こんにちは
武漢熱(COVID-19)の影響をモロに受けるニッポン経済。
大企業の2020年度業績が出ましたが…
「“超”二極化」の見出しがつくほど鮮明に色分けされました
出典:NHK「クローズアップ現代」(5月13日)
今年度は、なんとか立ち直りを。。。
そのようななか、今回は…
奈良の日本酒
を勉強して、酒類提供の解禁に備えておきましょう
(今回も“こじつけ”に聞こえちゃいました )
1.奈良県の酒蔵
最初に、奈良県の酒蔵マップをご覧ください
奈良県酒造組合作成の酒蔵マップ(30蔵)
という方のために…
奈良県には31の酒蔵(2020年に自醸している蔵)がありますが…
の酒蔵マップを眺めて、興味深い点は酒蔵の分布。
全ての酒蔵が
奈良県の上半分のみにある
なぜでしょう。。。
奈良県といえば、(お恥ずかしくも)寺院と鹿ぐらいしか浮かばない私にとって、「酒蔵が県の上半分にしかない」ことは大きな疑問です。
そこで、「奈良の日本酒」のお勉強に入る前に、この疑問を掘り下げてみました
まず…
奈良県の地理
について調べてみると、次の2つのことが分かりました
奈良県の中央部から北西部に広がる奈良盆地を除けば、険しい山々がそびえており、人口の偏りがかなり大きい (by wikipedia)
中央部から北西部に広がる奈良盆地
奈良県南部には、吉野山から大峰山にかけて“吉野”と呼ばれる山岳地帯が広がっている (by wikipedia)
南部の吉野山地
これを確認する意味で…
奈良県の地形図
を見てみると、やはり…
平地の多い中央部から北西部
対照的に高地ばかりの南部
高地では、日本酒造りに必要な水(仕込水)は確保できても、米(酒米)の耕作地を確保することは難しく、また、日本酒を消費する町(マーケット)も限られます。
だから、酒蔵も少ないのだろうと推測されます。
次に、本当に南部には消費地が少ない(マーケットが小さい)のかを確認するために…
人口分布
を調べてみると…
奈良県の公式HPに、人口の偏在ぶりを裏付ける資料が見つかりました
緑色が南部地域の過疎地域、ピンク色が東部地域の過疎地域なのです
(水色は、東部地域唯一の過疎地域である三宅町です)
これを確認する意味で…
奈良県の市町村人口
を纏めてみると、やはり…
2015年の国勢調査に基づいています
人口の4分の3が奈良県の上半分に集中
していました
これで、私のなかの疑問は(取り敢えず)解決しました
(奈良県にお詳しいかお住まいの方で、更なる情報をお持ちでしたら、是非「コメント」で教えてくださいね )
それでは、本題の日本酒に入りましょう
2.奈良県の酒造り
1) 清酒発祥の地
「奈良の日本酒」と聞いて、まず浮かぶのは…
清酒発祥の地
です。
というのも…
前回の「大阪の日本酒【日本酒シリーズ Vol.14】」で…
「日本に『清酒発祥の地』は3ヶ所ある」と書きましたが…、
今回改めて調べたところ、さらに3ヶ所が見つかり…
計6ヶ所の日本酒・清酒発祥の地を発見
そのなかに「奈良県」が入っていたからです。
その6ヶ所とは…
兵庫県伊丹市
伊丹市鴻池にある「清酒発祥の地・鴻池」碑
大阪府池田市
兵庫県宍粟市 (しそうし)
宍粟市一宮町能倉(よくら)の庭田(にわた)神社
島根県出雲市 (いずもし)
出雲市小境町(こざかいちょう)の佐香(さか)神社
宮崎県西都市 (さいとし)
西都市妻(つま)の都萬(つま)神社
そして、今回の…
奈良県奈良市
そこで今回は、奈良県奈良市が「清酒発祥の地」と言われる由縁を勉強してみました
