東急バスは6月12日、東急バスと小田急バスで共同運行を行っている一部の路線から撤退し、小田急バスの単独運行とするダイヤ改定を9月1日に実施する旨を発表しました。今回はこれについて分析します。

 

 

1.東急バスが撤退する予定である路線の概要

 東急バスが撤退する予定である系統は、大きく分けて次の3つです。下記リンクの東急バスの路線図とあわせてご参照ください。

 

https://www.tokyubus.co.jp/route/routemap/pdf/11_nijigaoka.pdf

 

 

(1)新23系統 あざみ野駅~あざみ野ガーデンズ~王禅寺東三丁目~真福寺~新百合ヶ丘駅

  <平日に1往復設定されている新21系統 あざみ野ガーデンズ~王禅寺東三丁目~真福寺~新百合ヶ丘駅も含む>

 

 東急田園都市線・横浜市営地下鉄ブルーラインが乗り入れるあざみ野駅から、すすき野団地や虹ヶ丘団地の付近を通り、小田急小田原線・多摩線の新百合ヶ丘駅へ向かう路線です。この路線は、現在計画されている横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸区間(あざみ野駅~新百合ヶ丘駅)と概ね重なっています。

 運行本数は日中に毎時4本、平日ラッシュ時は毎時6~7本、土休日の朝夜でも毎時3本確保されており、比較的本数は充実しています。

 

(2)新25系統 たまプラーザ駅~保木入口~稗原~田園調布学園大学前~新百合ヶ丘駅

 

 東急田園都市線のたまプラーザ駅と小田急小田原線・多摩線の新百合ヶ丘駅を結ぶ路線です。稗原~新百合ヶ丘駅間は尻手黒川道路を走行しており、田園調布学園大学への通学需要も担っています。この路線も、ブルーラインの延伸区間と一部重なる予定です(王禅寺~新百合ヶ丘)。

 運行本数は日中は毎時1~2本(概ね40分間隔)、平日朝夕ラッシュ時は20~30分間隔で運行されています。同じ新百合ヶ丘駅へ乗り入れている路線でいえば、新23系統のほうが圧倒的に本数が多くなっています。

 

(3)柿23系統 柿生駅~下麻生~早野~鉄町~上鉄鴨志田口~桐蔭学園入口~青葉区総合庁舎~市が尾駅

 

 小田急小田原線の柿生駅から東急田園都市線の市が尾駅まで、横浜上麻生道路の旧道を経由して結んでいます。運行本数は概ね40分間隔であり、朝夕は毎時3本程度確保されています。

 

 なお、(1)~(3)いずれも、運行本数は東急・小田急で半数程度担当しています。

 

2.横浜市営地下鉄ブルーラインの延伸が関係しているのか?

 

 (1)(2)を見ると、東急バスの撤退にはブルーラインの延伸が関与しているのか?と考えたくなるところですが、ブルーラインが新百合ヶ丘まで伸びるのは2030年の予定と、まだ7年も先なので、地下鉄延伸を理由に撤退するには時期尚早です。 しかも、(3)の柿23系統については、ブルーラインの延伸区間と全く関係ありません。以上のことから、今回の東急バスの撤退は地下鉄延伸とは直接関連はなく、別の理由があると解すべきでしょう。

 

3.東急バス撤退の本当の理由は何なのか?

 では、東急バスがこれら3路線から撤退する理由は何なのでしょうか。この3路線に共通していること、それはずばり、「他の系統との重複区間が多いこと」です。(1)~(3)の系統について、より詳しくみていきましょう。

 (1)新23系統の場合、あざみ野駅~虹ヶ丘営業所間は、同じ東急バスが運行する「あ27系統」とルートが完全に重複しています。この「あ27系統」は、あざみ野駅からすすき野団地を結ぶ路線なのですが、日中でも6分間隔、朝ラッシュ時はなんと3~4分間隔と、とにかく本数が多いのです。

 

 

 また、新百合ヶ丘駅~王禅寺中央小学校前間は小田急バス百02系統と重複しており、単独区間は横浜市・川崎市境付近のみとなっています。

 次に、(2)新25系統についてみていきます。たまプラーザ~元石川町間は「た61~63系統」が重複しています。この3系統を合わせると本数は比較的多く、日中でも毎時5本設定されています。

