リフレイン 白い雨 116 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

 

 









「それで、いつから山荘に?」

声が、かすれているのがわかった。

「明日です。

今夜はご自宅で、

ゆっくりされていると思います。

大野さんの授賞式を見られていると。」

 

紀子さんの電話が切れても

俺はしばらく動けなかった。

 

教授は、どうしているのだろうか?

ようやく再会して、

失った時間を埋め始めたところだというのに。

 

あんなに尖っていた教授が、

伯父の前では、穏やかなお坊ちゃんになっている。

本来の姿なのだろう。

経営者としては厳しく、

笑った顔など見せたことがないと言われていた伯父。

それが、優しい顔をして、愛しそうに教授を見つめている。

時間が、巻き戻っているんだ、二人だけは。

あと、2か月?

短いよ。

なんて運命は残酷なんだよ・・・

あっ・・

感慨に耽っている場合じゃなかった。

大事なことを聞き忘れていた。

 

「もしもし、井上さん。

すみません、忙しいところ。

さっき聞き忘れてしまったことが・・・」

 

絶対に忙しいはず。

今日の明日だよ。

準備がたくさんあるはず。

院長であり、

学部長である教授の穴埋めの手配だってある。

 

しかし、紀子さんは、電話の向こうで

迷惑なそぶりは全く見せなかった。

 

「なんでしょうか?櫻井さん。

こんなことはあまり経験しないことですもの、

わからないことだらけだと思います。」

「山荘に行くって治療は?本当にないのですね。」

「はい、以前もいいましたよね。

櫻井國比呂さんはすでに緩和ケアだけです。

腫瘍外科が専門である、教授が管理します。

この病院に転院した時から

財前教授が主治医ですから。

教授の腕は一流ですよ。」

「あ、あの山荘で療養することは

父に話してあるのでしょうか?」

 

親父は伯父の弟だ。

伝えてあるのだろうか?

 

「言わないで欲しいと。

櫻井國比呂さんは、

自分の恋人が男だということを隠していたようですね。

最後まで言わないと。

教授にもそうして欲しいといわれました。」

 

えっ、そんな?

残される財前教授はそれでいいのか?

 

「教授はそれでいいと・・

櫻井さんの好きにしていいと・・・」

 

紀子さんの声が小さくなる。

納得していない・・・な。

どうしてなんだよ、教授・・

俺だったら・・俺だったら・・

う?・・わからない・・

どうしたらいい?

智の一番したいようにしてあげたい。

そうだ、智は?

「教授が留守の間、智は?

智の治療はどうなるんですか?」

 

智を診てくれよ。智を治してくれ・・

俺の声が大きくなる。

 

「そんなに興奮しなくても、

大丈夫ですから、櫻井さん。

教授は大野さんが大好きなんですよ。

ちゃんと考えていますから。

大野さんの主治医の林教授は、

財前教授の後継者と言われる方です。

大野さんさえ決めれば

すぐに治療に入る用意はできています。」

「そうですか。

すみません、興奮してしまって。

よろしくお願いします。」

「わかりました。

それではお休みなさい。櫻井さん。」

 

2度目の電話を切ってほっとした俺は、

大きく深呼吸をする。

しかし、よ~く考えているうちに、

紀子さんの最後の言葉に不安に襲われ始めていた。