① 「奈良の酒造り」の歴史:
平安時代中期から室町時代末期にかけて、奈良菩提山(ぼだいせん)正暦寺(しょうりゃくじ、宗派は菩提山真言宗)という寺院で、境内を流れる菩提仙川の水と、菩提 という酒母・製法を用いて、「僧侶が造る酒」という意味を込めて「僧坊酒」(そうぼうしゅ、酒銘は「菩提泉」(ぼだいせん))、が造られていました。
(「大阪の日本酒【日本酒シリーズ Vol.14】」でご紹介した「僧房酒」(そうぼうしゅ)とは異なります)
当時の正暦寺では…
仕込みを3回に分けて行う「三段仕込み」、
麹と掛米の両方に白米を使用する「諸白(もろはく)造り」、
酒母の原型である「菩提酛 (ぼだいもと)造り」、
腐敗を防ぐための「火入れ作業」など、
近代醸造法の基礎となる酒造技術が確立されていました。
(これらの酒造技術は室町時代を代表する革新的酒造法として、室町時代の古文書「御酒之日記」や江戸時代初期の「童蒙酒造記」にも記されているそうです)
② 「清酒発祥の地」の由来:
「僧坊酒」は、酒銘「菩提泉」(ぼだいせん)を筆頭として、「山樽」(やまだる)や「大和多武峯酒」(やまとたふのみねざけ)などがあり、これらを総称して「南都諸白」(なんともろはく)とも呼ばれています。
注:南都諸白とは
南都=奈良のこと。
諸白=麹米と掛米の両方に精白米を使用すること。
いずれも当時は「最も上質で高級な酒」で、正暦寺は、この「菩提泉」をもって「日本最初の清酒」としています。
奈良市の正暦寺と「日本清酒発祥之地」の石碑
③ 「菩提酛純米酒」の継承:
「菩提泉」を筆頭とする僧坊酒は織田信長や豊臣秀吉に愛されたそうですが、同時に、様々な意味で強い力を持っていた寺院勢力を恐れ、執拗にその殲滅を図りました
(イメージ)
これによって僧坊酒の伝統は衰滅し、後に寺そのものが再建されても、もはや醸造技術が寺院に復活することはありませんでした
ただし…
鴻池流や奈良流など各地の造り酒屋や杜氏の流派が、僧坊酒の技術に改良を加えながらこれを承継しています
「菩提酛純米酒」を名乗る「奈良の酒」
(出典:日刊Webタウン情報「ぱ~ぷる」)
正暦寺では毎年1月に「菩提酛清酒祭」を開催し、境内で酛(もと。酒母(しゅぼ)とも言う)の仕込みを行って、「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」に所属する奈良県の蔵元(14蔵)が酒母を持ち帰り、各々の蔵元がその酒母を用いて清酒を醸造しているそうです。
毎年1月に正暦寺で開催される「菩提酛清酒祭」
「菩提酛」を使った純米酒は…
「酸度とアミノ酸が高めの濃醇旨口」
だそうです。
3.奈良の日本酒
(奈良県に限らず)お酒をいただくときは、その酒蔵やお酒のストーリーを知っておくと、味わいがより増しますし、場も盛り上がります
そこで…
今回のブログの〆として、話題性のある奈良の日本酒を6つばかりご紹介しましょう
北から順番に…
1) 春鹿 (はるしか)
今西清兵衛商店 【創業 : 明治17(1884)年】
(奈良市福智院町)
奈良市(人口36万人)にある5軒の酒蔵の一つです。
「春鹿」と今西清兵衛商店
日本最古の酒蔵と言われる「春日大社の酒殿」(さかどの)で造られていた“白貴”(しろき)の製造を継承しています。
注:白貴とは
その年の収穫を神様に感謝する祭りに供されたもの。
