リフレイン 透明な光1 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

満開の桜が散り落ち、

新緑が太陽の光を

眩しく反射し始めたある日。

俺は都内の某所にある

弁護士事務所に向かっていた。

 

 

 

「櫻井さん、

大野先生を説得してください。

このままだと、

財前先生の想いが無駄になります。」

 

3日前の夜、井上基、

今は小川紀子さんになった彼女から

切羽詰まった電話を

貰ったことからだった。

 

「先生は大野さんの力に

なりたかったんです。

そして、大野さんはお父さんのことが

きっと心残りだったと思います。

大野紅嵐の秀でた作品の数々を

展示する場所がない。

本来なら大野さんが

いろいろ手配をしたかったでしょうに、

それをできないままに亡くなった。

だったら櫻井さんが

引き継ぐべきなのではないですか?」

 

少し、いや、

だいぶ怒りを含んだ電話だった。

 

「しかし、

俺は智から何も聞いてないし。

こんなことを言うと

屁理屈だと

思われるかもしれないですが、

財前教授は俺が大嫌いだった。

智の恋人だから

渋々付き合っていたけど、

本当なら

顔も見たくないくらいだったかと。」

 

俺は、必死に言い訳を並べた。

本当は違う・・

彼女は俺がしたことを知らない。

智のお母さんを苦しめたこと・・・

 

勿論智も大野先生も

俺のことを許してくれた。

本当に心の広い二人。

でも当の本人である俺がまだ

その時の俺を許していないんだ。

人として最低な行為・・・

 

「櫻井さんそんな意味のない言い訳は

聞きたくないです。

とにかく、弁護士にあってください。

 

私がそこに立ち会えればいいのですが、

今私はこの島を離れることはできません。

お願いします。」

「井上・いや・小川さん。

俺は・・・」

「連絡先、その他書類等、

目を通して欲しいものは

別途メールで送ります。

パスワードは、satoshi1126です。」

「こ、困・・」

 

ツ~。

 

俺が最後までいわないうちに

電話は切れた。

俺の知る限りあんなに

感情的な彼女は初めてだった。

いつも冷静で、

穏やかな笑みを浮かべていた彼女。

財前教授が亡くなった時は

悲しみのあまり取り乱していたが、

怒った姿なんて・・・

まだ、そこまで想っているんだ、

教授のことを。

叶わない恋の相手を今でも・・・

 

俺もそろそろ動かないと

いけないのだろうか。

嫌な顔もせず、

大事な息子を妻の敵に託してくれた大野先生。

俺ができることは、

たしかにこれくらいなのかもしれない。

智の代わりに、

智が心残りだったことを・・・

してやること。

そうだ、それに智が受賞した作品も

どこかに飾ってあげないと。

 

俺は、リビングの飾り棚に置いた、

智の写真を手に取った。

 

「智・・俺がしてもいいのか?」

「翔、父さんのこと頼むね。」

 

写真に向かって呟く俺に

智がそう答えて

笑ったような気がした。