 

 

 続いて、たまプラーザ駅~保木入口・美しが丘西一丁目間についてみると、たまプラーザ駅と柿生駅を結ぶ柿01系統も利用できます。この柿01系統は日中でも概ね20分間隔で運行されており、比較的本数が多くなっています。

 

 さらに、新百合ヶ丘側に目を転じると、新百合ヶ丘駅~稗原間では川崎市バスの溝11系統(溝の口駅~新百合ヶ丘駅)、新百合ヶ丘駅~田園調布学園大学前間は小田急バスの新19・20系統と重複しています。単独区間は横浜市・川崎市境が通る稗原~美しが丘西の1区間だけとなっています。

 小田急バス・川崎市バスの路線図を下記リンクに貼ってありますので、あわせてご参照ください。

 

https://www.city.kawasaki.jp/820/cmsfiles/contents/0000008/8522/area4_2023.04.pdf

 

https://www.odakyubus.co.jp/regular/map/doc/mapE.pdf

 

 最後に、(3)柿23系統についてみていきます。これについては、市が尾駅~桐蔭学園入口・上鉄鴨志田口間で、東急バスが運行する「市43系統」と、柿生駅~桐蔭学園入口間では小田急バス「柿22系統」とそれぞれ重複しており、柿23系統の単独区間はありません。ここで、市が尾駅・柿生駅の時刻表を見てみましょう。

 

 

 

 桐蔭学園は生徒数の多い学校であり、市が尾駅からも柿生駅からもバス路線が伸びていて、交通拠点の一つとなっています。というわけで、市が尾駅~柿生駅の直通便がない時間帯でも、桐蔭学園入口で乗り継ぐことで移動できる場合もあります。

 懸念される点としては、柿22系統の日祝日の運行本数でしょう。平日・土曜の運行本数は多いものの、日祝日は日中に毎時1本程度、朝夕の運行本数が2~3本しかありません。そのため、川崎市側の日祝日の運行本数が少なくなりそうです。

 

4.まとめと今後の展望

 いかがでしたでしょうか。バス時刻表に起こしてみると、ほかの路線との重複がみられるということがお判りいただけたかと思います。路線どうしが重複してしまうと、限られたパイを分け合う形となりますし、ダイヤ的にも効率的とはいえません。

 

 現在、バス業界は新型コロナ禍の影響を受け、運賃収入が大幅に減少しています。さらに、少子高齢化に伴い、運転手不足も大きな課題となっており、東急バスや小田急バスも例外ではありません。

 今回東急バスが撤退予定の3系統は、いずれも東急バス虹が丘営業所の管轄路線であり、虹が丘営業所管内の運行を効率化しようということで、出した結論だったのでしょう。

 なお7月には、渋谷駅と成城学園前駅を結ぶ「渋24系統」が、小田急・東急の共同運行としていたところを、小田急が撤退し、東急の単独運行となることが決まりました。新百合ヶ丘側は小田急に一任する代わりに、渋谷~成城学園前は東急が特化することで、運行の効率化に繋げたいということと考えられます。

 最後に、これら3系統の9月以降のダイヤについて予想していきたいと思います。恐らく、このようになると思われます。

 

・利用者の多い便は小田急バスが運行を担い、現行通り維持する

・区間によって利用に差がある便については、系統を変更し、運行区間を短縮する。

(例:柿23系統 市が尾駅発柿生駅行き→市43系統 市が尾駅発桐蔭学園前行き)

・利用の少ない便はそのまま廃止する。

 

 例えば、朝夕の利用者が多い時間帯の便を、おいそれと廃止にするわけにはいきません。とはいえ、利用者の多い区間、少ない区間がどうしてもあるわけで、利用者の多いところにバスを走らせるというのは自然な流れでしょう。利用状況を踏まえたバス再編、ダイヤ改正がされるものと思われます。

 バス業界は厳しい状況が続いているため、減便は致し方ないと考えますが、そのぶん系統分断による乗り継ぎのロスや、運転間隔が大きく空いてしまうことが懸念されています。利便性低下を少しでも抑えたダイヤ設定を望みます。