JR東日本は15日、来年3月16日のダイヤ改正をもって、首都圏の普通列車(快速含む)の自由席グリーン車の料金体系を見直すことを発表しました。今回はこれについて分析します。
https://www.jreast.co.jp/press/2023/20231215_ho01.pdf
ポイント1:通勤客は料金改定の影響をほとんど受けない(むしろプラスの影響を受ける人も少なくない)
ポイント2:行楽客は料金改定のマイナスの影響を受けやすい
ポイント3:JREポイントを貯めている人が、よりおトクにグリーン車を利用できるようになる
※記事中の図はJR東日本プレスリリースから引用しています。なお、1と2は前説になっており、首都圏のグリーン車にあまりなじみがない方向けに説明をしています。首都圏の普通列車のグリーン車やJREポイントについて御存じの方は、3「グリーン料金 変更の概要」まで飛ばしてご覧ください。
1.前説 JR東日本 普通列車グリーン車についての概要
グリーン車を連結している普通・快速列車が運行されている路線・区間は以下の通りです。
このうち、10両・11両・15両編成の列車について、4号車と5号車が2階建ての特別車両「グリーン車」となっています。通常の座席とは異なり、シートピッチが広く取られ、リクライニングシート・座席テーブルが設置されています。横須賀・総武快速線の新型車両E235系には、全席にコンセントも設置されています。
グリーン車は全席自由席で、指定席はありません。そのため、満席の場合は座れないこともあります。グリーン車車両のデッキに立って乗車している場合でもグリーン料金が必要です。
なお、青春18きっぷは原則グリーン車には乗車できないのですが、首都圏の普通・快速グリーン車については、グリーン券を追加購入するだけで乗車することができます。
2 前説 グリーン券の買い方
普通・快速列車のグリーン車を利用する場合、普通乗車券のほかに「グリーン券」を別途購入しなければなりません。そのグリーン券をゲットするための方法がいくつかあります。これが今回の話題にけっこう関わる部分になるので、おさえてもらえると嬉しいです。
(1)窓口や券売機で紙のグリーン券を購入する
列車に乗る前に、事前に窓口や券売機でグリーン券を購入する方法です。
(2)車内で乗務員からグリーン券を購入する
とりあえず来た列車に乗り、グリーン車の車内でグリーン券を購入する方法です。この場合、事前に購入した場合と比べてグリーン料金は高くなります。
(3)SuicaなどのICカードで購入する
グリーン券は、SuicaなどのICカードでも購入することができます。この場合、駅のICカード専用の券売機で購入でき、購入するとグリーン券のデータがICカードの中に書き込まれる形となります。
あとは乗車した後に、座席上部のカードリーダーにICカードをタッチすればOKで、車内検札もありません。
なお、ICカード専用の券売機でグリーン券が購入できるのは、Suica(JR東日本)、PASMO(関東民鉄)、Kitaca(JR北海道)、TOICA(JR東海)のみで、ICOCA(JR西日本)、SUGOCA(JR九州)など他のICカードは利用できません。
(4)JREポイントをグリーン券に引き換える
JR東日本では、「JREポイント」というサービスを実施しています。これは、あらかじめ登録しているSuicaやJREポイントカード、ビューカードを使って、JR東日本の路線に乗ったり、JR東日本の関連施設で買い物をしたりすると付与されるポイントで、たまったポイントで買い物や鉄道の乗車ができたり、特典を受けることができます。
JREポイントの使い道の一つとして、グリーン券への交換があります。JREポイント600ポイントで、一枚のグリーン券と交換できます。必要ポイントは時期、区間に関わらず600ポイントとなっており、平日にグリーン車を利用する場合や、51km以上グリーン車を利用する場合は通常購入よりおトクになります。
3.グリーン料金 変更の概要
来春からのグリーン料金の変更点は下記のとおりです。
<変更点>
①これまでは「乗車前に事前購入するか、車内で購入するか」「平日か土休日か」によって料金差が設けられていました。変更後は通年同額となり、購入したタイミングにかかわらず「ICカードで購入するか、紙のきっぷを購入するか」によって料金差を設けるように変更されます。
ICカードでグリーン券を購入して乗車した場合、座席上部のランプが赤色から青色に変わることで、車内検札は省略されています。ICカードでのグリーン車利用を促すことで、紙代や印刷代の経費削減、車内検札の負担軽減を図り、業務の効率化を図る意図があるとみられます。
私は年に数回グリーン車を利用しますが、見た限りほとんどの方がICカードを使ってグリーン車に乗っているので、きっぷの購入方法で料金差を設けても支障は少ないとみています。
また、土休日は通勤客の利用が少なくなるため、行楽客のグリーン車利用を促すべく、平日よりおトクな価格で設定されていますが、それもなくなります。平日に関しては100kmまでの区間は現行とほとんど変わりありませんが、土休日については値上げとなります。
