JR東日本は15日、次回のダイヤ改正で大幅縮小を予定している京葉線の快速列車について、平日朝の上り2本は快速のまま維持することを明かしました。今回は、京葉線快速縮小問題にかかる一連の動きについて考察、解説します。

※1.16  JR東日本千葉支社のプレスリリース発表内容を踏まえ、チャプター2について記事内容を修正しました。

 

 

1.京葉線の2024年3月ダイヤ改正について(当初公表分)

 分析に入る前に、JR東日本が当初公表していた、京葉線のダイヤ改正内容についておさらいします。既にご存じの方は2へお進みください。

 以前の記事で既に改正内容は紹介しているので、ここではごく簡単に要点だけ挙げることにします。

 

<改正の概要>

・平日に2往復運行されている「通勤快速」を廃止する。現行ダイヤでは、「通勤快速」は、京葉線~内房線、京葉線~外房線直通列車が1往復ずつ設定されているが、改正後は全区間各駅停車として運行される。

・平日・土休日いずれも、快速列車の運行は日中だけとする。朝夕夜間に設定されている快速列車は、京葉線~内房線、京葉線~外房線の直通列車も含め、全て各駅停車として運行する。

 

 JR東日本は快速列車の各駅停車化について、「混雑緩和のため」と説明していましたが、千葉市や房総半島の沿線自治体はこの改正内容に猛反発し、ダイヤ改正撤回の申し入れや要望書の提出までなされる事態となりました。

 

2.ダイヤ改正内容の見直し (R6.1.16 記事一部修正)

 そうした反発の声を受け、JR東日本はダイヤを再検討したようで、平日朝の上り2本については、快速を残すことを発表しました。

 改正後も快速として運行継続されるのは、内房線・外房線から京葉線に直通する列車各1本で、以下の列車となります(発車時刻は一部駅のみ掲載)

https://www.jreast.co.jp/press/2023/chiba/20240116_c01.pdf

 

<外房線→京葉線直通>  

上総一ノ宮6:03発→茂原6:12発→大網6:25発→蘇我6:43発→海浜幕張6:56発→新木場7:17着→東京7:25着

 

<内房線→京葉線直通>

君津6:12発→木更津6:19発→袖ヶ浦6:26発→五井6:40発→蘇我6:51発→海浜幕張7:04発→新木場7:27着→東京7:35着

 

 外房線からの直通快速については、現在は外房線内でも快速運転を行っていますが、改正後は外房線内各駅停車となります。その関係で、上総一ノ宮の発車時刻が5分、茂原の発車時刻が3分繰り上がります。

 当該列車は朝ラッシュピーク時直前の時間帯であり、利用者も少なくありません。東京駅へ行くのであれば、総武快速で代替できますが、新木場駅利用者などは総武快速では代替がききません。そうした点を踏まえても、朝ラッシュ時だけでも京葉線快速が残ったことは価値があるといえるでしょう。

 そもそも、ダイヤ改正の概要が発表された後に自治体からの反発の声を受け、内容を見直すということは通常ありません。千葉県や沿線自治体が一丸となってダイヤ改正の見直しを求めて声を上げたことが、一定の成果をあげたといえます。

 

3.沿線自治体はなぜ猛反発しているのか

 そもそも、沿線自治体はなぜ京葉線のダイヤ改正内容について、特に通勤快速の廃止についてここまで猛反発しているのでしょうか。

 次の表をご覧ください。こちらは、JR東日本プレスリリースと現行ダイヤの時刻表をもとに私が作成した、改正前後の東京~沿線自治体中心駅間の所要時間をまとめたものです。

 現行ダイヤではあれば、通勤快速を使えば千葉市中央区・千葉市緑区・市原市の各駅~東京間は1時間以内、房総半島中部の木更津や茂原へも1時間10分台となります。

 しかし、通勤快速が廃止されることにより、多くの駅で15分以上所要時間が増大することが分かります。これは決して小さな差とはいえないでしょう。

 これにより、沿線自治体や県は特に以下の2点を危惧していると考えます。

 