“貴”とは酒の古名で、“祭り”とは平安初期に宮中の年中儀式や制度を詳しく記録した「延喜式」のなかに新嘗祭(しんじょうさい、現在の呼び名は「にいなめさい」)と記されており、この白貴とそれに灰を入れた黒貴を神に供し祝ったとされています。
(出典:「Sake Sennin」サイト)
春日大社に残る酒殿(さかどの)
酒銘「春鹿」は、「春日の神々が鹿に乗って奈良の地へやってきた」という伝説から、当初は「春日神鹿」(かすがしんろく)と名づけていましたが、後に改称しました。
春鹿といえば…
超辛口
アルコール添加の甘い酒が一般的だった30年以上も前に、純米酒で酵母の限界に挑戦した、旨味のある超辛口の「春鹿」は、全国にその名を知らしめたのだそうです。
左画像:前杜氏の古川武志氏(南部杜氏、77歳)
右画像:現杜氏の佐藤秀明氏(令和元(2019)年より)
今西清兵衛商店は、年間製造量2,500石(一升瓶で25万本)と中規模の酒蔵ですが、米国や仏国など十数ヶ国に輸出するなど積極的な営業を展開しています。
2) 三諸杉 (みむろすぎ)
今西酒造 【創業:万治3(1660)年】
(桜井市三輪)
奈良県中部の桜井市(さくらいし、人口5.5万人)にある酒蔵は、こちらの今西酒造と西内酒造(代表銘柄は「談山」(たんざん))の2軒です。
「三諸杉」と今西酒造
今西酒造は350年以上の歴史を誇る老舗酒蔵で、現在は14代目の今西将之氏(37歳)が蔵元杜氏を務めておられます。
30歳代の若い蔵人たち(右から3人目が今西蔵元杜氏)
酒銘「三諸杉」は、ご神体「三輪山」が古来から「三諸山」(みむろやま)と呼ばれていること、また三輪山では「杉」に神様が宿るとされていることに因んで命名されました。
「杉玉」発祥の地“三輪”
「三輪山」をご神体とする神社、それが今西酒造のある桜井市三輪に鎮座する大和国一之宮の三輪明神「大神神社」(おおみわじんじゃ)です。
三輪山を御神体に祀る大神神社
大神神社は、酒造りにつきものの“杉玉”発祥の地でもあるのです
注:杉玉とは
スギの葉(穂先)を集めてボール状にした造形物で、酒林(さかばやし)とも呼ばれます。
日本酒の酒蔵などの軒先に緑の杉玉を吊すことで、新酒が出来たことを知らせます。
「杉玉発祥の地」でもある大神神社
特大の杉玉は大宮神社の本殿に吊るされ
参拝客にも販売されています
杉玉に木札を付ける巫女さんと、買い求めて酒蔵に吊るす参拝客
3) 百樂門 (ひゃくらくもん)
葛城酒造 【創業:明治20(1887)年】
(御所市名柄)
奈良県中部の御所市(ごせし、人口2.4万人)にある酒蔵は、こちらの葛城(かつらぎ)酒造と、次にご紹介する油長(ゆちょう)酒造、そして千代酒造の3軒です。
「百樂門」と葛城酒造
葛城酒造は、明治20(1887)年に、後述5)でご紹介する久保本家酒造(宇陀市大宇陀)から分家し、御所市で創業しました。
酒銘「百樂門」は、「美しい奈良の自然を感じつつ、楽しい酒宴で心の門を開けよう」という願いを込めて名づけられました。
葛城酒造の秘話
今や奈良県を代表する「百樂門」を醸す葛城酒造ですが、平成28(2016)年には休業を発表していたのです
原因は杜氏の退職。
長らく務めた名杜氏(但馬杜氏)が高齢で退き、そのもとで修行を重ねて継いだ頼りの杜氏が病に倒れたのでした。ちょうど造りが終わったころの出来事でした。
かつては1万石(一升瓶で10万本)を醸した蔵の当主、久保伊作社長は「後が無い」と覚悟したそうです。
その後、還暦を過ぎた久保社長は自ら杜氏となり、一年休んだ後、ご自身が新たに醸した新酒しぼりたての生原酒、酒造年度29BY(醸造年度)をリリースしました。
