JR北海道は15日、一部特急列車の全車指定席化及びおトクなきっぷの見直しについて発表しました。今回はこれについて分析します。

https://www.jrhokkaido.co.jp/CM/Info/press/pdf/20231115_KO_reservedseat.pdf

 

1.全車指定席化の概要

 全車指定席となる特急列車は、「北斗」(札幌~函館)、「すずらん」(札幌~東室蘭・室蘭)、「とかち」(札幌~帯広)、「おおぞら」(札幌~釧路)の4種類で、来春から全車指定席となります。札幌~旭川を結ぶ「カムイ」は指定席が1両→3両、自由席が4両→2両に、「ライラック」は指定席が2両→4両、自由席が4両→2両にそれぞれ変更となります。なお、「宗谷」(札幌~稚内)、「サロベツ」(旭川~稚内)、「オホーツク」(札幌~網走)、「大雪」(旭川~網走)は変更ありません。

 来春以降は、「北斗」「すずらん」「とかち」「おおぞら」は、指定券がないと乗車できません。もし指定席が満席の場合や、座席の指定を受けないまま乗車する場合は、指定席特急料金と同額の「座席未指定券」(日付、列車、区間のみ指定)を購入して乗車することになります。

 

2.おトクなきっぷの変更 概要

(1)えきねっとへの一本化

 前述の特急列車が全車指定席化されるのに伴い、窓口で購入するタイプのおトクなきっぷである「乗車券往復割引きっぷ」「北斗オプション特急券」「すずらんオプション特急券」は廃止となり、おトクなきっぷは「えきねっとトクだ値」「お先にトクだ値」に一本化されます。要するに、今後は会員制予約サイト「えきねっと」でしかおトクなきっぷは買えなくなる、ということです。

 

(2)イールドマネジメントシステムの導入

 簡単に言うと、「乗車日1か月前など、早いタイミングで予約をするほどおトクな料金で特急に乗れる」「予測乗車率に応じて価格が変動する」というシステムです。JALのスペシャルセイバーや、ANAの旅割をイメージしてもらえるとわかりやすいかと思います。(画像はJR北海道プレスリリースから引用)

 

 

(3)えきねっとのサービス拡充

 「お先にトクだ値」は通年販売となるほか、「えきねっとトクだ値」の設定範囲も拡大されます。函館本線(札幌~旭川)間については、現在は札幌⇔旭川間の移動だけでしか「えきねっとトクだ値」が使えませんが、今後は札幌~各特急停車駅および旭川~滝川・深川間にも「えきねっとトクだ値」が設定されます。

 特急の自由席が利用できる「自由席往復きっぷ(Sきっぷ)」は今回は廃止されないようですが、Sきっぷ自体が爆安な上に、新設されるえきねっとトクだ値も特急指定席利用という点で見れば良心的な価格設定なので、ゆくゆくはSきっぷも廃止となる可能性が高いとみています。

 

(4)特急定期券「かよエール」

 「かよエール」は、特急の自由席に乗車できるですが、前述の全車指定席化される特急列車区間については、追加料金なしで指定席の空席を利用できるようになり、商品名も「かよエール+」に変更されます。なお、自由席が連結されている他の特急については、引き続き自由席のみ利用できるという条件が継続されます。

 

3.考察とまとめ ~ネット予約への一本化と価格変動制の導入が一番の狙いでは?~

 今回の全車指定席化導入について、JR北海道は「着席機会の増加」「始発駅に近い駅から利用するほうが座れるという不公平感の解消」などを理由に挙げています。これらの理由も間違ってはいないとは思うのですが、最も大きな理由は「えきねっとの利用誘導」と「価格変動制の導入」の2つでしょう。

 今回のおトクなきっぷの見直しにより、おトクなきっぷはえきねっとでの購入に一本化されました。これは、全車指定席化とあわせて会員制予約サイト「えきねっと」からきっぷを購入するよう利用者に促し、駅業務と車内業務を縮小して人件費などの固定費を軽減したいという意図がうかがえます。

 また、全車指定席化することで、予測乗車率を推定しやすくなり、利用需要に応じて価格を変動しやすくなります。繁忙期はおトクなきっぷの割引分を減らし、閑散期は割引分を大きくすることで、利用の分散と増収を図りたいという狙いがあるとみています。

 全車指定席化により、最低価格は上昇するので、抵抗の声もあがるかもしれませんが、業務効率化を図りながらサービス水準を落とさないようにするという点ではやむを得ない部分もあると考えます。今後の変化に注目です。

 

4.その他

(1)特急「すずらん」

 現在の特急「すずらん」は札幌~東室蘭間は特急「すずらん」、東室蘭~室蘭間は名称なしの普通列車として運行されていますが、来春からは札幌~室蘭の全区間で特急「すずらん」として運転されます。なお、東室蘭~室蘭間は各駅に停車するほか、同区間のみ乗車する場合は特急券なしで指定席の空席に乗車できます。

 この変更狙いは、室蘭まで向かう特急「すずらん」の案内が分かりづらいところにあったようです。

 現行の特急「すずらん」は、「特急「すずらん」東室蘭行き(東室蘭から普通室蘭行きになります)」といった案内をしています。これは、「東室蘭までは特急として走り、東室蘭で普通列車に変更してそのまま室蘭まで向かう」という意味なのですが、乗客にとっては「東室蘭までしか行けない」と捉える方もいたようで、分かりづらいものになっていました。

 来春以降は全区間特急として走るようになるため、「特急室蘭行き」と、より分かりやすい案内になります。これは乗客目線を考慮した変更で、非常によいと思います。

 

(2)石勝線 新夕張~新得間について

 石勝線の新夕張~新得間は、普通列車が1本も走っておらず、特急列車しか通っていないため、同区間内を利用する場合に限り、特例として乗車券(青春18きっぷなども含む)だけで特急「とかち」「おおぞら」の自由席に乗車できます。

 来春から「とかち」「おおぞら」は全車指定席になりますが、同区間内を利用する場合は、乗車券のみで指定席の空席を利用することができます。そのため、現行とほぼ変更はありません。