イチオクノホシ(仮) 9 | 青のパラレルワールド物語

青のパラレルワールド物語

青さんが登場する空想小説を書きます。ご本人様とは一切関係ありません。
腐話もありますので苦手な方はご注意ください。

 

翌日、翔君はリハビリに通っている病院で診察を受け、

怪我は酷い打撲と診断された。

脱臼や骨折はなかったけど、打撲の程度が酷く、

内出血も広範囲にわたっていたので、

しばらくは左腕を安静にと診断された。

痛みもしばらくはあるからと鎮痛剤も処方された。

 

 

 

痛み止めを飲まないと我慢できない痛みは

1週間ほどで収まったようだったけど、

その後も、その場所に何かが触れると翔君は顔をしかめた。

それでも、タイトな期日の仕事に追われて、

ゆっくりと休むこともままならない翔君は、

夜遅くまで働き続けた。

 

 

 

 

「翔さん、さっき弁護士から連絡がありました。

 

ホテル側が全面的に過失を認めたそうです。

近日中に謝罪に訪れたいそうですけど、

どうします?」

「うん、いつでもいいよ。

予定確認して返事をしておいて、潤。」

「全く、老舗のホテルのくせに、

こんなことになるなんて、

帰国して翔さんを見た時は本当に青くなりましたよ。

しっかりお見舞いを貰ってくださいね。

痛い思いをしたでしょ?

そうそう、智さんに心配もかけたのだから。

それで、もっといいホテルに泊まればいいんです。」

 

 

僕らがホテルベイサイドグランドに泊まってから

2週間ほど経った夕食の席。

翔君が、自分の怪我はホテル側に責任があると

弁護士を立てて訴訟を検討してから丁度1週間目のことだった。

 

 

冗談めかして3人が話しているのを聞いて

僕は胸が痛くなる。

 

思い出したくない。

辛い記憶。

 

「さあ、食べましょ。

とりあえず翔さんの快気祝いですから、

大好きな貝のお寿司を作ってみました。

勿論、潤さんの好きなアナゴも。

智さんには、ヒラメとタコ刺し用意しましたよ。」

 

 

テーブルに並ぶ料理の数々。

ハワイから帰国して一週間、

漸く、普段のペースに戻った雪子さんが

腕を振るった手料理は

あいかわらず美味しそう。

 

「旨そっ。雪子さん

アナゴいただきま~す。」

 

潤君がニコニコしながらアナゴを摘まむ。

 

「うまっ、最高~。」

「そうか、潤。

じゃ俺もこの赤貝の寿司を貰おうかな。

うん、旨い。

智君これ旨いよ。」

 

口一杯に頬張ってもぐもぐ食べる翔君は、

幸せそう・・

 

そうだよ。

こんな顔の翔君が見られるって幸せだ。

 

あれから一言も翔君はあの夜のことは言わない。

だから、僕は何も聞けない。

 

それは、僕に触れるなってことだよね。

 

僕に優しい翔君。

そばに置いてくれるだけで、

十分だって

どうして僕は満足できなかったんだろう。

 

もう2週間近くたつのに

まだぐずぐずと引きずる僕は、

どこまでもめんどくさいやつ。

 

だから気持ちを隠すことにした。

男同士なんて、この国ではまだ、普通のことじゃない。

愛してるって感情だけでは、解決できないことが多い。

 

ましてや、翔君の仕事は信用第一。

 

僕が追い詰めたのに・・

何も言わないことが翔君の優しさだったわかったから。

 

 

 

心の奥に本心を隠しながら、

表面上は何もなかったかのように、

にこやかに過ごした。

 

夏が過ぎ、秋が深まり、辺りの景色も変わってきたころ、

ようやく僕もこれが一番いいんだって思い始めていた。

 

あの夜、翔君と最後の一線を越えてしまっていたら、

僕はもっと欲張りになって

翔君を縛ってしまっていただろう。

翔君に溺れて・・

仕事の邪魔にもなっていたかも・・

ううん、それだけは絶対にしたくない。

 

 

 

11月に入ったある夜のことだった。

 

残業で遅くなり、深夜に帰宅した僕が玄関の開けると、

そこに翔君がいた。