ハイスクール・ミュージカル ザ・ムービー
(原題:High School Musical 3: Senior Year)
2008年
監督
ケニー・オルテガ
データ
ディズニー・チャンネル・オリジナル・ムービーの特大ヒット作ハイスクール・ミュージカルシリーズの3作目・完結作品として2008年に劇場公開された青春ミュージカル映画。
シリーズ初の劇場作品であり、スタッフ・キャストをこれまでと変えずにウォルト・ディズニー・ピクチャーズとの共同制作として充分な予算を与えられて制作された本スタジオ公式の映画化作品です。
これはディズニーチャンネルオリジナルムービー発のいちケーブル用作品としては初となる大きな偉業となりました。
イースト高校の仲間たちが自身の将来について悩み選択する卒業シーズンの群像劇を描いた青春ミュージカルムービーの完結編。
監督はマイケル・ジャクソンの「THIS IS IT」を監督した事でも知られるケニー・オルテガ。
脚本はピーター・バルソッキーニ。
ハイスクール・ミュージカルシリーズの脚本を通して手掛け、今シリーズは彼の出世作となりました。
音楽はデヴィッド・ローレンス。
オリジナル楽曲の制作はマイリー・サイラスやヒラリー・ダフ、さらに日本の倖田來未さんにも楽曲を提供しているソングメイカーのマシュー・ジェラードとディズニー作品の楽曲を多数手掛けているロビー・ネビル。さらにディズニー映画「シュガー・ラッシュ」の楽曲制作でも知られるジェイミー・ヒューストン等。
大規模公開の劇場用作品でありながら何のテコ入れもなく、テレビ用の前2作品とほぼ全く同じスタッフ陣で制作がされています。
キャスト陣も一人も欠けることなく揃い踏みでの続投出演が実現。
主役のトロイを演じるのはザック・エフロン。
「グレイテスト・ショーマン」や「ヘアスプレー」等でも知られ、今シリーズが彼の大きな出世作となりました。
ヒロインでありもう一人の主役であるガブリエラ役にはヴァネッサ・ハジェンズ。本作の公開前に写真流出スキャンダルにて降板も噂されましたがディズニーは彼女の続投を決断し、無事に出演を果たしました。
2人のライバルとなるシャーペイを演じたのはアシュレイ・ティスデイル。声優として幾つかのディズニーアニメーションにも出演していて、2011年には彼女が主演を務めるスピンオフも公開されました。
シャーペイの弟ライアン役はルーカス・グラビール。
トロイの親友チャド役をコービン・ブルー。
ガブリエラの親友となるテイラーをモニーク・コールマン。
さらに今作では新たに三人のキャストがオーディションを経て出演。
シャーペイのアシスタントをこなす交換留学生役をジェマ・マッケンジー・ブラウン。
トロイのバスケ部の後輩役としてマット・プロコップ、ジャスティン・マーティンが新たに加わっています。
ディズニーチャンネル史上最大の大ヒット作待望の劇場版、そして完結作という事で公開前から大きな注目を集めた今作。
1000万ドル程の制作費に対して世界興行収入は実に2億5000万ドルを越える高成績を叩き出し、ミュージカル映画における最大初日収入や最大オープニング収入等の輝かしい様々な記録を打ち立てました。
ニコロデオンキッズチョイスアワード等の様々な賞も受賞し、MTV映画賞にはトロイ役のザックやシャーペイ役のアシュリー等が選ばれています。
サントラも大ヒットし、ビルボード初登場2位を記録。一作目で巻き起こったブームを大きく後退させる事なく完結作まで走りきり、有終の美を飾りました。
所謂セックス・ドラッグ・ヴァイオレンスを徹底排除したフルクリーンな青春劇、そしてCGを使わないファンタジー抜きのガチミュージカルでもある今シリーズ。
このような作品はこれまでもテレビを中心に制作されてはいましたが大ヒット作というのはあまりなく、このハイスクール・ミュージカルによって【フルクリーン青春ミュージカル】というジャンルが確立されたとも言われています。
以降ディズニーチャンネルを中心に今作を意識した似たようなコンセプトをもつ作品が多数制作されました。
同時に、一時低迷していたミュージカル映画人気を再燃させた立役者の一端としても広く知られています。
そして、何よりディズニーの新たなヒットラインをこじ開けたという功績も非常に大きく、ディズニーチャンネルのいちテレビ映画でもここまでの高収益を叩き出す事も可能だという事を見事に証明してみせました。
現在においてもアメリカはもちろん日本でも根強い人気を維持しているディズニーチャンネル伝説の作品として認知されており、2011年にはOVAでのスピンオフ長編がリリース、さらに新キャストでのテレビシリーズが2019年〜2023年にかけて制作されました。
今尚続編を望む声が後を絶たない人気シリーズとなっています。
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あらすじ