蔵元杜氏の久保伊作氏
現在でも、久保社長(蔵元杜氏)が醸す新・百楽門は毎年完売を続けています。(現在の製造量は300石(一升瓶で3万本程度)です)
4) 風の森 (かぜのもり)
油長酒造 【創業:享保4(1719)年】
(御所市中本町)
油長(ゆちょう)酒造の主力銘柄は「鷹長」(たかちょう)と「風の森」(かぜのもり)です。
「風の森」と油長酒造
油長酒造の特徴は「無濾過・無加水」。
まさに「何も引かない、何も足さない」という、“米本来の味”を追求しているのですね
さらには、酒米に関しても「農業との共存共栄」を掲げて、地産地消を目指しています。
上画像:無農薬・無化学肥料による酒米「秋津穂」の栽培
下画像:特殊なサーマルタンク(ブラインタンク)を使った発酵
これら「こだわりの酒造り」の結果、今や「風の森」は、奈良の日本酒のなかで一番の人気銘柄となっています
5) 睡龍 (すいりゅう)
久保本家酒造 【創業:元禄15(1702)年】
(宇陀市大宇陀出新)
宇陀市(うだし、人口2.8万人)にあって、酒蔵の数はこちらの久保本家酒造と芳村酒造(主要銘柄は「千代乃松」)の2軒です。
「睡龍」と久保本家酒造
人気商品の一つ「睡龍」(すいりゅう)は、「眠れる龍が目を覚ますが如く」との願いを込めて名づけられました。
久保本家酒造の酒造りの特徴は「生酛(きもと)造り」。
注:生酛造りとは
日本酒の製造段階で、酵母を培養する酒母(しゅぼ)のことを「酛」(もと)と言います。
酵母を培養する作業はタンクなどの蓋を開けて行わなくてはいけないので、どうしても雑菌や野生酵母が入ってしまいます。それらを駆逐するために乳酸を加えるのですが…
多くの酒蔵では、あらかじめ生成された乳酸を加えるのがほとんどです(これを「速醸酛」(そくじょうもと)と呼びます)。
一方、久保本家酒造を含め歴史のある酒蔵では、自然に生息している乳酸「菌」が入りやすいようにし、その菌が乳酸を生成して、雑菌などを死滅させています。これが「生酛」(きもと)です。
上画像:醪(もろみ)を造るための櫂(かい)入れ)作業
下画像:2010年には中田英寿氏も訪問
酒蔵に併設して「酒蔵カフェ」もあり、唎酒(ききざけ)やお食事を愉しむことができます
300年前の酒蔵を改装した「酒蔵カフェ」を併設
6) 八咫烏 (やたがらす)
北岡本店 【創業:明治元(1868)年】
(吉野郡吉野町上市)
吉野山地が占める吉野郡にある5軒の酒蔵(吉野町、大淀町、下市町)は、全て吉野盆地に隣接しています。
(冒頭の「酒蔵マップ」でお判りのように、奈良県では、ここから南には酒蔵はありません)
「八咫烏」と北岡本店
北岡本店の日本酒は代々“能登杜氏”が醸していましたが、現在は夏目大輔氏(33歳)が杜氏を務めておられます。
上画像:サーマルタンク(品温制御の冷却タンク)を使った貯蔵
下画像:吉野杉樽に“肌添え”して香りを移す「たる樽」
(画像は奈良website「ぱーぷる」よりお借りしました)
また…
(関係は不明ですが)北岡本店の酒銘「総理」(そうり)は、相模國一之宮の寒川神社(神奈川県高座郡寒川町)の御神酒(おみき)に採用されているそうです。(2018年現在)
「開運トラベラーさん」さんのブログよりお借りしました)
以上、「奈良の日本酒」について調べてみました
次回の「日本酒シリーズ」(5/20アップ予定)では、「和歌山の日本酒」を勉強してみます
今日の一句です。
ではでは
唎酒師ろっきぃがお送りしました