前回の記事では、京急の2022年12月ダイヤ改正について分析しました。ダイヤ改正の概要と分析記事については、それぞれ以下のリンクからご覧ください。

 

 

 

 今回は、大規模なダイヤ改正を実施する背景について考えてみたいと思います。

 

1.減量ダイヤ実施の必要性

 

 京急の快特は確かに速いのですが、通過駅も多いため、通過駅のフォローのために普通のほか、エアポート急行を設定しています。

 しかし、新型コロナの影響を大きく受け、京急も減便をせざるを得なくなりました。そこで、快特の半数を特急に格下げし、特急停車駅の利便性向上&特急と普通が乗り換えられる機会を増やしました。

 例えば平和島駅では、今回のダイヤ改正で特急6本が停車するようになり、停車本数が倍増します。また、普通と特急の乗り換えができるようになるため、梅屋敷駅など特急通過駅の利便性も向上します。(画像は京急プレスリリースから引用)

 これは他の特急停車駅にもいえることで、例えば神奈川新町駅では「特急orエアポート急行ー普通」の乗り換えが可能となります。

 今回のダイヤ改正では、エアポート急行の減便により、羽田空港~金沢文庫間で毎時3本、総本数が減っていますが、その理由は上で挙げたような特急と普通の接続確保が図られ、快特をフォローするエアポート急行が過剰になったからといえそうです。

 

2.競合するJRとの関係

 京急は、JRと競合関係にあります。ここで、競合区間の所要時間等について比較してみましょう。所要時間は日中時間帯のものですが、1,2分前後することもあります。

 

(1)品川~横浜

JR東海道本線 毎時6本 17分 JR横須賀線 毎時4本 22分    300円(IC 293円)

京急快特   毎時6本 17分 京急特急(早朝深夜)  22分      310円(IC 303円)

 

 爆走する列車として有名な京急ですが、実はJR東海道本線の列車は非常に速いです。これは、JR東海道本線は停車駅が京急の快特より1駅少ないこと、各駅停車タイプの京浜東北線とは別の線路を走ることが主な要因となっています。よって、この区間は所要時間、運賃とも互角です。

 京急の泣き所には他にもあります。それは新橋や東京駅へ行く場合の利便性です。JRは東海道本線・横須賀線とも新橋や東京駅へ一本で行けますが、京急のほうは品川や泉岳寺で乗り換えとなることも多いうえに、東京駅へは一本でいけません。総じてみればJRが有利といえるでしょう。

 実際、これはデータにも出ていて、例えば京急の最混雑区間は都心近くの北品川~品川ではなく、戸部~横浜となっています。これは、横浜南部や横須賀方面から京急に乗り、横浜駅でJRへ乗り換えて東京都心へ向かう客が一定数存在することを示唆しています。

 

(2)品川~逗子

JR横須賀線  毎時4本 52分~58分 730円(IC  726円)

京急 快特・エアポート急行(上大岡乗り換え) 毎時6本 下り48分 上り51分  650円(IC同額)

 

 この区間の場合、横須賀線は大船駅で長時間停車する列車もあり、所要時間が安定しません。またルート的にも大回りなため、京急が有利となっています。しかし、東京駅や新宿駅へ一本で行ける点では、JRにも分があります。

 

(3)横浜~逗子

JR横須賀線                              毎時6本 30分~36分 350円(IC 346円)

京急 快特・エアポート急行(上大岡乗り換え)  毎時6本 30分        320円(IC 314円)

 

 一方、横浜~逗子となると少し状況が変わります。この区間は湘南新宿ラインも走るため、JR・京急とも本数は毎時6本となります。また、所要時間も互角です。総じてみれば京急がやや有利、というところでしょうか。

 

(4)品川~京急久里浜

JR横須賀線 80~90分 毎時3本 940円(IC  935円)

京急快特  52分    毎時6本 800円(IC 796円)

 

品川から横須賀方面は、全てにおいて京急の圧勝です。これは横浜~横須賀方面においても同様です。

 

 こうしてみると、品川~横浜はJR有利、品川・横浜~逗子は京急がやや有利、品川・横浜~横須賀・久里浜方面は京急が圧勝していることが分かります。快特を特急に変更して所要時間が数分伸びたくらいでは、横須賀方面への客がJRへ逸走することはないでしょう。微妙なのは逗子方面への往来ですが、改正後は金沢文庫もしくは金沢八景で快特・特急と逗子線の列車とを乗り継ぐことができるダイヤとなるため、現行ダイヤより利便性は下がりません。なので、快特を特急に変更しても支障はないでしょう。

 

※現行ダイヤでは、上大岡で快特と、逗子葉山発着のエアポート急行が乗り継ぎできるダイヤ設定になっている。

 

 最後に品川~横浜間の往来ですが、こちらは快特を最優先して策定された現行ダイヤで、やっとJRと同じ土俵に立てている状況であり、京急のほうが不利な立場です。それであれば、快特を特急に変更し、東海道本線や快特が停車しない地域の乗客を取り込む作戦にかじを切ったほうがよいといえます。

 以上の状況を踏まえ、快特の半数を特急に変更するという、大規模ダイヤ改正を実施することになったのではないでしょうか。

 

〇まとめ

 いかがでしたでしょうか。通過駅が多く、速い列車は魅力的なのですが、その分通過駅の利便性は下がり、減便せざるを得ない状況下では厳しい立場に立たされることが多いです。

 JRや近鉄などでも、停車駅の少ない速達列車の停車駅を増やしたり、普通列車に置き換えることで、路線全体の停車本数を維持しつつ減便する施策をとっており、京急もそうした形で減量を図らなければならないところに来てしまったということでしょう。

 そして、都心側ではJRより不利な状況に立たされており、沿線客がJRへ逸走しないように対策を講じる必要もあったわけです。

 そう考えれば、快特の一部を特急に変更し、普通列車と乗り継ぎできる局面を増やすという今回の改正は、現状に合ったいい施策であると私は考えます。ダイヤ改正後の利用の変化がどうなるか、引き続き注目です。