(1)人口流出

 現行ダイヤでは、通勤快速があるおかげで、房総半島中部からでも東京まで1時間少々でアクセスが可能です。発着地によっても変わりますが、東京駅まで60~70分で行ける環境があれば、「通勤快速を使って、何とか実家から遠距離通学しよう」「内房線・外房線沿線にとどまって、東京まで通勤しよう」と沿線住民に思ってもらうこともできるでしょう。

 しかし、東京駅までの所要時間が20分延びる、片道1時間~1時間半かかるようになる、となればどうなるでしょうか。「実家を出て都内に下宿しよう」「東京に近いところに引っ越そう」と考える人が増える可能性があります。

 

(2)移住政策への影響

 移住政策において、房総エリアは「都心に近く、電車で通勤しやすい」「地価が東京より安い」「自然がある」ことを主な強みとしています。それゆえに、都心から離れていても、市原や千葉市南東部、大網などに家を購入して住む人も一定数います。

 通勤快速がなくなるとなると、「都心に近く、電車で通勤しやすい」という強みが、強みでなくなってしまう危険性をはらんでいます。そうなると、他の地域から房総エリアへ移住する人が減ってしまう可能性があります。

 

 房総エリアの各自治体は、他の地域と同様、人口減少問題に直面しています。そんな中での通勤快速の廃止、快速列車の大幅縮小は、人口減少に拍車がかかる危険性が高く、その危機感から沿線自治体は猛反発したと考えられます。

 

4.おわりに ~今回の改正は何がまずかったのか~

 ここまで、京葉線のダイヤ改正をめぐる動きとその背景について解説しました。今回のダイヤ改正で良くなかった点について、私は2つあるとみています。

 

(1)代替策がない

 今回、通勤快速が廃止され、快速列車も大幅縮小されることになり、東京~千葉市・内房線・外房線沿線のアクセス利便性は大きく下がることとなります。しかし、利便性低下を抑えるための策がこれといってなかったことが、今回最もまずかった点だと考えます。

 例えば、快速を大幅に縮小する代わりに、「特急列車を増発もしくは本数維持します」「通勤通学利用者の多い駅に特急を停めます」「土休日運休としていた列車も毎日運転にします」「特急料金を値下げします」ということであれば、まだ筋は通っています。「特急誘導だ」という批判はあがったとは思いますが、代替策は用意されています。

 しかし実際はその逆で、特急列車は減便され、残る列車についても一部は毎日運転から平日のみ運転に縮小される予定です。朝夕の京葉快速は廃止される、特急も減便されるとなると、不便になるとしか言いようがありません。

 ここで思い起こされるのは、2015年のダイヤ改正です。このとき、内房線では特急「さざなみ」の運行が大幅に縮小し、平日の朝夕のみ東京~君津間で運行という形に変わりました。

https://www.jreast.co.jp/chiba/news/pdf/pre1412_timetable.pdf

 このときは、特急列車は減便になる代わりに、総武快速線~内房線の直通列車が増発され、内房線沿線から千葉・船橋・東京方面への移動がとても便利になりました。

 このように、代替策があれば、また違った展開になっていたと思われます。

 

(2)沿線自治体からの反発が予想以上だった

 JR東日本千葉支社の支社長は、今回の京葉線のダイヤ改正をめぐる一連の動きについて「沿線自治体や利用客から厳しい声をいただき、改正後の影響に考えが至らなかったと反省した」とコメントしています。

 京葉線では前回のダイヤ改正でも、夕夜間の快速列車を減便していますが、大きな反発にはなりませんでした。そのため、今回その流れで通勤快速を廃止し、さらに快速を減らして各駅停車化を図ろうとしたのでしょう。

 しかし、通勤快速の存在感は、JRが思っていた以上に沿線自治体にとって重要なものでした。結果的に、その点を甘く見てしまったということになるでしょう。

 

 平日朝の利便性低下は少しばかり抑えられることとなりましたが、今後の利用動向やダイヤがどうなっていくのか、引き続き注視していきたいと思います。