JR東日本は22日、JR吾妻線の存廃に関する協議の申し出を、沿線自治体の長野原町、嬬恋村、及び群馬県に対して行いました。今回は吾妻線の存廃について、そしてなぜJR東日本が吾妻線を存廃協議の対象に選んだのかについて考察します。

 

https://www.jreast.co.jp/press/2023/takasaki/20240322_ta01.pd

 

 

 

1.JR吾妻線について

 JR吾妻線は、渋川駅(群馬県渋川市)と大前駅(群馬県嬬恋村)間を結び、群馬県北西部の町をつないでいます。かの八ッ場ダムのそばも通っており、八ッ場ダム建設に伴い線路が付け替えられたこともあります。

 

(1)渋川~長野原草津口

 この区間は吾妻線の東側にあたり、草津温泉や四万温泉へのアクセス路線としての役割を担っています。上野からの特急「草津・四万」も設定されており、吾妻線の中で一定の利用がある区間となります。2022年度の1日の平均通過人員は2,461であり、今のところ廃止になるような数字ではありません。1日あたりの平均通過人員は運行本数は普通列車が1日14往復(毎時1本程度)で、全列車が上越線の高崎または新前橋まで直通しています。特急列車は定期列車が2往復設定されており、多客期は臨時列車も設定されます。

 特急「草津・四万」は長野原草津口駅が終着駅となっています。長野原草津口駅は鬼押出しや軽井沢、草津温泉へ向かうバスも発着しており、交通の要衝となっています。

 

(2)長野原草津口~万座・鹿沢口

 この区間は普通列車のみが1日10.5往復設定されています。朝夕は毎時1本程度設定されているものの、日中は2時間に1本程度の運行となっています。

 万座・鹿沢口駅は、万座温泉や鹿沢高原への玄関口となっており、軽井沢駅~万座温泉を結ぶバスが万座・鹿沢口駅を経由しています。かつては鹿沢高原へ向かうバスもありましたが、2007(平成19)年に廃止されたようです。

 また特急列車も万座・鹿沢口駅まで運行されていたのですが、2016(平成28)年に長野原草津口発着に短縮されています。

 

(3)万座・鹿沢口~大前

 万座・鹿沢口駅は終点の1つ手前の駅で、次が終点の大前駅なのですが、普通列車の半数以上は万座・鹿沢口駅で折り返してしまうため、この1区間だけは極端に本数が少なくなっています。大前行きの列車は1日4本、大前発の列車は1日5本しかなく、11時~17時は全く列車が走っていない状況です。

 

 今回、存廃の協議の対象としてJR東日本が挙げているのは、(2)(3)で挙げた長野原草津口駅(群馬県長野原町)~大前駅間です。この区間の2022年度の平均通過人員は263にとどまり、存続が危ぶまれるレベルとなっています。

https://www.jreast.co.jp/rosen_avr/pdf/rosen02.pdf

 

2.存廃協議について

 JR東日本は「今後の在り方を考えたい」としていますが、「鉄道の特性である大量輸送のメリットを発揮できていない」とコメントしていることからも、将来的には廃止したい意向であるとみてよいでしょう。

 今回、JR東日本が申し入れを行った存廃協議について、長野原町、嬬恋村いずれも参加することを表明しました。存続させるにしろ廃止にするにしろ、鉄道事業者と沿線自治体が膝をついて今後の交通の在り方を議論する場は必要なので、すんなり協議会が開催される見通しであることはよいことだと思います。

 

3.吾妻線を存廃協議にあげた理由

 JR東日本が沿線自治体に対し、存廃協議の申し入れを行ったのは、久留里線の久留里~上総亀山に続き2例目です。JR東日本全体で見れば、吾妻線より利用が少なく、存廃対象となりそうな路線は他にもありますが、その中で吾妻線が選ばれたのには、いくつか理由があると考えます。

 

(1)貨物列車が設定されていない

 貨物列車が設定されている路線は、物流施策などが関わるため、旅客利用が少ないからといっておいそれと廃止にするわけにはいきませんが、旅客列車のみであれば乗客の多い少ないで存廃を判断できます。

 

(2)盲腸線(行き止まり路線)である

 吾妻線の駅で、他の鉄道路線と通じているのは渋川駅のみです。吾妻線の線路は大前駅で行き止まりになっています。他の地域に抜けられるような路線であれば、広域輸送という見込みも立ちますが、行き止まり路線の場合、大半は沿線のローカル輸送に留まるため、どうしても利用が低迷しがちになり、存廃協議にあがりやすくなります。

 

(3)関与する沿線自治体数が少ない 今回、存廃協議の対象に挙がっている長野原草津口~大前間は、長野原町と嬬恋村の2自治体しか経由していません。そのため、長野原町と嬬恋村が廃線を容認すれば、廃線ということで話は一気に進んでいくでしょう。

 

 以上が、JR東日本が吾妻線の長野原草津口~大前間を存廃協議の対象に選んだ主な理由と考えられます。なお、久留里線の久留里~上総亀山間についても、上記(1)~(3)を満たしています。(貨物列車の設定がない行き止まり線であり、関与する沿線自治体も君津市のみであるため)

 久留里線の場合は1日の平均通過人員がワーストクラスに少ないというのが一番の理由ではあると思いますが、こうした背景も実はある、ということです。

 

4.今後のゆくえと懸念点について

 いかがでしたでしょうか。長野原町と嬬恋村は、今回の存廃協議について参加する意向を示してはいるものの、存廃についてどのように考えているかは不明です。

 存続をさせるにせよ、JR東日本が沿線自治体に一定の費用負担を求めることは明白であり、そこにどこまで費用や労力をかけるかということが、存廃のゆくえを左右することになりそうです。

 心配な点は、嬬恋村には路線バスが走っていないに等しく(上田~草津温泉のバスが1日1往復、新鹿沢温泉に停まるのみ)、鉄道が廃止されると嬬恋村内での移動手段や嬬恋村~他市町村への移動がほぼできなくなってしまうという点です。バス運転手不足という問題もありますが、何らかの形で代替交通手段を確保する必要はあると考えます。

 

5.まとめ

 上で見てきたように、関与する沿線自治体が少ない、かつ他地域にも通じていない行き止まり路線のほうが、広範囲に通じていて沿線自治体も数多くある路線よりも合意形成がとれる可能性が高い、ということで、JR東日本は久留里線と吾妻線を存廃協議の対象に選定したと考えられます。

 特に、運行本数が極端に少ない万座・鹿沢口~大前間は、嬬恋村のみに属しているため、嬬恋村が容認すればこの1区間だけ先行して廃止、という展開も考えられます。廃止できるところから廃止して、赤字額や労力の軽減を行い、今後維持していく路線を選択集中させたいというJR東日本の狙いがうかがえ、戦略的にことを進めているという見方もできるでしょう。

 そう書くと非常にネガティブな表現ですが、いずれにせよよい公共交通づくりには交通事業者と沿線自治体が協議し、役割分担を行い、施策を実行していくほかはないわけで、存廃協議をよりよい交通を考える一歩にすることが、本当に大切なことではないでしょうか。