天使を見た記憶 いつか秒針の合う頃 A5最終話 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

長くなっています。

 

 

 

 

 

水平線には

今まさに太陽が沈んで行くところだった。

静かな海が一面赤く染まっていた。

堤防の上を歩く貴方の後ろを

俺は黙ってついていった。

徐々に暗くなる景色の中、

突堤を躊躇なく進む貴方。

ここに来るまでずっと

無言の貴方が怖くなって、

俺は後ろから貴方の腕を掴んだ。

 

「おお・の・・・・兄さん・・」

 

智君と言えず、

兄さんというのが精一杯だった。

 

俺は突堤の

腐食したざらざらするコンクリートの上に

跪いた。

 

「俺・・ここには絵を貰いに来たんだ。

3人が貰えて自分だけないのが許せなくて・・

絶対に貰うって決めて、

強引に休みを取ったんだ。

兄さんの居場所も

俺のおふくろを使って貴方のおかあさんに・・

勝手だよね。」

 

自分がここまできた馬鹿な目的を告白する。

 

貴方がゆっくりと振り向いた。

少しだけ残っている

夕日を背に受けた貴方の顔は

陰になってよく見えない。

どんな顔をしているんだろう・・

 

「描いてあったのが

あんな絵で落胆した・・よね・・

とっくに別れたくせに

自分を抱いてるときの相手の顔を描くなんて・・

気持ちの悪いやつだ・・って思ったよね・・

そう・・俺は最低なんだ・・・

 

これ以上ここいても、

櫻井さんの気分が悪くなるだけだよ。

仕事もあるでしょう。

早く戻ったほうがいい。

絵は描いて送るから。」

 

低い小さな声で、

それでもはっきりと告げると、

またくるりと背を向けてしまった。

 

違う・・そんなことじゃない・・・

早く・・早く・・

いうんだよ・・・

 

「ま、待って・・

まだ、終わってない・・

 

貴方がこんな目にあったのは

全部俺のせいなんだろう。

3人にも言われた、

先生にも言われた。

 

俺は自分が特別だと思っていた、

だからなんでも許されると・・

すべては当然なことだと・・

まさか、事務所がそんな汚い手を使うなんて

考えもしなかった。

 

俺が奢っていたせいで

貴方がひどい目にあったのに、

俺は全く気が付かず、

それどころかすべては貴方のせいだって

思いこんでいた。

 

貴方が裏切ったと。

最初から先生とできていたのに

俺を利用したって。

俺の気持ちを踏みにじったって。

俺は被害者だって

思い込んでいた。

 

ごめん・・ごめんなさい。

 

俺の事。

あんなに愛してくれたのに。

俺は、俺は・・

どう償ったらいい?

兄さん・・

貴方を愛して、

貴方に愛されていた日は

とても幸せだったって思い出した。

戻りたい、戻りたいよ・・」

 

コンクリートの地面を拳で叩きながら、

俺は涙を流した。

 

あの絵の俺は本当に幸せそうに、

相手を見つめていた。

朝日が背中から差し込んでいて、

温かな空気にあふれていた。

貴方を愛した翌朝の

自分の姿だってすぐに分かった。

俺は貴方に

こんなにも優しい顔で接していたんだ。

でも、今俺の前に立つ貴方は微動だにしない。

何もしゃべらない。

顔さえ見せてくれない。

 

「にいさ・・ん」

 

呼びかけることさえ怖くなるくらいの

重い空気がのしかかる。

 

「俺は、どうしたらいい?

どうしたら許してくれる?

にい・・さん」

 

この期に及んで、

まだ許されることを願っている。

 

 

「櫻井さんに愛しているって言われた時、

俺は人生で一番嬉しかった。

そして同時に不安も背負った。

いつ櫻井さんの目が覚めてしまうだろうかと・・

その日がくることが一番の恐怖になった。

櫻井さんの夢は普通に結婚して

子供のいる家庭をつくることだったから。

 

いま、学歴といい、容姿といい、

櫻井さんの要求水準にかなった人と結婚して

子供もいるんだろう。

それで、いいだろう?

何をまだ、求めるの?」

 

後ろを向いたまま、

貴方が放つ言葉は一々もっともで・・

だけど・・俺は・・・

貴方を嫌いになったんじゃない。

無理やり別れさせられたんだ。

誤解から貴方を詰り、拒絶したんだ。

それを謝りたいんだ。

そして、もう一度俺を・・

 

「櫻井さん・・・

手に入れたものを捨てられるの?」

「えっ・・・」

「俺と堕ちてくれるの?」

「えっ・・」

 

貴方の言葉に驚き、俺は固まった。

そんなことまで考えていなかった。

すべてを捨てる?

今まで築いた地位や、名声もすべて・・・

 

そんなことできない・・

俺には子までいる・・・

俺の望んだことは、

こんなに手に入れるのが難しいもの、

そこまでの覚悟がないと

手に入らないものだったんだ。

すべては、自分の招いたことだけど・・

失ったものの大きさに、

俺は茫然としてうなだれていた。

 

 

周りはもう完全に夜になり、

月と、

海岸沿いの民家の灯りと、

道路の街灯が、あるだけ。

突堤の先は暗くて歩くのも危ない。

低気圧が近づいているのか

突堤に打ち寄せる波音が強くなっている。

 

「しょうくん・・・・」

 

その波の音の後ろから

貴方が俺の名前を呼んだ気がした。

 

ザッバーン、ひときわ大きな波音がした。

 

懐かしいその呼び方を思い出し、

俺は真っ白な頭の中を

どうにか整理して顔を上げた。

今の俺にできることは、

これしかない。

 

「にいさん・・俺・・

兄さん?兄さん・・」

 

だが、顔をあげた俺に見えたのは

海へと続く暗い突堤のコンクリートだけだった。

貴方はまるで最初から

存在しなかったかのように消えていた。

 

「兄さん、兄さん・・

智くん・・智くん・・智くん・・・

返事してよ・・智くん」

 

俺は大声で貴方の名前を叫び続けた。

しかし、

貴方の返事の代わりに、

聞こえるのは、

荒れ始めた波が

突堤を超えて打ち寄せる音だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

終わり

 

向こうの部屋で上げていた内容を

少し修正してあります(わかりますか?)
 

 

 

 

 

 

やはりリアル設定はハッピーエンドは無理でしょう。

でも、ざぼんの王道の終わり方だと思いませんか?

なんて・・自画自賛しました。

なお、4パターンすべて終わってから後書きもどきを上げる予定です。

 

 

さて、次のBパターンは一転、翔さんにかなり厳しい終わり方ですよ。

ダメな方はやめましょうね。