JR西日本は9日、大糸線の本格的な利用促進・利便性向上の取り組みを、関係機関と連携して行う旨を発表しました。今回はこれについてみていきます。

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/a8b346b95feada8481777594584e91b7.pdf

 

<チャプター>

1.大糸線について

2.利用促進の取り組みについて

3.なぜ鉄道ではなくバス増便なのか

4.まとめ

 

1.大糸線について

 大糸線は、長野県松本市の松本駅から信濃大町駅、白馬駅、南小谷駅を経て、新潟県糸魚川市の糸魚川駅までを南北に結ぶ路線です。途中の南小谷駅で運転系統が分断されており、南側の松本駅~信濃大町駅~白馬駅~南小谷駅はJR東日本が、北側の南小谷駅~糸魚川駅はJR西日本が管轄しています。この関係で、南小谷駅をまたいで運行される列車はありません。

 南側の松本駅~信濃大町駅は一定の利用があるものの、信濃大町以北は利用者が少ない状況になっています。特にJR西日本が管轄する南小谷駅~糸魚川駅間の2022(令和4)年度の輸送密度は108となっており、廃線の危機にさらされています。

https://www.westjr.co.jp/press/article/items/230929_00_press_ysomitsudo.pdf

 

2.利用促進の取り組みについて

 今回実施される利用促進の取り組みは、大きくみると以下の通りとなります。詳細は上記PDF資料からご確認ください。

 

(1)大糸線沿線地域(白馬村・小谷村)で観光するタイプの旅行商品の造成・販売

(2)特設サイト作成やプロモーション、PRイベントの実施

(3)大糸線(糸魚川~白馬)の鉄道・バスが利用できるおトクなきっぷの販売

(4)糸魚川~南小谷~白馬間 臨時バスの増便。運賃は鉄道と同額で、大糸線の各駅に停車

 

 要は、「関西・北陸の各都市から、北陸新幹線・糸魚川駅経由で白馬を訪れる観光客を増やそう」という取り組みです。そのため、今回販売される旅行商品では、大糸線(糸魚川~南小谷・白馬)で往復した人の中から先着50名に、オプションを1,000円引きで利用できるインセンティブも設定されます。

 

3.なぜ鉄道ではなくバス増便なのか

 さて、この資料を読んだ方は、「おや?」と思われた方もいたでしょう。大糸線の利用促進・利便性向上と言いながら、本数増加は列車ではなくバスで行うこととなりました。バス増便では鉄道路線の利用促進にはならないだろうと、突っ込みたくなるところですが、その理由はなんでしょうか?

 最大の理由は、車両の工面にあると思われます。糸魚川~白馬間で臨時列車を走らせるとなると、JR西日本エリアとJR東日本エリアをまたがって走ることになるので、車両や乗務員をどう工面するかをJR東日本と調整しなければなりません。それならば、バス事業者から貸切バスを2台チャーターしたほうがスムースで費用も抑えられると考えたのでしょう。

 また、大糸線と並行する国道148号線は、片側1車線が確保されており、信号もあまりありません。そうした点も踏まえ、バスでも安定して運行を行えると判断したとみられます。

 

4.まとめ

 いかがでしたでしょうか。今回の取り組み内容を見ていると、北陸新幹線を使って白馬へ行く観光客を増やすことが主眼になっているように見え、大糸線の利用促進は副次的なものという印象を受けてしまいます。

 大糸線のJR西日本管轄区間は、山々を縫うように流れる姫川の渓谷沿いを通っており、沿線人口がとても少ないため、日常利用が期待できません。本来、鉄道の利用促進をするのであれば、通勤や通学、買い物など、日常利用をいかに増やすかが重要なのですが、それができないので観光利用を増加させて路線存続につなげていくしかないという、あまりにも厳しい状況にあります。

 そして、今回のバス増便ですが、利用が伸びなかった場合はもちろん、一定の利用があった場合でも「バス転換で対応できる」と判断され、鉄道から他の交通モードへの転換の議論が進む可能性があります。

 今回の利用促進の事業が終わったところで、大糸線の今後の在り方を考えることになるでしょう。その結果を踏まえ、今後どのような議論がなされていくのか、大糸線の存廃も含めて今後の行方が気になります。