天使を見た記憶 いつか秒針のあう頃 86 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

86

 

 

俺は、国営放送の大河ドラマの撮影が大詰めを迎え、

日々スタジオに籠っていた。

予定ではあと3カ月ほどで終わるはず。

そうしたら、宮古島に渡ってあんたを探す。

そんな思いで忙しい毎日を過ごしていた。

 

思いがけず相葉君の裏の顔を垣間見た事件から、

2週間ほど過ぎた日。

俺は少し時間が取れたので、

取り寄せた珈琲豆と、

有機栽培のフルーツを持って柳田院長を訪ねた。

 

「こんばんは、松本です。」

「松本君、いらしゃい。

どうぞ。」

 

あらかじめアポは取ってあったが、

忙しいはずの柳田先生は

にこやかに俺を迎え入れた。

 

この人には、いつも穏やかさを感じる。

負の感情を表に出さないその姿に

俺も見習わなくてはと毎回思う。

ふと、

あんたもそうだったと、思い出した。

だからか、俺があんたに惹かれたのは。

自分とは正反対の性格のあんた。

でも、俺が欲しいと思うものをあんたは持っていた。

ただし、あんたはそんな自分の長所を

よく思っていなかったけどね。

 

「松本君、どうした?

さぁ入って。」

 

玄関で立ったままの俺を

柳田先生はいつものリビングに招き入れた。

 

「すみません、ちょっと考えごとしてしまって。

これ電話で言ってた土産です。

俺のお勧めなんです。どうぞ。」

 

俺が大きな紙袋を手渡すと、柳田先生は

両手で大事に受けとってくれた。

 

「君のお勧めなら、確かな物だろう。

ありがとう、いただくよ、」

 

 

ソファに座った俺の前に、

いつものように炭酸水をだしながら、

撮影はまだ終わっていないだろうと聞いてくる先生に

ちょっと話したいことがあってと俺は照れ隠しに頭をかいた。

そんな俺に、それなら、ゆっくり聞こうかと正面に座った先生。

リラックスした表情で俺を見つめたから、

俺も安心して、

いただきますとグラスを手に取った。

 

 

 

 

「相葉君がそんなことを言ったのか。

私は直接、彼と話をしたことがないので、

彼のことはあまり知らないが

いい人だ、気づかいのできる人だと

聞いたことがある。

佐藤も彼のことは特に何も言っていなかったが・・」

「そうですか。

傍目には問題のない男にみえるでしょう。

しかし、裏の顔が一番黒いのは彼かもしれません。

ははは・・俺も、人のことがいえるような

できた人間ではありませんが。」

「それがわかっていれば、十分だよ。」

 

柳田先生は、切子のグラスを手にもったまま、

ふふっと小さく笑った。

 

「それにしても、櫻井翔、

彼はいったいどうしたのだろうか?

自分で自分を追い込んでいるようにみえるが。」

 

柳田先生がいきなりあいつの話を出してきた。

すかさず、俺は、思っていることを口から出す。

 

「多分後悔しているのでしょう。

あの人のことを理解しなかった自分を。

いや、天狗になって

周りの人間すべてが自分のために動いていると

思いあがっていた自分に

やっと気が付いたんだと思います。

いくらケーオー出だからって、偉そうにして。

おっと、学歴の無い奴の僻みに聞こえますね。」

「本当にそれだけだろうか・・」

 

俺の悪口をさらっと流して柳田先生は首を傾げた。

 

あいつのことはどうでもいい。

こんな無意味な陰口を叩きに来たのじゃない。

 

「先生、櫻井翔が何を悩んでいるかなんて

どうでもいいんです。

俺が一番心配していることは、

大野さんがあいつの無理な注文に

また心を痛めるじゃないかってことなんです。」

「彼が絵を描いてくれと頼まれて嫌々描くことになると?」

「はい。

やっと心静かに暮らしているはずなのに、

時間が大野さんの傷をいやしてくれているだろうに

また櫻井翔に会ってしまったら・・」

「松本君、君は彼が大野君に会えると思っているのか?」

「思いたくはないですが。

今までずっと一緒に仕事をしてきて、

その可能性を否定はできなくて・・

それが心配で、先生に相談したかったんです。」

 

俺も、先生も黙り込んでしまった。

 

会わせたくはない、絶対に。

それは俺の願いで、多分先生も同じだろう。

 

「彼を待つだけではいけないっていうことか・・・・」

 

柳田先生が、テーブルにグラスを置くと低く呟いた。