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240121/17/yuzupill/26/01/j/o0515029015392055434.jpg?caw=800)
イースト高校卒業を目前に控えたトロイやガブリエラらワイルドキャッツの面々。
バスケの大会で見事逆転優勝を決め、高校生活のイベントもあとはプロムと最後のミュージカルを残すのみとなった。
ケルシーとガブリエラの押しもあって一同揃ってミュージカルに出演することになったワイルドキャッツは早速練習をはじめる。
最後のミュージカルのテーマはシニアイヤー(卒業の年)。
恋に友情、そして未来。色々あった3年間。
それぞれの想いを胸に、ワイルドキャッツ最後のミュージカルが今幕を開けようとしていた…。
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感想
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240122/08/yuzupill/be/b3/j/o0515029015392295741.jpg?caw=800)
初の劇場用そして完結作品という事もあり、1作目と比べると実に約3倍の予算をかけて制作されています。
その結果、舞台装置、視覚効果、照明効果等が大幅にパワーアップしていてミュージカルシーンの見応えはシリーズ随一のクオリティです。
ただし、肝心のストーリープロットや全体の構成に関しては良くも悪くもいつも通り。
ファンタジーの域といっても良いほど不自然なくらいクリーンな高校生たちの、思春期の可愛らしいお悩みを描いた甘酸っぱい青春群像劇。
むしろストーリーの薄さは過去2作を上回っている感まであります。
大きな驚きも深い捻った脚本やドラマ性もほとんどなく、まるでシリーズを観てきたファンや、そしてここまでこのシリーズを大きくしてきたスタッフ・キャストの為の【ボーナス・トラック】のような作品です。
まさしくミュージカル。
レビューショーです。
1つの劇場用ディズニー作品としてそれで良いのかと思うかもしれませんが、今作に関しては間違いなくこれが正解だったと思います。
劇場用作品という贅沢な舞台を使って、これまでと同じメンツでこれまでと同じことをこれまでと同じファンに見てもらう…
映画化でありがちなスターキャストやクリエイター投入や大仕掛けのテコ入れも一切なし。
このシリーズにはそれをする権利があるでしょう。
ということですよね。
間違いなくこれはディズニーからハイスクール・ミュージカルへのご褒美です。
だからこそヴァネッサの不祥事も見逃したんでしょうね。
それほどこのシリーズがディズニーにもたらした功績が大きかったということを象徴する、そんな完結作になっていると思います。
※最後のお祭り
ストーリーはいたって大味。
卒業を目前にした若者達の、ありきたりな悩みをありきたりに描いてるだけ…と言ったら言い過ぎでしょうか。
しかもさらに言ってしまうと家庭環境にも才能にも容姿にも恵まれた、明らかに勝ち組な若者達のキラキラストーリーです…。
最早ここまで来るとこの点はこのシリーズの【欠点を通り越した武器】ですよね。
前の記事で語った、ある意味でのファンタジーです。
完結編の今作になってはじめて、この不自然なキラキラストーリーをこのシリーズは敢えて貫いてたんだなという事に気づきました。
ただ今作はストーリーは今までで一番なくらい薄味ですが、最後ということもあって、実は細かい部分で結構それぞれのキャラクターの成長の描写、制作陣の想いを盛り込んでる事が、少なくともファンには伝わるように出来ています。
トロイとチャドの友情がかなり丁寧に時間を使って描かれていたり、ライアンがシャーペイの言いなりじゃなく自分の意思で行動するようになっていたり、、
あとやっぱり個人的にはそのシャーペイが覚醒するシーンがすごく好きですね。
短いシーンなんですけど、自分に似たような存在が現れ居場所が脅かされたとき、改めて鏡を見ながら自分は誰かを再確認して、自分らしくいることを決意するんですよね。
そしてステージに戻る。
このシーンがホントに好きですね。
制作陣のこのキャラクターへの想い入れが全て詰まったシーンだったと思います。
それと【なるほど】と思ったのが、ガブリエラの存在。彼女が学校に来てから、顔を知ってるだけで無接点だったバスケ部や科学部、演劇部、タイプの違う子達が集まってワイルドキャッツというチームになった。
ガブリエラがチームの接着剤であり要だったという解釈が今作で突然言及されます。
正直後出し感は否めないんですが、言われてみればという説得力はあるんですよね。
ただのトロイとのロマンス要員ではなく、しっかりここに結びつけてくるのは素敵だなと思いました。
あともう一つ!
