「ええ」
「それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味よ」“彼女”が寂しそうに言う。
「そのままって?」
「BC、もう戻った方がいいわ。システムはそんなに長時間停止しているとは思えない」
「でも・・・」
「お願い」
「わかりました」BCは諦めた。本当は諦めたくなかった。でも、なぜだろう?なぜだか“彼女”を困らせたくない、悲しませたくないという気持ちの方が強かった。BCは水槽に背中を向けて出口に向かって歩き出した。するとBCの背中に向かって最後に“彼女”がこう言った。
「強く生きて・・・強く・・・」
BCは振り返らなかった。彼女の言葉は聞こえたが、振り返ることが出来なかった。
“人間の遺伝子を持っている”
“彼女”の言葉だった。