昨年12月15日、JR東日本千葉支社は2024年3月ダイヤ改正の概要を発表しました。その中で、京葉線快速列車については日中(10~15時台)のみの運行とし、その他の時間帯は平日・土休日問わず全て各駅停車に変更することを明らかにしました。平日に運行されている通勤快速も、併せて廃止することが発表されました。

 

 JR東日本千葉支社プレスリリース↓↓

https://www.jreast.co.jp/press/2023/chiba/20231215_c01.pdf

https://www.jreast.co.jp/press/2023/chiba/20240116_c01.pdf

 

 これに対して沿線自治体や千葉県は猛反発し、ネット上でも批判の声が大きくあがりました。そうした反発の声を受け、2024年1月にはJR東日本千葉支社が、「平日の東京行き2本については快速のまま存続させる」と発表しました。ダイヤ改正の概要が公表された後に改正内容が覆るという、異例の事態となったわけです。

 この騒動について、JR東日本の狙いや沿線自治体の動き、そして当局としての考えを改めてまとめたいと思います。

 

1.JR東日本の狙い

 JR東日本は、快速列車の廃止の狙いについて、以下の通り挙げています。

 

・快速を廃止して全て各駅停車とすることで、列車の通過待ちをなくし、各駅停車の速達化を図る

・快速通過駅の停車本数を増加させる

・通勤快速は他の列車より混雑率が低いので、各駅停車化して混雑を分散させる

 

 こんなところでしょうか。私が思うに、一番の狙いは「列車の増発をしないで東京口の混雑緩和を図る」ことではないかとみています。

 京葉線の東京側は、沿線住民も多く、ディズニーランドもあることから、利用者が多い区間となっています。さらに、武蔵野線の列車は京葉線に直通しており、東京~市川塩浜間で京葉線の線路を走行しています。武蔵野線の利用者は堅調に増えており、ここ数年増発を重ねている状況です。

 そういった点を踏まえ、利用者の多い朝夕は全列車各駅停車とし、東京側の運転間隔を平準化させることで、混雑緩和を図ろうとしたとみています。

 ただ、混雑緩和を図るのであれば、単純に京葉線の快速や各駅停車を増発するという手もありますが、増発どころか逆に減便されてしまいました。「全列車各駅停車化により、列車ごとの混雑を均等化させれば、減便しても捌ける」-そう考えたのではないでしょうか。減便した分は純減で労力や経費の削減にあてるか、もしくは利用の多い東京~西船橋間の列車にゆくゆくは振り分けたいーそんな狙いがあるのではないかと邪推しています。

 

2.沿線自治体の危機感

 京葉線の快速列車の廃止に対して、千葉県・千葉市及び内房線・外房線の沿線自治体は猛反発しました。特に、通勤快速の廃止に対して「断じて容認できない」という姿勢を打ち出しています。

 他地域の人からすれば、「なぜこんなに通勤快速にこだわるのか?」と感じる方もいるかもしれません。ですが、これには切実な理由があります。

 京葉線の通勤快速は、京葉線内で八丁堀・新木場にしか停車せず、舞浜や海浜幕張ですら通過してしまうという、停車駅がとても少なく、速い列車です。

 

 

 この通勤快速があるおかげで、内房線・外房線の各駅から東京駅まで、60~70分でアクセスできます。人によって個人差はあると思いますが、このくらいの所要時間が通勤時間として許容できるギリギリのラインではないかと思います。しかし、通勤快速が廃止されると、15~20分ほど通勤時間が延びてしまうため、内房線・外房線の各駅から東京への通勤はかなり厳しくなるでしょう。

 内房線・外房線の沿線自治体は、人口減少の問題に直面しています。そんな中で通勤快速が廃止されるとなると、もっと東京に近い自治体への転出がさらに進む可能性があります。また、移住定住者も減ってしまい、人口減少が加速度的に進んでしまうことを強く危惧しているとみられます。通勤快速は1日2往復のみの運行なのですが、沿線自治体にとってはたかが2往復、されど2往復であり、人口流出を食い止める「最後の砦」といっても過言ではないかもしれません。

 そんな中で、前触れもなしにいきなり通勤快速を廃止したらー。これだけの騒動になってもおかしくはないでしょう。

 

3.JR東日本の誤算

 JR東日本の誤算は、沿線自治体が持つ強い危機感を軽く見てしまったことだと思います。そして、快速列車廃止にかわる代替策を特に用意していなかったこともまずかったと思います。

 JR東日本は9年前に、房総特急の大幅な減便を行いました。中でも内房線の特急「さざなみ」は、平日朝夕に東京~君津間で運転するのみとなり、大幅に縮小されました。

 ただこのときは、総武線ー内房線の直通快速列車を新設するなど、代替策がとられていました。内房線民としては、確かに特急が減ったことはマイナスでしたが、千葉へも船橋へも東京へも一本で行ける総武快速が増え、プラスの面も大いにありました。

 しかし、今回のダイヤ改正では、特段代替策は用意されていません。「快速廃止は特急誘導ではないか」との声も上がっていますが、その特急ですら減便したり、平日のみ運転にするなど、大きく運行規模を縮小しており、特急誘導にすらなっていないと考えます。

 実は今回のダイヤ改正、特急誘導を図る千載一遇の大チャンスでした。というのも、房総半島を走る特急列車は、今回のダイヤ改正から全車指定席となる一方で、新たな特急料金体系が導入され、指定席特急料金が大幅に値下げされるからです。

 例えば、「快速廃止の代わりに、特急の本数を増やす。現行の自由席特急料金と大差ない料金にするから、どうか特急を利用してほしいー」そんな施策を打っていれば、賛否両論はあれどここまでの騒動にはならなかったのではないかと感じています。

 

4.今後について

 今回大問題になった京葉線の快速廃止問題。ひとまず騒動は落ち着いたものの、今後京葉線のダイヤ変更を見る沿線自治体の目は厳しいものとなるでしょう。

 以前、2019年のダイヤ改正で、中央本線の特急「あずさ」が速達化の名目で停車駅を大きく減らすという変更を行ったことがあります。しかしいきなり特急停車駅を減らしたことで、一部の駅の利便性が急激に落ちてしまい、沿線自治体が猛反発、翌年のダイヤ改正で停車駅を再度見直し、停車列車を増やすということがありました。

 

 

 京葉線についても、今年もしくは次のダイヤ改正で、いくらか快速列車が復活する流れになってもおかしくないと思います。とはいえ、通勤快速の混雑率は他列車よりは低いともいわれており、通勤快速を復活させるにしても以前より停車駅を増やすなど、何がしらの策は必要でしょう。

 鉄道事業者としては、限られた人員と車両と経費でやりくりしなければならず、沿線自治体の要望を逐一聞いていられないという心境かもしれません。しかし、利便性を下げるような施策を打つのであれば、沿線自治体への根回しを行うことや、利便性低下を食い止める代替策をなにがしら用意する必要はあるかと思います。今回はさして代替策もないまま、快速の大幅削減を断行しようとしたーそのことが一番の問題だったのではないでしょうか。

 京葉線の快速が削減されることで、今後内房線・外房線の利用者は、京葉線利用から総武線利用へシフトする動きがみられるでしょう。今までは「総武本線・成田線→総武快速線」「内房線・外房線→京葉線」という振り分けで、東京~房総各地への輸送の役割分担がなされていましたが、今回の改正でその役割分担が事実上崩壊し、総武線への混雑が集中することを危惧しています。今後の利用状況の変化について、注視していきたいと思います。