②平日・土休日いずれも、101km以上の区間についての価格が新設されます。101km以上区間に関しては大幅な値上げとなります。
この101kmの壁というのがなかなか絶妙で、東京~熱海(104.6km)、東京~高崎(105.0km)、東京~宇都宮(109.5km)など、主要都市どうしの移動で割と101kmをぎりぎり超えるという区間が存在しています。
グリーン車は51km以上は料金の上限がないため、現行制度では51km乗ろうが140km乗ろうが平日は1,000円、土休日は800円でグリーン車に乗ることができます。土休日は百数十キロ、2~3時間以上乗車してもグリーン料金は800円という安さゆえ、始発駅発車時点でグリーン車が半分以上埋まってしまうくらいの人気ぶりで、混雑がみられていました。そのため、その混雑を是正しつつ、増収も図るという狙いがあるとみられます。
4.料金変更の影響
次に、この料金変更の影響と今後起こりうる動きについて考えていきます。
グリーン車を利用する利用者で最も多いのは、Suica定期券などのICカードを使用している通勤客です。ICカードのグリーン料金は、前述の通り平日100kmまでの区間は現行とほぼ同額であり、今回の料金変更の影響はあまり受けないでしょう。むしろ、50kmまでの区間は現行より30円引きとなるので、今回の料金変更の恩恵を受ける乗客も少なくないとみられます。
今回、グリーン定期券については値段が据え置かれていることからも、値上げのターゲットは通勤客以外の利用者であると考えられます。料金変更で影響を受けるのは、以下の3タイプが考えられます。
〇土休日に買い物や行楽目的でグリーン車を利用している乗客
100km未満の区間の場合、料金は約200円上がります。さらに、101km以上の区間を利用する場合、現行では800円のところが、変更後は1,550円とほぼ2倍になります。こうなれば、101km以上乗車する長距離客は、「どうせ追加料金を払うなら速い列車へ」と、新幹線や特急列車にシフトする動きが出てくると予想します。
〇家族など、複数人でグリーン車を利用する乗客
1枚のICカードでグリーン券を複数枚買うことはできないため、家族連れなど複数人で利用する人は紙のきっぷを事前に購入している人もいらっしゃることでしょう。今回の変更で紙のきっぷの値段が上がるので、確実に影響が出るでしょう。ここについては、何らかの改善があってもよいのではと考えます。
〇西日本や九州などからやってきた行楽客
前述の通り、ICカード専用グリーン券売機に対応しているのはSuica(JR東日本)、PASMO(関東民鉄)、Kitaca(JR北海道)、TOICA(JR東海)のみで、ICOCA(JR西日本)、SUGOCA(JR九州)など他のICカードは利用できません。そのため、西日本や九州からやってきた行楽客がグリーン車を利用する場合、紙のきっぷを利用することになり、影響がありそうです。
ただ、遠方から関東へやってきた場合、目的地近くの主要駅まで新幹線や特急列車を利用する人のほうが多く、わざわざ普通列車のグリーン車に長時間乗る人は少ないと考えられます。そのように見れば、大きな影響はないとみられます。
5. JREポイントとグリーン券の関係
JREポイントの特典として、600ポイントでグリーン券1枚に交換することができるというものがありますが、料金変更後も600ポイントで交換できます。そのため料金変更後は、JREポイントを使ってグリーン券を手に入れるのが、最も安くグリーン車に乗れる方法、ということになります。
また、モバイルSuicaでグリーン券を購入すると2%分、カード式Suicaでグリーン券を購入すると0.5%分のJREポイントが付与されるほか、モバイルSuica+VIEWカードで支払いにすればさらにJREポイントが付与されます。これらのポイント付与についても、料金変更後も引き続き継続されます。
即ち、JREポイントを貯めている人(=JR東日本の関連施設で買い物等を多く行っているなど)ほど、お得にグリーン車を利用できるシステムになる、ともいえます。このようにして、Suicaの利用促進だけでなく、乗客がJREポイントを貯めるモチベーションを上げ、JR東日本の関連事業の収益向上も狙いとしているとみられます。
6.まとめ
いかがでしたでしょうか。通勤利用者については大半が料金はほぼ据え置きとなり、行楽利用者で乗車時間・距離が長いにもかかわらず安い料金で乗車しているという部分を是正したいということが第一の狙いとみられます。
もう一つの大きな狙いはSuicaのさらなる利用促進、もっといえばJREポイントの登録者を増やし、JR東日本であらゆるものやサービスを消費する流れを強化したいという狙いも見えてきます。
今回のグリーン料金変更により、グリーン車の利用状況がどう変わるのか、そしてSuica利用がさらに進んでいくこととなるのか、注目です。