東急電鉄は8月10日(木)から、東横線で有料座席指定サービス「Qシート」の運用を開始しました。今回はこれについて、なぜ特急ではなく急行に導入されたのかという点を中心に考察します。

 
 

 

1.Qシートの概要

 「Qシート」は、東急電鉄が実施している有料座席指定サービスであり、大井町線~田園都市線の直通急行列車に続き、東横線で2例目となります。東急線の列車は基本的に全車自由席ですが、Qシート車両だけは指定席車両となっており、利用には別途指定券(大人・こども同額、区間にかかわらず500円)を購入する必要があります。ただし、みなとみらい線内(横浜~元町・中華街)は指定券なしで自由に乗降できます。

 車内設備等については、東急電鉄のHPもあわせてご参照ください。

 

 

2.なぜ特急ではなく急行列車に導入するのか

 東横線でのQシートは、平日夕方の渋谷発元町中華街行き急行列車5本(渋谷発19:35,20:05,20:35,21:05,21:35)の4・5号車に設定されることとなりました。東横線には急行より上位の通勤特急、特急も走っている中で、急行列車に導入したことについては、不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。

 乗りものニュースの記事を見ると、東急電鉄の広報担当者のコメントとして、「(東横線は)他社線と交わるなど、現状ではターミナル駅での利用を多くいただいています。急行はターミナルとなる全駅に停車するため設定しました」とあります。

 しかし、その理屈であれば大きな主要駅に停車し、利用者も多い通勤特急や特急に導入してもいいはずです。となると、他にも理由があると考えられます。

 

(1)混雑激化を避ける

 一つ目の理由は、やはり混雑激化の防止でしょう。東横線の通勤特急・特急・急行は10両(一部の急行は8両)編成ですが、そのうち2両を指定席車両にするとなると、残り8両(6両)に乗客が集中してしまい、混雑が激化したり、最悪乗客を捌けなくなる危険性もあるため、通勤特急や特急、そして夕ラッシュのピークである17・18時台の列車を外した設定にしたと考えられます。

 

(2)導入しやすい列車から

 今回Qシートが導入された急行列車は、「全て渋谷始発の元町・中華街行きであり、東急東横線と横浜高速鉄道みなとみらい線しか通らない」という共通点を持っています。そのため、東急電鉄と横浜高速鉄道の間で話がつけばすぐにQシートを導入できます。

 通勤特急や特急は、基本的に渋谷から先の東京メトロ副都心線、さらには東武東上線や西武池袋線に直通する列車が大半を占めており、東横線・みなとみらい線だけで完結する列車が少ないという特徴があります。そんな列車にQシートを導入するとなると、東京メトロや東武鉄道・西武鉄道とも調整が必要になってしまい、導入が難しくなってしまいます。まずは導入しやすいところから、ということでしょう。

 

3.まとめ

 今回の東横線へのQシート導入の背景をまとめると、次の2点に集約されます。

 

(1)ピーク時を少し外した時間に設定してみる

(2)比較的導入しやすい、東横線とみなとみらい線だけで完結する優等列車(急行)に設定してみる

 

 今回のQシート導入はいわば”観測気球”であり、まずは導入しやすい列車にQシートを設定して利用状況や需要を見極めるというのが東急電鉄の狙いといえそうです。東京メトロの他の路線には、既に有料列車(ロマンスカーやTHライナー)が導入されているため、もし利用状況が好調であれば、東京メトロ副都心線からの直通列車にもQシートが設定されると思われます。

 今回は急行列車への導入という形になりましたが、特急ではなくあえて急行に導入したというよりも、「渋谷~元町・中華街間で完結する優等列車」だったから導入した、という言い方のほうが正しいでしょう。

 東急電鉄はこれまで、有料特急列車や指定席連結車両を設定していませんでしたが、コロナ渦や人口減少による減収ということもあり、Qシートを導入して客単価を高める施策を積極的に打つようになりました。

 東横線は利用者が多く、朝夕は混雑しているため、Qシートは一定の需要が見込めそうです。ライバルのJRは20年近く前から湘南新宿ラインにグリーン車を連結して走らせているわけで、快適性という面からみれば競争力を持てるともいえるでしょう。

 東横線のQシート導入を機に、利用がどのように変化するのか、そして今後どのようにサービスが展開されていくのか、注目です。