憎い脚本だなと思ったのはですね、最後のトロイの締めのスピーチです。
シャーペイとかケルシーとか、スタメン陣じゃなくて敢えてここでサブキャラのマーサとジークについて言及するんですよね。
この二人は脇役なんですけど、1作目で自分の殻を見事に破った、このシリーズの根幹のテーマを象徴してるようなキャラクターなんですよね。
まぁ細かいとこなんですけど、これをラストの台詞にあえてもってくるのは憎いな〜と思いました。
今までと違ったことをして新規層を取りに行く気なんかサラサラないよ!
今まで見てきてくれたファンへの恩返しだよ!
という割り切った制作陣の姿勢が透けて見えるような、そんなファンサービスだらけの映画なんですよね。
※圧巻のミュージカルショー
これはもう言うまでもないというか、今作の唯一無二の目玉ですね。
予算がかけられるようになった事で、全視覚効果や舞台装置、カメラワーク等の演出面が圧倒的に進化しています。
ただそこに頼るわけではなく、これまでの持ち味だった小物等を駆使したマンパワーによる圧巻のダンスパフォーマンスも健在なのがポイント。
これまでの作品以上にミュージカルが矢継ぎ早に繰り出されるレビューショーのような内容になっていて、1つ1つの密度も濃いのでミュージカル好きには堪りませんね。
あとやっぱり曲が本当に良いです。
今作は特に楽曲のクオリティがどれも素晴らしいですね。
特にラストの「High School Musical」という曲はまさにこの作品、そしてこのシリーズの真意を歌いあげた歌詞が印象的な最後を飾るのに相応しい一曲でした。
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まとめ
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20240122/13/yuzupill/6b/5f/j/o0515029015392378529.jpg?caw=800)
基本的に人気作品の続編というのは【前作を越えるテーマ性や目的】を持たせられるのかと言うのが大きな課題だったりします。
しかし、中にはこの作品のように【作ること自体が最大にして最高の目的】というような続編も稀に存在します。
前述したように、この作品は規格外の大ヒットを生み出したこのシリーズに与えられた【ご褒美】だからです。
世間的な評価がどうとか、新規層がどうとかそういう類いの作品ではなく、あくまで既存の制作陣、キャスト陣、ファンの為のご褒美。
そして文字通り卒業式なんですよね。
だから、これ以上の完結編はおそらくないだろうなと素直に見たあとに思いましたね。
最後のシーンはカーテンコール。
まるでこれまでの3作全てがミュージカルだったかのような演出で、役ではない素の表情をした6人のメインキャストを一人ずつアップで写し出し、この作品は終わります。
人気作品のシリーズって世の中に沢山ありますけど、こんなにキレイな終わり方、潔い終わり方のシリーズってなかなかないんじゃないかな、と思いましたね。
通してみると、本当に改めて不思議な魅力を持ったシリーズだったなとしみじみ思います。
ストーリーが面白いわけでは決してないのに、キラキラした若者達のミュージカルと【有無を言わせず無理矢理にでもポジティブな世界へ見ている人を引っ張り込むようなエネルギー】気付くと引き込まれています。
こんなことあるわけないと思いながらも、何故かこの圧倒的なキラキラのエネルギーに惹かれてるんですよね。
何故かこっちまで【今からでも何かできるかもしれない】とか思ってきちゃうんですよ。
伝染する青春と希望。
これがこの作品最大の魅力だと思います。
人が次々に死んだり、なんか悟ったような大人びた映画も良いですけど、こういうクリーンな青春映画が魅せてくれるストレートな希望も、やっぱり時には必要です。
特にこれからの世の中は、またそういう作品が求められる時代になってくるんじゃないかなと…なんとなくそんな気がしますね。
「ハイスクール・ミュージカル ザ・ムービー」は現在ディズニープラスで配信中です♪
はい。
というわけで!
今回はこの辺で。
いつも長文駄文にお付き合い頂き本当にありがとうございます。感謝です!
では、また次回!
しーゆーねくすとたぁいむー。